「速読」というと「ちょっと難しそう」とか「天才だけができるのでは?」などと思われるかも知れません。
あるいは「速読を身につけられれば、右脳で処理して一気に理解・記憶できる」なんて妄想している人もいるかも知れません。
しかし…
速読って「読書の延長」にあるものなんですよ。
すごく当たり前のことですが…
そして、正しい速読法(速読スキル)をマスターすることで、今より高いレベルの読書が実現できることも確かです。
ですが、もしあなたが「実は、速読以前の問題として、読書そのものが苦手」と感じているなら、速読スキルのマスターよりも「速読戦略」を学んだ方が手っ取り早いし、効果的かも知れません。
速読を扱った研究でも、速読トレーニングを読書演習に採用することで読書力(理解力)とか本を読むモチベーションが高まるという効果が報告されているんです
例えば、今回ご紹介する研究は「英語を外国語として学ぶ(English as a Foreign Language;EFL)」教育でのお話。
読書の苦手な人が母国語の本を読むのよりも、さらに大変な状況ですよね。
そんなんで速読なんてできるか!
と思ってしまいそうですが、思いの外「効果あり!」だったそうですよ…。
速読:大学のEFL学生の戦略と認識
SPEED READING:UNIVERSITY EFL STUDENTS’ STRATEGIES AND PERCEPTIONS
論文はこちら。
この研究の目的は、読解プロセスのモニタリングを最大化することで英語読解力を高めること(かなり意訳)、とされています。つまり、「速読を身につけよう!」的なものではなく、「速く読む意識を持つことで、読みへの(モニタリングの)意識を明確にしよう」的なものなわけです。
実は第2言語のリーディングトレーニングの一環として「速読」が採用されることは多いんですよ。意外や意外。
ただし、この研究で扱われる「速読」というのは、目のトレーニングとか内声化を抑えるとか、そういう技術的な話ではなく「どうやってスピーディーに読みこなすか」という戦略的なものを指しています。
実際に使われた戦略として、次のようなものが挙げられています。
- スキミング;見出し+パラグラフの最初の1, 2行と最後の1, 2行だけを丁寧に読み、間の行を飛ばして大雑把な流れをとっていく読み方。
- スキャニング:「これを読み取りたい」という明確な問いや目的意識を持って、全体をざっと眺め、「ここか!」と思ったら丁寧に読む。
- 既有知識の活性化:今から読むテーマについて、知っていることを書き出す。前提知識と自動的に結びつく状態を作ってやると、読書スピードは上がるものなのです。
- プレビュー:読みはじめる前に全体を眺めておいて、どんな言葉が並んでいるか、どんな図やイラスト、表などが出てくるかを確認しておく。下見ができていると、トップダウン処理(コンセプトをつかんだ上での処理の自動化)が可能になりますので、当然、スピードが上がります。
そして、実際の速読トレーニングとしては「タイマー式読書(Timed Reading Training)」と呼ばれるものが採用されています。単に「時間制限を設けて、その時間で読み切る練習」をするわけですね。
結論としては、こういったトレーニングによって読書スピードが25%ほどアップし、理解度も若干アップ。
さらに、学生らの「読書へのモチベーションが高まった」としています。
その上で「速読のことをどう思うか」という件については、速読のお陰で読解力が向上し、集中してしっかり理解しようという意識が高まった…とポジティブに回答しています。
速読トレーニングで理解度は上がるの?
普通に考えると、読むスピードが上がると、理解が雑になってしまいそうな気がしますよね?
ですが、心理学その他の研究でも
速読トレーニングで理解度が上がる
とするものは多数存在します。
ただし、速読業者さんが宣伝する「スピードが劇的アップして、しかも理解度も上がる」というのは完全にウソ。
速読業者さんと速読研究者との違いは「想定しているスピード」です。
速読業者さんは1ページ1秒とか3秒とか言いますが、速読研究者の主張する「速さ」は「50%アップ」くらいがせいぜいです。
一応、心理学者の中には「2倍程度なら理解度を落とさずに読めるはず」とする研究者もいますが、「そこで想定している理解度って、どんなもんよ?」というツッコミも入りますので、2倍速という数値は学術的な現場ではあまりみかけません。
速読で理解度が上がるリクツ
では、50%とはいえスピードが上がって、しかも理解度まで上がるというのはどういうことなのか?
