速読って、本当に「速く読めて、理解も損なわれない」の?── そんな疑問は誰しもあると思います。
もちろん、速読といってもいろいろな人が様々なことを言っていますから、そもそもその速読ってどんな読書なの…?という疑念はあると思いますが。
フォーカス・リーディングで目指す速読とは次のようなものです。
- 速さを求めれば理解が損なわれる。速く読めるのは「概要を把握するため」という場合と、「平易な内容の書籍を読む場合」である。
- したがって、速読とは「目的やテキストの難易度に応じてスピードと理解のバランスをコントロールする読み方」である。これは読書研究の世界では「reading flexibility(読書の柔軟性)」と呼ばれます。
- これまでの調査では、一定の条件の下で読書スピードを測定した場合、「いつも通りの理解」を意図して読んだ場合、通常の読書の3-4倍速程度のスピードが得られる。
- ただし、一定のスピードで読み進めるものではない(=柔軟性を発揮した読み方)ので、読書スピードはあくまで「その本を読み進める際の平均スピード」となる。
- 「速さ」をうまく使いこなして読書の価値(学習効果)を高めるには、学習ストラテジーを採用して「速読戦略」として使わないとうまくいかない。
まぁ、当たり前過ぎる話かも知れませんね…。
速読トレーニングで得られる読書スピード
今までにもデータを公開してきましたが、「理解を損なわない読み方で、速読スキルを発揮した場合の読書スピード」はこんな感じになります。
こちらは2021年にレッスンを受講した大学生6人のデータです。
実験群というのが、速読レッスンを受けた学生さん。対照群というのは、速読レッスンを受けず、読書テストにだけ参加してくれた学生さん(こちらも6人)。どちらも同じ大学・学部の学生さんですし、読書量などをみても、両群に大きな違いはありません。
この読書テストの条件
結局、読書スピードとか理解度って、本の難易度、読みやすさ、前提知識、問題意識などによって様々に変わるものです。なので、この測定をおこなった条件を明らかにする必要があります。
- 読み物は「見出し」がついた説明的文章であり、内容は専門的なものではなく、文章も平易な内容、記述になっている。
- 自己啓発書は石井裕之著『心のブレーキのはずし方』、新書は齋藤孝著『コミュニケーション力』(岩波新書)である。
- 読み方の指定としては「事前」では「普段、自分が本を十分に理解できていると思って読む読み方で、立ち止まって考えたり、戻って読み直したりしない」、「事後」では、「普段通りの理解が得られるよう、フォーカス・リーディングのスキルを活かして読む」と説明している。
- 読書時間は約3分になるようにページ数を設定している。
⇒なぜ3分か?という話はこちらをどうぞ。【なぜ速読教室のスピード測定は「1分」なのか?】 - 読んだ後に、計算問題などを3分ほどこなしてもらい(短期記憶を壊すため)、20問の○×問題に取り組んで、理解度のチェックを行っている。
平均値でみると(斜めのグラフの始点・終点にある縦棒が、最大値と最小値を表しています)、自己啓発書で2倍少々、新書で3倍弱という結果です。
理解テストの結果は?
読書スピードがアップしたとしても、理解度が下がっていれば「単なる雑な読書」になってしまいます。
そこで、20問の「内容正誤チェック」に取り組んでもらいました。
正誤チェックということは「再認記憶」と呼ばれる記憶をテストしているということになります。
再認記憶というのは「見た・理解した内容を確認できる」という記憶であり、能動的に思い出せる再生記憶とは別モノです。これは理解したものであれば、かなり時間が経過しても高い再現率で「確認できる」ものなのです。
それに対して、再生記憶は読む文章が長くなれば長くなるほど低下することが分かっており、今回のような「それなりの文字数(事後テストでは約12000文字を読んでいます)」を読んだ場合、印象やポイントだけを思い出せる状態になってしまうので、「理解できているか?」という確認が難しいのです。
その平均点は実験群・対照群、自己啓発書・新書、事前テスト・事後テストを問わず、だいたい15点前後に収まっており、統計的に「どれも大した違いはない(有意差なし)」という結果でした。
理解の質はどうだろう?
さらに「理解の質」を確認するために分析を進めました。
実はこの20問の読書テストは6種類の問題からなっています。
- a;書籍中の意味段落内の言葉をそのまま使って、出現する順番を変えずに新たな問題文を作っている。(なので、「○」が正解)
- a’;aと同じように言葉を使って、元の文章と違う意味になるように問題文を作っている。(なので、「×」が正解)
- b;書籍中の意味段落内(もしくは複数の意味段落)の言葉をそのまま使い、出現する順番を変えて(つまり表現をアレンジして)問題文を作っている。(なので、「○」が正解)
- b’;bと同じように言葉を使い、元の文章と違う意味になるように問題文を作っている。(なので、「×」が正解)
- c;書籍に出てこない言葉を使って、書籍の内容に沿った内容の問題文を作っている。(なので、「○」が正解)
- c’;cと同じように書籍に出てこない言葉を使い、書籍の内容と矛盾するか無関係の内容の問題文を作っている。(なので、「×」が正解)
これで、a,a’,b,b’は各3問、c, c’が各4問、合計20問にしています。
a’, b’, c’のような問題をディストラクタ(間違った選択肢)と呼びますが、普通に呼んでも間違いやすい(正解と勘違いしてしまう)ことが分かっています。
速読で適当に読んでいたら、ディストラクタにひっかかるのではないか?ということで「読みの雑さ加減をチェックする」ために入れてます。
その結果がこちらのグラフ。ちょいと見づらいのはご容赦を。
これは事前と事後とで読んだ文字数もテストの難易度(構成)も違いますので、前後比較はせず、単に「対照群と比べてどうか?」を確認していただければと思います。
新書については合計得点で有意差なしとはいえ、やはり「対照群の方がスコアが高い」という傾向がありますね。
まぁ、もっと根本的なことを言ってしまうと、丁寧に読もうが、速読で読もうが、一回しか読まず、立ち止まりも返り読みもしなければ、読みは雑になってしまう傾向にあるということです。
結論
これだけの人数とテストでたいそうなことは言えませんが、とりあえず平易な本であれば新書くらいまでなら、理解をあまり損なわずスピードを2〜3倍にアップできる可能性が高いぞ、といっていいかと思います。
反論は受け付けます。はい。コメント欄に遠慮なくどうぞ。
トレーニングの内容は…
実際におこなったトレーニングの内容については、小冊子『速読の科学』に科学的根拠となる学術論文を示しながら解説していますので、そちらを参照してください。フォーカス・リーディング集中講座の録画映像を1ヶ月間、無料視聴できる特典も付いていますので、ぜひこの機会にお求めください。(^^)