速読をマスターなさった方から、こんなご相談をいただきました。
通常の新書やビジネス書などは十分に速読で読書が可能になりましたが、ブルーバックスのような理系の本、あるいは学術系の書籍などを読もうとするとうまくいきません。
どういう読み方、あるいはトレーニングが必要なのでしょうか?
そもそもの「速読」の考え方
そもそも速読技術は万能の魔法的技術ではありません。
読むコンテンツによって、難易度によって、目的によってふさわしいスピードというものが存在します。
そして、その「ふさわしいスピード」というのは、そのスピードを効果的なものにする読み方とセットで考えなければなりません。
「読書スピード」が意味するもの
「読書スピードが速い=理解力が高い」と考えられがちですし、世の中の速読教室は「速く読めるようになる=賢くなれる」という勘違いを煽ることで商売をしてきました。
しかし、「賢いから速く読める」ことが真実だったとしても(必ずしもそうでもありませんが)、「速く読めたら賢くなれる」ということはありません。因果関係が逆転しています。
読書スピードというのは、「その人が、そのコンテンツをどのように処理をしようとしたか」ということの現れにすぎないわけです。だからこし、ふさわしいスピードと効果的な読み方をセットで考えなければならないのです。
読書スピードの「ふさわしさ」はTPOで考える
最初に考えるべきは「効果的な読み方」です。
今から読もうと思っている本を、どう攻略したら、もっとも低コストで最高の成果に結びつけられるのかを考えます。
この時、もしあなたがゆっくりとしか読めないとしたら、効果的な読み方は難しいかも知れません。極端な話をすると、600ページくらいある専門書であれば、読む前にあきらめてしまう可能性が高い。
そもそも学びのための読書は「1回読んだら終わり」ということはありません。
著者の主張の構造を理解し、ポイントを整理した上で、細かな各論を精緻に理解していく必要があり、そういった小目標(1.主張の構造の理解・2.ポイント整理・3.各論の精緻な理解 etc)に対して1回ずつ読む必要があると考えた方がいい。
大きな目標(Purpose)に対して、あなたの限られたリソース(時間;Time, お金, 認知リソース, 学修スキルなど)をどう配分し、それら小目標(状況;Occasion)に応じた読み方を選択するわけです。このような目標攻略のために、どのようにリソースを活用して手順を進めていくかという考え方を戦略(Strategy)と呼びます。
つまり難しい本(学術書やブルーバックスなどのロジカルな本やビジネス系の専門書など)は戦略的に読む必要があり、その状況に応じてスピードを切り替えて読むことが重要だというわけです。
正しい速読の活用法
そううわけで、「速く読む」ことに価値を置きすぎる必要はありませんが、読み方を自在に変えること(reading flexibility)はとても大切だし、だからこそスピードコントロール技術としての速読は、学術書や専門書を読むときにこそ力を発揮するとも言えるのです。
1.正しいスピードの使い方
難しい本を速く読むのは次の2つの場面に限られることになります。
A.速く読んでも理解が損なわれない場面
例えば、自分の意図とずれる内容、目的からそれる話題などを確認程度に読む場合です。あるいは、自分が知っている内容が書かれている場合もこれに該当します。
B.速く読んだ方が理解が高まる場面
速く読んだ方が理解が高まるというのは「?」となるかも知れません。
しかし、それは「理解」というもののとらえ方が一面的なだけかも知れません。
読書における理解は下の図の横軸で示されるように「ミクロ構造の理解」(文章を逐語的に細やかに、丁寧に読む時の理解)、「マクロ構造の理解」(主張の構造、章と章のつながり・関係など)という2方向で考える必要があり、それぞれに相応しい読み方・スピードがあると考えなければなりません。
マクロ構造を把握するためには、細かなことはスルーして全体の流れを一気に処理した方が「理解が高まる」と考える訳ですね。

