資格試験に限ったことではありませんが、いろいろな人が“これで大丈夫!的勉強法”を発表しています。
でも、残念なことに、それをまねしてやってみたところで、なかなかうまくいかない。
「いや、尊敬する○○さんが書いているんだから、信じてやろう」なんて思って時間と労力の無駄が生まれ、モチベーションが下がっていく・・・。そんな不幸がたくさん起こっています。
その最たるものが、これ。
テキストのボリュームも大きいし、効率を考えれば、やっぱ過去問に絞った方がいいですか?
“やっぱ”って、なんで「やっぱ」なんでしょうかね。(^^;
昔ベストセラーになった宇都出氏の『速読勉強術』を初めとした資格試験学習の指南書に、「効率よく勉強するために、過去問からやりましょう」なんて書いているものが結構あるみたいなんです。
そういうのを読んだ人は、
そっか、効率よく学習しようと思うなら、過去問をテキストにするのが常識なんだ!
なんて思ってしまうわけです。
ひょっとすると、学習塾で学んだ人達が、「そういえば、学生時代も教科書を読まずに、ひたすら塾のプリントで勉強したよな!」なんて思っているのかも知れません…。
ヽ(`(`(`(`ヽ(`Д´)ノ ちゃーう!
違います。完全に間違いです。
何が違うのか? では、どういう勉強をしなければならないのか、科学的な学習法という観点からご説明いたしましょう!
その主張は誰が、どういう文脈でしているのか?
学習法を語ろうとするなら、それが多くの人に当てはまらないと意味がありません。
では、あなたが読んだ(知っている)「勉強のノウハウ」を語っている人はどういう人なのでしょうか? その人の学力や前提知識(元々知っている知識)は同じレベルでしょうか?
例えば『速読勉強術』の宇都出さん。彼はあなたと同じレベルの人でしょうか?
宇都出さんは東大・経済学部卒。さらに、ニューヨーク大学に留学してMBAを取得した方です。背景知識が全然違うんですよ。学習の能力も、学習の細かなノウハウも。
ぜひ想像してください。
- 英語を初めて学習する人が、いきなりTOEICの過去問から取り組むだろうか?
- 中学校の新入学生が「よし、これから高校入試をにらんで、入試の過去問をやろう!」と考えるだろうか?
あなたの取り組もうとしているものが、こういう極端な例と何がどう違うのかを考えて欲しいのです。
何を学ぶにも「手順」がある!── KWHLストラテジー
資格試験だけでなく、中高生の勉強でも、スポーツでも、音楽でも、何を学ぶにせよ、「手順」というものがあります。
最初にすべきは、自分は何をどの程度知っているのか、という前提知識の確認です。
資格試験でも、ある程度、前提知識があればいきなり過去問に取り組んで問題ありません。例えば、私は漢字検定2級を息子に付き合って受験したことがありますが、1時間ほど過去問のテキストを眺めただけで合格しました。それは私が大学で読書法の指導をしていたり、社会人の方の文章指導をしていたり、日常から難しい漢字を書く習慣があったから可能だったわけです。
こういう状態をreadyness(レディネス)と呼びます(レディネスは、正確にはもう少し広い意味ですが…)。
それを確認した上で、何をどう勉強するかを検討しなければなりません。
この勉強のプロセスを俯瞰して、現状を確認して、無理と無駄のない学習法を考える手法をKWHL strategyと呼びます。
- K:What you already KNOW about the subject.(その教科について、すでに知っていることは何か)
- W:What you WANT to learn.(何を学びたい・手に入れたいのか)
- H:HOW you can learn more about the topic.(どうしたら、さらに学習を進められるのか)
- L:What you LEARNed after studying.(学んだ後、何が身についたのか)
「過去問から取り組むべきか?」という話は、このKとHに絡むわけです。誰かがやったことが自分にも効果があると勘違いしてしまうと、とんだ回り道をしてしまうことになります。
大切なことは、自分の状況に応じて、正しい手順を踏まえること。
自分のレベル(What I already know)にふさわしいやり方、正しい学習手順で取り組んでいきましょう!
正しい学習手順を考えるために…
学習には正しい手順があると言いました。正しい手順を考える第一歩として、次のようなことを確認しておく必要があります。
- 自分が取り組もうと思っている学習は、本当に自分が目指す目的にふさわしいものか?(例:その資格を取得したら、仕事に本当に有利なのか?)
- 自分が取り組もうと思っている学習のゴールを、どのレベルに設定すべきか?(例:ぎりぎりでも合格点を取れればいいのか、満点を目指すくらいのレベルを目指すのか?)
- 背景知識をどの程度、持っているのか?(用語は?概念は?現場のイメージは?)
