速読トレーニングをしたら、本当に「1冊3分で読んで理解・記憶」できるようになるんですか?
── そんな素朴な質問を、久しぶりに受けました。
確かに、広告の映像を見ると、哲学書をペラペラとめくって、すべて読めているとうたっています…。
速読の広告は理性的に判断すべきって話
まずさ、「合理的」「理性的」に考えてみましょうか?
ある速読教室の宣伝では、哲学書を見開き2秒くらいでめくる映像が出てきて「99%忘れない」とうたっています。
いいですか? 冷静にいきますよ。冷静に。
普通の人が、へたすると一週間とか1ヶ月とかかかって読む本を1ページ1秒とか2秒とかで「理解できる」と思いますか? 哲学者が人生を賭けて言語化した哲学を、ですよ。
ちなみに、私は1年以上前ですが、エーリッヒ・フロムの『自由からの逃走』という本(社会心理学の本ともいえるし、一種の哲学書とも言える本です)を読むのに、1ページあたり3分かかりました。3分かかっても、まだすっきり理解したとは言えませんし、だからこそ自分の思考を試し、自分の脳みその使っていない部分を使いこなす練習として読みました。
じゃ、その速読で「3分で哲学書を読み、理解し、99%忘れない」という「読んだ」とか「理解した」というのは、どういう状態、どんな基準なんだろう?って思いませんか?
2倍保証は「本物」たる自信の表れか?
でも、体験会でも2倍保証、できなかったら返金しますって自信満々のところいくつもありますよね?
それはそう。
でも、そこには実はマジックがあるんですよ。種も仕掛けもある。
最初はゆっくりにしか読めない状態を作って測定して、最後は「なんか理解できたかも」感で測定することで、2倍速って簡単に実現できるものなんですよ。
測定時間を1分以内に設定するのもマジックの重要な仕掛けなんです。
このあたりは、こちらの記事に解説していますので、興味があれば読んでみてください。
まぁでも、トリックを使えば「2倍速」は体験できるわけですが、その延長に「1冊3分」があるかっていうと、そりゃないだろうって話ですよ。
そもそも「読書」とはどういう行為か?
そもそも「読書」ってどんな行為でしょう?
著者のつづる言葉を受け止め、言葉のつながりを理解し、言葉の背景を汲み取り、自分の体験や前提知識と照らし合わせて理解する作業ですよね。
理解するというのは、著者の言葉を、自分の持っている材料で、自分が「わかった」と思えるように編集する作業なんですよ。
最初の話でいえば、自分が考えたこともないような哲学的な深い問いを、果たしてそうそう簡単に処理できるのかっていう、そういうめっちゃ普通の感覚で考えて欲しいんですよ。
読書の価値は「どう活かせるか」で考えた方がいいよというお話
そもそも普通の本を3時間かけて読んだとして、それを3日くらい経った後で、思い出して人に誰かに詳しく説明できますか?
たまたま憶えていたこととか、印象深いところだけではなく、全体像とか主張とロジックとかね。
普通の人は、だいたいできないんですよ。
読書って、意外と難しい作業なんだって、そういう認識を最初に持っておく必要があると思うんです。
そしてね、最後にもう1つ。
「速く読む」って、すごく響きがいいし、効率よく学べるのかって思うかもしれないんだけど、読書のゴールを「読んだものを未来の自分が使いこなす」こととして考えた時、「どれだけ役立つ状態で思い出せるのか」ってことを考えないといけないわけです。
果たして3分でぱらぱらっと眺めて終わった本と、何回も読み直してノートにまとめた本と、どちらが役に立つだろうかって考えてみましょう。
あ、そうだ。ちなみに、私も3分で1冊読める速読の先生を知ってます。10年以上前に訪ねていって、お話をしてきました。
でも、本人は言ってました。 「写真のように脳内にストックしているだけで理解してません。でも、いつでも取り出せます。理解しようと思ったら、それを最初から全部思い出して行かないと行けないんです。」って。
だからその先生、普通に読む本は、めっちゃ普通に読んでいらっしゃるそうです。
蛇足ですが、そういう写真のように記憶する能力って、DNAで決まるものなので、トレーニングでは身につかないことが分かってるんですよ。
次はもう少し冷静かつ理性的に速読ってものを考えてみたいと思います。
この「速読の科学」シリーズでは、速読とか読書というものを、もう少し冷静に(夢と妄想を捨てて)捉えてみようという意図で書き綴っていきます。
全体像は小冊子『速読の科学』にエビデンスとなる学術論文を引きながら丁寧に解説していますので、手っ取り早く知りたい方は小冊子をどうぞ(Amazon Unlimitedでも読めます)。
⇒【「速読の科学」紹介ページ】