速読教室の宣伝を見ると、こんな話がやまのように出てきます。
速読でたくさん本を読むようになって、語彙と知識が増えて仕事の成果が上がりました!
速読の宣伝の定番と言っていいかもしれません。
確かに、速読でたくさん本を読むようになって人生を好転させた例は、フォーカス・リーディングの受講者さんの中でも枚挙に暇がありません。
しかし、「速読で人生が変わる」ことが本当だったとしても、そこには一定の「条件」のようなものが存在します。
あまり大きすぎる夢は描きすぎない方がいいかも知れません。
例えば、Twitter(X)上には、速読教室のインストラクターさんたちがたくさん発信しています。みなさん、異口同音に速読のメリットを宣伝するんですよ。
- とにかくたくさん読めます。1日2冊とか余裕です。
- 普通に一字一句を理解できるし、記憶できます。
- 知性が爆上がりして、人生が好転します。
- 脳トレになって、クリエイティブになれます。
今まで私が見かけた「速読すげーアピール」はこんな感じでした。
ポジショントークとして語っている部分もあるでしょうし、本心からそう思っていることも多いと思います。
でも、現実はそうそう甘くないことも確かなのですよ。
例えば、あなたが学生時代、本を丁寧に一読したら国語の試験で満点が取れたか? 教科書を一読したらテストで合格点が取れたか?── 絶対にそんなことはありませんよね。(そういう人は東大か海外の有名大学に行ってるでしょうし、こんなブログを読んでないはず。)
実は読書って大変なんですよ。
丁寧に読んでも理解が上がるわけじゃないし、3回読んでも理解と記憶は変わらないし、たくさん読んでも知性が高まるわけではありません。
ベネッセ教育研究所が出した小中学生の「読書量と学力の関係」の調査結果を見ても、それが分かります。
要するに、何が言いたいかというと、
速読は読書の延長に過ぎないよ。
でも、あなたの読書の弱点とか欠点を補う力があるよ。
ただし、それは科学的な観点からみて効果がある方法を採用しないとダメだよ。
こんな話なのですよ。
速読で読める本、読めない本
「速読は読書の延長」というのは、何を意味しているのか?
それは、
- 速く読んで理解が壊れない本と、速く読むと理解が崩壊する本がある。
- そもそも速く読めない本がある。
- 速く読んでも、ゆっくり読んでも「一回の通し読み」だと、理解・記憶は不完全。
- 記憶に残そうと思ったら、効果的な学習法を採用する必要がある。
そういう話なんですよ。
「速読」は次の式で表現することが可能です。
速読=スキーマ×心身のコントロール×フォーカス
スキーマというのは、長期記憶、読書経験値、読書力そのものです。
トレーニングで変えられるのは「心身のコントロール」技術の部分だけ。
速く読んでも理解できる本というのは、あなたが気楽に読んだ時、一読して理解できたと感じられる本です。
この場合の速読というのは、だいたい「1ページ6-9秒でいつも通りの理解」が得られる読み方です。
あなたが丁寧に読むぞという意識を持って、それなりに丁寧に読めばだいたい分かるかな、と思える本だと、もう少しスピードが落ちます。だいたい「1ページ12-20秒でいつも通りの理解」くらいに落ち着きやすい。
これらの本を「ざっと読んで、概要だけつかもう」と思ったら、だいたい「1冊(180-250pくらい)を10-20分で流し読み(スキミング)できる」くらいです。この「丁寧に読む」とか「ざっと流す(スキミングする)」というのがフォーカスです。
逆に専門的な本、哲学的な本、レトリックがこみ入った本など、じっくり熟読しないと理解できない本というのは、速読しようとすると崩壊します。
小説などは「その人次第」です。
速読で多読すると賢くなるのか?
たくさん読むと賢くなるイメージってありますよね?
でも、上に紹介したグラフから分かるとおり、「多読の子=賢い!」ではありません。
そもそも、「賢くなる」とか「頭の回転が速くなる」というのは、読書を通じて知らなかったことを知ることであったり、今まで理解できなかったことを理解できるようになることだったり、何か新しいことを吸収出来たときです。
そういうものって、さらっと読んでも理解・吸収できないものなのです。
言葉を吟味し、著者と対話し、丁寧に前後の文脈をつなぎながらでないと理解できません。
これは熟読玩味という世界であり、速読の対極にある読み方です。
もちろん、今のあなたの知性を前提として「現在の知性のポテンシャルを最大限に引き出すような大量の情報を摂取する」ということは可能です。
これなら、今の自分で速読できる本を大量に読むことで知性をレベルアップできます。
しかし、本当の意味で「賢くなる=今までと違う次元でものごとをとらえ、考えることができるようになる」には、上記のとおり「速読すると理解が崩壊してしまう」レベルの本を熟読玩味する必要があるのです。
喩えて言うなら、あなたの英語力が変わらなくても、語彙が増えると、それだけで英語が分かるようになりますよね? でも、英語力そのものを高めることでしか手に入らない英語力というものもある…そんな話です。
速読で賢くなるために、何が必要か?
そういうわけで、「速読で賢くなるか?」と聞かれたら「なりません」と断言します。
「速読は脳トレになるか?」と聞かれても、「速読で語彙が増えますか?」と聞かれても、「無理です」とこれまた断言します。
速読で賢くなることはなく、あなたの賢さのレベルに応じた速読が可能なのです。
それでも、速読で多読ができると世界が広がります。
ものを見るときのフィルターが手に入りますので、世の中を観る眼が変わります。
情報が蓄積することで、判断が正確・迅速に下せるようになります。
そして、それは「1冊10分で速読して終了」の成果ではなく、「速読を活用して、学習効果の上がる本の読み方を実現」した成果です。
例えば戦略的な読書(学習)法として有名なPQRS(Preview;下読み,Question;問いの設定,Read;理解読み,Summarize;要約・まとめ)など、フォーカスと機能を変えながら何度か読み重ねる手法を採用して読む必要があります。
大前提は「ゆっくり読んだって、一読して終わらせれば成果にはつながらない」という、当たり前のこと!
いたずらに速読で多読を楽しんでも、それじゃ何のメリットも得られません。読んだ気分を味わうだけ。
PQRSで3回読むことで理解と記憶が確かなものになる、と理解しましょう。
速読でたくさん読めるってことは、自分が楽勝でできることを楽しんでいるってことなんですよ。
バスケの初心者が、難しい基本のハンドリングとかせずに、シュート練習ばっかりやって「楽しーっ!」って言ってるのと同じ。
楽しいかもしれないけど、君は強いチームで闘えるようにはならんぜよ、と。
いや、シュートがうまくなるならいいんじゃない?って考える人もいるだろうけど、「ハンドリングがうまくならないと、そもそも試合に出してもらえないぜ」という事実が見えていないんです。
なので、読書を通じて人生を変えていきたいと思うなら、速読をマスターして多読を実現して人生を豊かにしたいと思うなら、次の2つのことを忘れないようにしましょう。
(1)速読で「量を稼ぐ」ことばかりに意識を向けず、学習効果を上げるための“戦略的な読書”にフォーカスし、速さを有効活用できる読書法を学びましょう。
(2)速読と並行して、絶対にゆっくりしか読めず、一回読んだくらいじゃ理解できない本をじっくりと読み解き、思索に耽り、思考回路と脳を鍛えていくことも忘れないようにしましょう。
その具体的な方法については、またいずれ。