下の図は、ゴールまでの学習の流れを、4つのフェーズに区分して示したものです(詳しいことは後半で説明します)。
図中の4つの問いについて考えるのがKWHLストラテジーであり、最重要は上半分の2つの問いなのです。
右上の部分については、学習に取り組む前に考えておかなければなりません。
その次が左上。全体を俯瞰し、知っていることと知らないことの確認をしながら、学習の進め方を考えなければなりません。
上半分の2つの問いについて考えることで、
- 「よし、じゃぁ基本問題から丁寧にやろう」
- 「いきなり過去問に挑戦しても大丈夫だな」
- 「やっぱりまずは身近な勉強会から参加してみよう」
といったような、自分にあった取り組み方が見えてくるものなのです。
そして、学習に取り組む最初のテキスト(作業)が決まれば、目指すゴール(完成度のレベル)に応じてUプロセスを機械的に組んでいくだけで問題ありません。
ちなみに、先ほどご紹介したUプロセス学習理論に基づいた、理想的な学習手順はこんな感じになります。
このUプロセス学習理論は、何かを学ぶ際、どのような道筋をたどるのかを図解化したものであり、先ほどの図の具体的な学習プロセスを示したものです。
過去問への挑戦は、通常右側のプロセスで使います。過去問にいきなりチャレンジするほどの前提知識がないのであれば、この図の左側の部分(左上から左下へのプロセス)をたどりながら、少しずつ知識を積み上げていくのが正攻法(王道)です。
では、具体的にどのような学習の進め方が理想的なのか、あなたにあまり前提知識がない分野について学習する場合のテキストの読み込み方について解説していきましょう。
Uプロセス学習理論式テキスト5回繰り返し読み
1回目:概観(ざっと眺める)
もしあなたに十分な知識がないのであれば、気楽に学習(試験)に関する全体像をつかむ必要があります。
試験の手引き書や、入門書などを丁寧に読んでもいいでしょうし、学習参考書を分かる程度にざっと通読するというのも1つの効果的な方法です。
学習参考書(学習テキスト)を1ページ6から10秒くらいのつもりで、ざっと読み流していきます。
速読をマスターしているのであれば「だいたい分かる」くらいの入力レベルで。そうでなければ「気楽に眺める」でOK。
2回目:分かる程度に読む
2回目はそれなりに読みます。ただし、「分からないところを確認する」という気持ちで。
分かろうとするとストレスがかかりますので、一読して難しい!分からない!と感じたら付箋を貼ってそのまま流します。
3回目:分からないところを、それなりに分かろうとして読む
上の図中の「3.不明点・難解部分の攻略」を、この3回目の読みと4回目の読みの2回にわけておこないます。
先ほど付箋を貼ったところを中心に読みます。
分からなかった部分を分かるために読むのですが、それでも時間がかかりそうな部分は「後で処理」の付箋を貼り、「なるほど、分かった!」となった部分の付箋は剥がしていきます。
4回目:残った付箋部分を徹底解決
上の図中の「3.不明点・難解部分の攻略」の続きです。
残った付箋部分は、基本的に「分からない」部分なので、先生に聞くとか、詳しい参考書を読むとか、ネットで検索するとか、何か手を打ちましょう。そして、それを1冊「難解部分専用ノート」に図解するなど工夫して整理しておきましょう。この「ノートに整理する」こと作業が記憶を強くしてくれます!
5-7回目:ひたすら通読
4回目で分からない部分は解消したはずですが、全体像はまだつかめていないと思います。そこで、気軽に全体を通読しながら、理解を厚くしていきます。
その第一回目は、あまり丁寧に読もうとせず、全体をスキミングしながら「全体を再確認(復習)」する読み方です。(図中の「4.ポイント中心のスキミング」)
その後、2-3回ほど丁寧に通読し、「目を通しただけで、すんなりと理解できる」状態を目指しましょう。(図中の「5.B理解速読」)
なお、図中の「6.基本問題集の確認速読」は、Uプロセス右下に進むための下準備という位置づけです。
でも、ここからが試験勉強の本番!
ここまでの5-7回読みで、入力はかなりいい状態になっているはずです。
が!
