非科学的な速読を学んだ人から「速読って、文字は読めても理解できませんよね?」なんていう不思議な話をされることがあります。速読教室のFC展開をしているトップの方から同じようなことを言われて驚いたことがあります。
「読めた」とは「理解できた」ということであり、「理解出来ていない」ということは「読めていない」ということだし、それは「単に目を通しただけ」なのですよ。
ですが、フォーカス・リーディングを学んだ人の中にも「スピードは上がってきたのですが、理解ができません」という悩みを相談されることがあります。── まじか…!
“速読で頭に入らない”理由はこれだ!
「速読したら頭に入らない」と感じる最大の理由は、速さだけに囚われてしまい、そもそもの学習(読書)設計が欠けているから。
先に結論を言ってしまうと、
目的の明確化
→プレビュー①(前書き+目次確認)
→プレビュー②(全体構造の把握)
→理解読み(ポイントの把握)
→想起(リトリーバル)
→再読(リラーニング)
こういうアルゴリズム的な流れを読書の中にシステムとして組み込めば、速さと理解、そして記憶は両立します。
とはいうものの、速さを一定レベル以上に上げると、入ってくる情報が薄くなるのは間違いない事実。
なので、ここでは初心者でもすぐに再現できる手順に分解し、読み直しではなく想起(リトリーバル)で定着させる方法を解説します。まずは「なぜ頭に入らないのか」を正しく理解し、自分の読書の調整の方針を検討しましょう!
なぜ「速読では頭に入らない」と感じるのか
“速読 頭に入らない”は正しい!
「速く読んだら記憶に残らない」というモヤモヤは、ある意味でまっとうです。
読書の中で「読書(入力)スピード」は「自分が意図した理解を手に入れた結果、かかった時間」で決まるものであり、スピード単独でコントロールするものではないからです。
5つの要素で記憶に残す
読んだ内容の記憶を考える場合、次の5つの要素が正しくかみあっていなければなりません。
- 目的に基づく読み方・読む対象の選択
- 作動記憶(いわゆるワーキングメモリ。情報を一時的に保持しながら、同時に処理する脳の機能)への負荷管理
- 視野・視線移動の安定
- スキーマ(背景知識)の活性化
- 想起練習と間隔効果(スペーシング・エフェクト)
どれか一つが欠けると、理解にムラや欠落が生まれ、「読んだ時は理解した気分だったのに…」という状態で記憶が短命に終わります。
まずはそのメカニズムを理解しましょう。そして、記憶に残らない原因を分解して見える化できれば、解決のための手順が「なぜ効くのか」まで含めて見えてくるはずです。
①目的不在で「なんとなく」読む
目的が曖昧だと、情報の重要度の判断ができませんので、頭の中での「情報の整理」ができません。
「何のために、この本を読むのか」「何が手に入ったら満足か」という、たった一行の目的を設定するだけで、読書の理解と記憶は捗るようになります。
目的は理解と記憶の「フィルター」になるわけです。
まずはここができているか確認してみてください。
②作動記憶の飽和
内声化が強すぎる
文章を読むとき、私たちは黙読であっても頭の中で音として読み上げています(例外的に、まったく音にせずに処理している人も1割ほどいらっしゃるようです)。
この内声化は脳のリソースを消費し、作業記憶が飽和しやすくなります。結果として文脈の統合に使えるリソースが不足し、処理負荷が上がって理解が壊れがちになる、というわけです。
内声化を抑えすぎる
逆にフォーカス・リーディングをマスターして、内声化を抑える読み方をマスターした場合は、逆に「確認レベルの理解に偏ってしまい、記憶のフックがなくなる」ことにより思い出せない…という事態が起こりがちです。また、視野の広がりや視野の移動などを意識し過ぎて脳のリソースを無駄に消費してしまうこともあります。
③返り読みと停滞が多くリズムが崩れる
読みの最中に「?」となると…
読んでいて「?」となると、前に戻って読み直すしたり、立ち止まって考えたりすることになりますが、そのために理解の流れ、文脈の把握が悪くなる場合があります。
