世の中、動画全盛時代です。ありとあらゆる教材が映像化されていますよね…。
AIの登場で動画の生成、編集が手軽になった分、これからも良質の映像教材は増える一方なのでしょう。
ただ、映像というのは書籍と違って「時間軸メディア」という特性を持っています。先に進むには時間をかけるしかなく、前後へのワープが書籍と比較して極めて困難です。
なので、魅力的な映像教材があふれる一方で、時間はますます限りある資産として希少になり、あなたが気になった映像のすべてを消化するのは至難の業です。
本なら速読技術をマスターすることで、最大10倍速くらいまでは(理解度を犠牲にしながら)調整可能です。これが空間軸メディアならではのメリットです。時間のコントロールを自分が握ることができるわけです。
動画の場合は「時間がないから倍速再生だ!」となるわけですが、果たしてそれは本当に効果的な映像学習(視聴)になっているのか?── かなり疑問が残りますよね。
実際のところ、効率と学習効果はトレードオフの関係にあるのか?
最新の研究の知見を基に解説してみたいと思います。
ちなみに、2008年に出版した『フォーカス・リーディング』の中では、「1.7倍速まで」を無理なく視聴できる限界として推奨しています。
ノーマル速度の学習は効果的なのか?
元の動画のトークのスピードや間のとり方などに影響されるであろうことは予想出来る話です。
とはいえ、一般論として語るなら「等倍速」での視聴は、学習効果がそれほど高くないことが分かっています。
これを当然と考えるか、意外と考えるかは、どのような動画を視聴しているかにもよるかも知れませんね。
Moらの研究(2022)によると、学習効果が最も高かったのは1.25倍速と1.5倍速であり、通常速度(1.0倍速)はそれに及ばなかったとしています。
Mo, C. Y., Wang, C., Dai, J., & Jin, P. (2022). Video playback speed influence on learning effect from the perspective of personalized adaptive learning: A study based on cognitive load theory. Frontiers in Psychology, 13, 839982.
日常的にタイパ重視で2倍速視聴している人はガッテンすると思いますが、話すスピードが遅いと視聴者(学習者)の注意が散漫になりやすい傾向があるわけです。中程度の認知負荷が重要ってわけですね。
もちろん、負荷が大きすぎる(再生速度が速すぎる)と、今度は情報処理が追いつかずに破綻する可能性があります。
では、学習効果が最大になるような、簡単すぎず難しすぎない、脳にとって「ちょうど良い」刺激は何倍くらいなのか? 気になりますよね。


何倍までなら高い学習効果が得られるのか?
タイパ重視で倍速視聴を標準にしてしまっている人に朗報です!
Murphyらの研究(2022)では、動画の再生速度を1.5倍速、さらには2.0倍速に上げても、学習内容の理解度は通常速度の場合と比べてほとんど低下しないことが示されたのです!
Murphy, D. H., Hoover, K. M., Agadzhanyan, K., Kuehn, J. C., & Castel, A. D. (2022). Learning in double time: The effect of lecture video speed on immediate and delayed comprehension. Applied Cognitive Psychology, 36(1), 69-82.
この研究では2.5倍速を超えると学習効果が著しく低下し始めたとしています。脳の情報処理能力を認知負荷が超えてしまったわけです。そう考えると「2.0倍速が実用的な上限」と考えてよさそうです。
ただ、これも学ぶ内容次第であることは予想出来る話ですよね。
実際、Songらの研究(2018)では、医学生が「超音波」という全く新しい専門分野を学んだ際、1.5倍速で成績の低下が見らたそうです。予備知識が全くない複雑な内容では、認知負荷が極端に高まるため、最適な速度は上記の2.0倍速よりも遅くなるぞ、というわけです。
ちなみにTharumalingamらのメタ分析研究(2025)では、文系科目(歴史・倫理・哲学・文学など)の講義だと、内容の抽象度が高くなり、論証やテキスト依存度も大きいため、1.0~1.25倍速付近で成績が最も安定し、1.5倍を超えると理解テストでの成績低下が生じやすいことが指摘されています。
Tharumalingam, T., Roberts, B. R., Fawcett, J. M., & Risko, E. F. (2025). Increasing video lecture playback speed can impair test performance–A meta-analysis. Educational Psychology Review, 37(2), 1-27.
この3つの知見を整理すると、自分にとって予備知識の少ないジャンルを学ぶ際には1.5倍速くらいまでにしておいて、そうでない内容であれば、2.0倍速まで大丈夫ということになりそうです。つまり、1.25倍速から2.0倍速の範囲は、学習効果を損なうリスクが低く、むしろ集中力を高める効果も期待できる「動画学習のスイートスポット」といえるわけです。


あなたの最適速度を見つけよう!
そういうわけで、TPOを問わない「絶対的な最適速度」はありません。最初に紹介したMoらの研究では、個人の特性によって最適なスピードが異なることを指摘しています。
ちなみに「個人の特性」というのはこの2つの要素。
- 元々の知識レベル(学習能力): その分野について詳しい高いレベルの学習者は、1.5倍速で最高の成績を収め、知識が少ない低レベルな学習者は、1.25倍速で最も高い学習効果を示したとのこと。自分の知識レベルに合わせて速度を調整することが重要ですね!
- コンテンツの専門性(相性): 専門的なプログラミング言語の講義動画を視聴した際、理系の学生は1.5倍速でも高い成績を維持しましたが、文系の学生は成績が低下したそうです。そりゃそうだ!という話ですが…
これらのことから導き出せる結論はシンプルです。
内容(タイトルなど)からおよその当たりを付けて1.5倍速からスタートして、難しそうと感じたら1.25倍速に落とし、平易に感じられたら1.75倍速⇒2.0倍速まで上げてみるというアプローチを採用しよう!


「タイパで再投資」という学習戦略
速さをタイパのために使うのはもったいないぞ、というのが、Murphyらの意見です。
節約した時間を「どう使うか」が、学習効果を最大化する鍵になるぞ、と。
具体的には次のような2グループでテスト結果を比較しているのですが…
- グループA: 1週間前に、動画を1倍速で1回だけ視聴
- グループB: 1週間前に2倍速で1回視聴し、さらにテスト直前に2倍速でもう1回視聴
A, B両グループとも学習時間は同じですよね。
ですが、テストでより良い成績を収めたのはグループB!
その理由は2つの学習原則の組み合わせにあります。
1つは、時間を空けて復習することで記憶が強化される「分散学習」。
もう1つは、テスト直前に学習した情報の方が記憶に残りやすいという「リーセンシー効果」。ちなみに、2回目の視聴では内容への馴染みから認知負荷が低下し、より深い理解や記憶の定着が可能になるとされています。
ということで、もしあなたが何かのテストに備えて映像教材で勉強するなら…
まず一度2倍速で視聴して全体像を掴み、そこで節約できた時間を使って、後日(テスト直前)にもう一度2倍速で復習する。
ただし、長期的な記憶に残す場合には、恐らくこの方法だけでは難しいと考えられます。
長期記憶に残すには、間隔を空けて「思い出す」作業、つまりリトリーバル・プラクティスが必要になると考えられます。(とはいえ、その話は今回の論点とはズレるので、また別の機会に!)
結論
映像だけで学習する場合、再生スピードを効果的に調整することで学習効果が高まります!
とはいえ、スイートスポットを見つけることも重要ですし、浮いた時間で復習するということも忘れないようにしたいところですね!













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