実はこの部分、過去に書いたこの記事に書かれています。
簡単に言ってしまえば、速読トレーニングを通じて、内面のモニタリング機能(能力)が高まって、読み方が改善された(それでスピードと理解度が両方アップした)というわけです。
今までは「読めないストレス」と戦いながら、視野狭く、がんばって(無駄な努力を振り絞って)読んでいたものが、戦略的に(ある意味で「割り切って」)読めるようになり、そのお陰で読書が捗るようになった、というわけです。
決して脳の潜在脳力が…みたいな話ではありません。単に「うまくやれるようになった」くらいの話として理解すべきものなのです。
速読戦略をどう使うか?
なので、もしあなたが読書が苦手…って思っているようなら、まずはそれほど難しくない本を使って、「速読戦略」を使う練習をして見てはいかがでしょう?
具体的には次のような手順を踏みます。
1.読書の目的を決める
フォーカス・リーディングでは「TPOを設定する」と言っていますが…
- Time(時間);読むのにかけていい時間を設定する(まさにTimed Reading!)
- Purpose(目的);何を得られれば満足か、逆に何を捨てても大丈夫か?
- Occasion(状況);今は下読み?ケリを付けたい読書?緊急案件?などの状況確認
こういったことをまず確認します。
2.タイマーを設定する
残り時間が分かるタイプのタイマーが、切迫感を伝えてくれていいですね!
3.最初にスキミングで下読み(preview)する
先ほど紹介した研究で使われた戦略を再掲しますと…
- スキミング;見出し+パラグラフの最初の1, 2行と最後の1, 2行だけを丁寧に読み、間の行を飛ばして大雑把な流れをとっていく読み方。
- スキャニング:「これを読み取りたい」という明確な問いや目的意識を持って、全体をざっと眺め、「ここか!」と思ったら丁寧に読む。
- 既有知識の活性化:今から読むテーマについて、知っていることを書き出す。前提知識と自動的に結びつく状態を作ってやると、読書スピードは上がるものなのです。
- プレビュー:読みはじめる前に全体を眺めておいて、どんな言葉が並んでいるか、どんな図やイラスト、表などが出てくるかを確認しておく。下見ができていると、トップダウン処理(コンセプトをつかんだ上での処理の自動化)が可能になりますので、当然、スピードが上がります。
これです。この「プレビュー」と「スキミング」をセットでやっちゃいましょう。
とりあえず、今から読む本をパラパラめくりながら、どんな章立てになっていて、どんな話が書かれていそうか確認するだけ!
これは慣れが必要なので、とにかく「決められた時間で終わらせられるように、ペース配分を考えながらやる」ことです。あくまでプレビュー(下読み)なので「あんまりよく分からなかった…」とかでも気にしない!
4.普通に読む
目的を果たすために読みます。
ただし、最初から最後まで普通に読むのではなく、下読みで得た情報を元に「割り切って飛ばす」ところと「丁寧に読むところ」、さらには「ノートに書き出すところ」をちゃんと分けましょう。こういう読み方こそが「戦略的な読書」なのです。
5.記録する
最後に、読んだ本、ページ数、かかった時間(プレビュー+普通の読み+記録など)をノートに記録しておきましょう。そして「目的としていた、手に入れたい成果」が得られたかどうかを確認します。
得られてなければ、もう1回読んで、ノートに書き出しましょう!
めんどくさがらずに、コツコツやろう!
こういう作業って、めんどくさ…と思ってしまうと、3日坊主になってしまいます。
「これで、自分の読書力が上がるぜ!」と信じて、楽しみながらやっていきましょう。
自分が欲しかった情報を書き出して、それをどこかで活かせたようなら、後日そのこともメモ。そうすることで「読書が活きてる!」って実感できて、モチベーションが上がりますよ。
ぜひ、苦手な読書を得意技に変えるために、速読戦略を採り入れてみましょう!