難しい文章を読むときに「???」となって声に出してみたら、やっぱり分からなくても前に戻って読み直して…そこが分かったと思ったら、そもそも「今、何を読んでるんだっけ?」となってさらに前に戻る…ということが起こりがちです。(英語の文章だと、さらにひどい状態になりそうですね…)
「?」への正しい対処
だからといって、ペンや指先で視線の移動をガイドしたらいいかというと、まったくそういうことではありません。
理解ができないから戻ったり立ち止まったりしたいのに、一定のペースで無理矢理流せば理解が壊れるのは言うまでもありません。
これは「一発で理解してしまいたい」というストレスを背負うから起こることでもあります。これを2回読み(重ね読み)を前提として、1回目は分かる程度に読み、2回目で理解がおろそかになった部分を中心に読み直すようにすると解消します。
④背景知識(スキーマ)不足で理解が浅い
先に調べる
知らない言葉(語彙)が多いと、そのたびに理解の流れが悪くなり記憶が断片化します。先ほどの「立ち止まったり、戻ったり」の極端なパターンですね。
ですから、重ね読みの1回目(これを「下読み」と呼びます)の段階で語彙を調べてメモするなどしておくと、2回目の読みが楽に進みますね。
前提知識を活性化させる
また、読み始める前、あるいは下読みが終わった段階で、その本のテーマについて知っていることや問題意識などをメモしておくだけで、スキーマ(前提知識)が活性化し理解の質が上がることが分かっています。
もし、知らない言葉や概念が多いようなら、下読みから丁寧に読んだ方がいいかも知れません。
例えば、得意なジャンルを1ページ3秒で下読みできたとしても、よく知らないジャンルの本であれば30秒かかるかも知れません。その時に「いつも通り」のつもりで機械的にペースを決めてしまうと「いつものとおり読んだはずなのに、まったく理解できなかった」という状態になってしまいます。
⑤「思い出す作業」をサボっている
長文は印象にすり替わる
私たちの読書の記憶というのは、長い文章になればなるほど、読み進めるに従って「印象」に置き換えられて、ぼんやりとしたものになってしまいます。これはどんなに丁寧に読んだとしてもそうです。
小説ならその場その場を楽しめればいいのですが、何かを学ぶための読書であれば、これはもったいないこと。
アノテーションとリハーサルが鍵!
では、どうしたらいいか?
まずは「目的」に沿って内容を整理し、ページの余白にメモを取るなど能動的に処理するなどの工夫をすることです。ただし、下読みの時は読み流すことを重視し、重ねて読む段階で処理することをお勧めします。
さらに、一章を読み終えたら、その章のまとめ(リハーサル)をしておきましょう。キーワードを5, 6個思い出す程度でも理解と記憶を強化する効果があります。簡単な要約のメモが出来れば最高ですね。
2回読んでも記憶には残らない
本を読んだ後に、もう1回読むという人もいると思います。しかし、目的の設定など、ここまで書いたようなことをせずに漫然と読んだとしても理解と記憶が強化されることはありません。心理学的な実験でも、2, 3回読んだとしても、理解・記憶はそれほど向上していないと結論づけているものがあります。
2つの方法を採り入れよう
実は、理解と記憶を強化する上で効果的だとされているのは「想起練習(retrieval practice)」です。
本を閉じたまま、ノートに主張や要点を整理しながら書き出す作業が記憶を強化しますし、その後にもう1度読み直す際の注意力を高めることが分かっています。
さらに間隔効果(spacing effect)で、直後だけではなく数日後に同じように想起することで記憶が飛躍的に安定します。速読で入力の速さを上げるほど、出力としての「章ごとの整理」と「読んだ後の想起(リハーサルとリトリーバル)」を大事にする必要があります。
「頭に入る」速読のやり方
先ほどの「頭に入らない原因」を踏まえて、それを解消するための方法を説明します。
各ステップは独立したものではなく、アルゴリズム的につながっています。一部だけを採り入れてももちろん効果は上がりますが、ぜひ、全体の流れとして実践に採り入れてみてください!