2.学習効果を高める読書アルゴリズム
どういうスピードで読むにせよ、1回読んだだけでは学習効果が上がりにくいのは確かであり、先に書いたとおり「何回かに分けて読む」ことを前提にすることをお勧めします。その方が小目標に対応する理解がクリアになりやすいものですし、1回1回の負荷が小さくなり、楽に読めるようになります。
アメリカの学校教育では、学習のための読書はアルゴリズムに従ってステップ・バイ・ステップで読むような指導がおこなわれることがあります。このような読み方の手順は Strategic Reading Algorithm(戦略的読書アルゴリズム) と呼ばれ、SQ3RやPQRS, PRORなどが有名です。
私が指導するフォーカス・リーディングでは「PQRS strategy」を採用しており、次のような図で説明します。

図中の右上に書かれている「Uプロセス学習理論」は高速学習講座の基本理論の概念図ですが、詳しいことはまた別の機会に。
Readフェーズを2-3回に分けて読んでみよう
とりあえず大事なことは、このP, R, Sそれぞれに狙う小目標があり、それを達成するのにふさわしい読み方を実現すること。
そしてこの「ふさわしい読み方を実現するための読書スキル」がフォーカス・リーディングなのです。
全体の目的(手に入れたい知識など)を明確にした上で、毎回のフォーカス(小目標)を設定して読み方をコントロールしようというものです。
新書やブルーバックスの場合
そこそこ専門的な話は書かれているけど、それほどマニアックというほどでもないという場合には、理解読みを2回に分けることをお勧めします。
下読みで全体を概観している前提がありますが、理解読みの1回目では「理解度70%くらい」に設定して、やや気楽な読書をしましょう。大事なことは「分かるところはちゃんと理解する。理解出来ないところは気楽に流す」ということ。
そして2回目の理解読みで、今、気楽に流した部分を丁寧に読んでいきましょう。逆に1回目で理解できているところは流してもいいわけです。
こうやって、2回の理解読みで理解を完成させるようにすると、時間はもちろんかかりますが、ストレスが小さくなりますし、理解もしっかりと構築しやすくなります。
専門書や資格試験のテキストの場合
資格試験のテキストや専門書の場合は、いっそ最初から丁寧に(速読を忘れて)読み、その後で速読技術を使って読み直すというパターンも1つの戦略です。
ただ、内容が膨大で、しかも全部をしっかりと読む必要がないという場合もありますので、その場合には理解読みを3回に分けて読むのがお勧めです。
下読みを済ませるか、下読みの代わりに目次で済ませるかはご自身で決めていいでしょう。
その後に理解読みをするわけですが、まず、理解度50%くらいのつもりで、かなり気楽に流します。専門書の理解度50%はそこそこ丁寧に読まなければなりませんので、それほど簡単ではありませんが。
その後、さらに重ねていくわけですが、ここでも70%くらいの理解度のつもりで楽に流してみてください。
最後の3回目の読みの時には「自分が必要と思う部分」をかなり丁寧に読み、そうでない部分はそこそこに「分からなかった部分を点検しながら読む」くらいにするといいでしょう。
資格試験のテキストでは、「必要な部分」というのは「全部」となりますので、あきらめてそこそこ丁寧に読んでいきましょう。
資格試験はここから「記憶に残す」という作業に移る必要がありますので、通常4, 5回目の理解読みを採用します。
4回目の理解読みの前に、一問一答式の問題集や短答式の問題集の該当箇所を解いてみて、そこで解けなかった部分を解消するつもりで全体を流します。そして、読み終わった時にもう1度その問題を解いてみて、ちゃんと課題がクリアできているかチェックします。5回目も同じようにしてみてください。
もちろん、あくまで「一つのモデル」に過ぎませんので、あとは自由にアレンジしてください。
専門書や学術書、あるいは難関資格試験に挑まなければならない方は、ぜひフォーカス・リーディングと高速学習法を学んでみてください!