入力が終わってからが本当の意味での試験勉強なんですね。
それがUプロセスの右側(右下から右上へ駆け上がっていくフェーズ)。
基礎レベルの問題集、もしくは問題集の「基本問題」部分をさくさくっとこなしながら、何度もインプットした情報を活性化し、使い物になる記憶情報に作り替えていくことになります。
問題集への取り組み方については、今回のテーマとずれますので、また別の機会に説明したいと思います。(^^)
資格試験勉強を効果的に進めていくTips
1.学習における速読活用のよくある誤解
ちまたにある、次のような考え方は単純にデマや都市伝説の類いであって、真実ではありません。
- 例えば3倍速で読めるようになれば、同じ時間で3回読めるので、何度も読む効果で記憶が定着する。
⇒これは嘘。読み方を根本的に変えなければ、3回高速に読んでも1回丁寧に読んでも記憶できる量はそれほど増えません。 - 右脳を活用することで写真のように記憶できるため、高速かつ効果的に記憶できる。
⇒これも嘘。右脳を活用するということ自体、科学的な根拠がありませんし、写真のような記憶はほぼDNAに依存するため普通の人には不可能です。
勉強に王道なし。魔法は絶対にない。
「学習に魔法はない。ただ、無駄のない、効果的な方法があるだけだ。」
── そのように理解してください。
2.学習における速読の正しい活用法
資格試験のために速読をマスターしようと思った人も多いはず。でも、速読で何度もテキストを読み流しても、試験に合格できるような力は身につきません。速読技術は魔法ではなく、単に学習の効果を高めるための技術に過ぎないのです。大切なのは「場面に応じた使いこなし方」です。
基本的には上記Uプロセス学習理論に従って学習を進め、各ステージの状況に応じてスピードと理解のバランスを調節していきます。
2-1.SEEING:概観のステージ
およそ内容を受け止められる程度(=分かる部分は分かるというレベル)に入力レベルを設定して(理解度60%くらいの「分かる」感覚)、気軽に全体を俯瞰することを目指して速読します。
分かろうとするとストレスが生じてしまい、視野が狭くなり、学習が進まなくなりますのでご注意を。
ただし、章・単元は常に頭に置き、全体像をつかむつもりで取り組み、また眺めてみて「まったく未知・不明」の部分と、だいたい分かりそうな部分とを区別しておきます。(腑分け作業)
2-2.SENSING:反復入力のステージ
ある程度、分析的に理解しなければ成りませんので、あまり「速さ」を意識しすぎず、十分に分かる(理解できる)レベルを保てるように、常に入力状態をモニタリングしながら最適な読み方を探りましょう。
短答式の問題集などがあれば、それもテキストと同じように反復入力することをお薦めします。
2-3.CRYSTALLIZING:反復出力のステージ
憶えている、憶えていないを意識せず、「問題を確認する⇒思い出す⇒すぐに正答を見る」を反復します。
ここで「うーん、なんだっけ?」と頭をひねるのは学習としてマイナス効果が発生するので厳禁です。
ここでは、次の2つの作業をおこないます。
- テキストの語句、解説をチェックペンで消して虫食い問題にし、テキストの完全理解&記憶を目指す。
- 基本問題集を使って「瞬時に答えが浮かぶ」状態を作る。
まず、テキストの語句や解説をチェックペンで消していきます。語句・数値と解説・概念とで色を変える(緑と赤)ようにすると、2パターンの学習が可能になりますね。
これでスイスイとすべてを思い出しながら読み進められるようになれば終了です。
次に基本問題集。
問題文を丁寧に読みます。視野を狭めてストレスフルな状態で読まないように注意しつつも、雑に読んで間違った理解をしないように注意します。読んだら1秒だけ「なんだっけ?」と想起しましょう。それで答えが浮かぶ問題は、そこで終了。問題の左側にチェックマークを入れます。
答えが浮かばなかった問題は、左側に「正」の字を書いていき、ポイントとなるキーワードなどに印を付けつつ丁寧に読みます。何度もやって丁寧に読むまでもない場合は、さらっと確認するだけでOkです。
これで、すべての問題について「問題文の冒頭を読んだだけで、続く問題文と解答が思い浮かぶ」状態を目指します。
2-4.PROTOTYPING:完成のステージ
ここから学習の完成を目指します。解答も単に「思い出す」だけではなく、紙に丁寧に、かつスピーディーに書ける状態を目指さなければなりません。
まずは、上記2-3で使った基本問題集で取り組んでもいいでしょうし、標準問題、応用問題を使ってもいいでしょう。
進め方は2-3と似たような作業ですが、間違った問題は専用のノートを作って「体験」として理解・記憶に落とし込みましょう。
問題文と正答を写し、何を間違ったのか、正解を導くポイントは何かといったことを書き添えて、自分ならではの参考書として完成させていきます。
間違えた問題は何度も反復してスムーズに解ける状態にし、すべての問題を完璧にこなせるようになったらいったん終了です。
そこからは2週間ごとを目安にして実力テストをおこない、間違えた問題のやり直しをおこないます。間違えた問題だけをやり直せばいいと考えず、関連領域もやるようにしたいところです。
これについては、こちらの記事も参考にしてください。
これを徹底しておこない、模擬試験で70%の時間で90%の正解が出せるようになったら「一応、パーフェクト」と考えていいでしょう!
なお、ここでいう「90%」というのは、当然「満点」に対して、ですね。
もちろん、試験によってはそこまで完璧を期さなくてもいいものがありますので、どこで手を打つかは残された時間と合格ラインとを見ながら考えてください。
まとめ
今回の記事では資格試験の学習をどう進めればいいのかという話を解説してみました。試験マニアな人たちや、もともと天才的な頭脳を持った人の書いた学習ノウハウは、基本的に参考にするという程度で耳を貸すが正しいスタンスです。
同時に、これまで私たちが当たり前のようにやってきた「紙に書いて憶える」とか「声に出して憶える」とか、そういう効率が悪く、しかも記憶に残りにくいやり方を手放し、上手に速読を活用することで、学習効率は数倍に跳ね上がります。
速読をすでにマスターしている人も、そうでない人も、この法法を参考にして学習を効率化してください!(^^*
勉強法を変えれば、これまで不可能だと思っていたことが可能になり、人生のノビシロを大きくすることができるものですよ。
こちらの記事もきっと参考になるはず!
効果的な学習法について、動画や記事で解説しています。よろしければご参照ください。