Step 1:目的の明確化
速く読もうがゆっくり読もうが、理解が曖昧になるのは「読む前の問い」つまり目的がないからです。
読み始める直前に、「読んだ後に、未来の自分に伝えたい(説明したい)こと」を短く書いておきましょう。マーケティング書を読む場合でも「今回の○○の案件で、xxxな課題があるから、…の具体的プランに対するヒントをつかむ」と設定できれば、不要な部分を軽く流し、「ここだ!」と思ったところだけをじっくりと読めばよくなり、それだけで時間短縮(スピードアップ)になります。
これが世に言う「スキミング(skimming)」なのです。
スキミングとはもともと「うわべをすくい取る」とか「かすめ取る」ような意味合いです。スキミング詐欺ってのは、相手の情報をかすめ取る詐欺ですね…。
Step 2:プレビュー(構造の先取り)
目的が決まったら、そこで攻略法を設計するために、全体像をつかみます。これが「プレビュー(preview)」です。
フォーカス・リーディングでは、前書きを丁寧に読んだ後、書籍全体を、構造にフォーカスして1冊10-20分ほどでスキミングしていきます。
そういう技術を持っていない場合には、次のような2段階で攻略します。
【プレビュー①;前書き+目次確認】
前書きを丁寧に読んだ後、目次を眺め、「ここは目的に合っているのでは?」と思ったページを実際に開いてパラパラと眺めながら、図表や章・節の見出しなどを確認します。
【プレビュー②;全体構造の把握】
書籍全体を気楽にパラパラと眺めていきます。この時は「読み取ろう」という意識は持たず、章のタイトル、節の見出しを中心に「この本がどういう構造で論を展開しているのか」を確認していくようなつもりで、全体をスキャンしていきましょう。
目的が明確だと、パラパラとめくっていくだけでも(想定としては見開きを3秒程度あるいはもっと速くていい)欲しい情報は目に飛び込んでくるものです。ただし、「探してつかむぞ!」と思わず、興味を持って気楽に眺めることをお忘れなく。
前書きと目次で当たりを付けて、その後に全体像を把握するつもりで流す。
Step 3:理解読み(ポイント把握のスキミング)
ポイント中心にスキミング
Step 1, 2で目的を明確にし、書籍の全体像がある程度つかめました。
ここからは「自分が知りたい中心的な主張(ポイント)」を中心に、全体をスキミングしていきます。すべてを読み取ろうとしないこと。自分の目的に適う箇所に限定して読んでいきましょう。
その時、まず中心的な主張をとらえ、その後で「なぜ、そうなのか」という根拠を確認するようにし、事例等のデータおよび「これはどういうことだ?」という疑問・不明点は「あとで必要なら丁寧に確認する」ことにします。
トップダウン処理でスピードアップ
読み進める際には、章のタイトルと見出しを適切に処理し本文を気楽に読む(眺める)ことで、トップダウン処理に切り替わり、情報処理をスピードアップさせることが可能です。
この理解読みの段階で、Step 4-5のアノテーション+章ごとのリハーサルも必ずおこないます。
まず自分の持つ目的に直結する主張をとらえ、その後に根拠を確認する。
Step 4:流れを止めないアノテーション(最小限のメモ)
「速読では頭に入らない(残らない)」と嘆く人は、読みの調節やメモ書きなどでリズムを壊している可能性があります。なので、読んでいる最中のアノテーション(メモ)は記録は最小限に抑えます。
例えば「赤:主張」「青:根拠・データ」「緑:後ほど要チェック」というように線の役割を事前に決めておき、無駄に意識を分散させ作業記憶を消費しないようにしたいところです。ただし、線を引いたときに「なぜ線を引いたか」を未来の自分に伝言する程度のメモ書きは遺しましょう。
流れを壊さないよう、事前にアノテーションの方針を作っておく。
Step 5:想起演習(リトリーバル)
章を読み終わる毎に立ち止まり、今読んだばかりの章を軽く思いだします。自分が知りたいと思っていたポイント、その根拠を、読書の目的と関連付けるようなつもりで確認します。(この作業はリハーサルと呼びます。)
章ごとにリハーサルをおこないながら読み進め、一冊を読み終えたら、最後に「この本から得られたものは何か?」と考え、全体のポイントを要約的に言葉として思い出してみましょう。自分が知りたかったポイントとそのロジック(主張+根拠)が整理された形で取り出せるのが理想です。
未来のあなたにクイズを出題!
この時、ノートか大きめの付箋紙に「この本のポイントを3つは?」とか「○○につながる考え方は?」など、ポイントや要点を思い出せるようなクイズをメモし、同時にその答えを口に出して言ってみましょう。付箋紙は表紙の裏に貼っておきます。
さらに「今日・明日からさっそく取り組むこと」など明日の自分へのバトンを設定します。この「1冊読み終えた後の想起」をリトリーバル・プラクティス(想起演習)と呼びます。
未来の自分にクイズを残し、後でクイズに答える。
Step 6:リトリーバル後の再読
翌日以降、できれば数日以内に本の表紙を眺めながら、本文を参照せずに、この本の主張と要旨を思い出してみます(リトリーバル・プラクティス)。さらに、表紙の裏に貼ってある付箋紙の問いに答えることで、自分がつかんだはずのポイントが淀みなく出てくるか確認しましょう。その後、全体をアノテーション部分を中心にスキミングしていきます。
このように間隔(時間)を開けて思い出し、さらに読み直す(relearning)ことで記憶が強化されます。
このように間隔をあけることで記憶を強化する効果を「間隔効果(spacing effect)」と呼びます。
ここまでの6ステップをアルゴリズムとして、スイスイと進められるようになったら速読・理解・記憶のすべてが整う最強の読書になります!
「速読で頭に入らない」あるある×10+即効リカバリー
「速読で頭に入らない」という悩みは、多くの場合「手順の脱線」から起こります。次の各項目に示されているようなワナに陥っていないか、常に確認しておきたいところです。
- 目的の設定ができてない・不明瞭:目的がないまま読み始めると判断軸が消え、章の役割(主張・根拠・事例/データ)が見えずに迷走します。
- アノテーションが気分任せ:ハイライトや付箋を無駄に量産して満足すると、アノテーション自体が目的化し本末転倒の事態に陥ります。
- 黙読(内声化)と音読の多用:黙読(内声化)・音読が強すぎると作動記憶が浪費され、さらに視野が狭くなり、スピードが下がるだけでなく理解も壊れがちです。トップダウン処理に切り替え、目的に照らして、臨機応変に「気楽に見て確認」と「丁寧に黙読」を切り替えていきましょう。
- 自分の知性を超えたスピード狂:未知語が多いのに速度を優先すると、単なる拾い読みになり理解が破綻します。
- メモを作りとリトリーバル不在:アノテーションとメモ書きを適切・最小限でおこない、最後に「未来の自分へのクイズ」を作って後日、思い出すきっかけにしましょう。思い出したら再読も必須です。
この5項目ができていないと感じたら、この記事を読み直して何をすべきか確認しましょう!
フォーカス・リーディングで読書の効果を高めよう!
私が九州大学大学院の7年半の研究で理論を構築したフォーカス・リーディングは、ここで解説したスピード・理解・記憶を整えることで読書の価値を最大限に引き出す科学的速読・読書法です。
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