速読トレーニングの代表格といっていい視点の高速移動トレーニング(眼筋トレーニングと呼ばれることも多いやつ)と視野拡大トレーニング。
このトレーニングについては、これまでの科学的な検証で速読修得には、まったく無意味なトレーニングの代表格であることが判明しているというお話を、たびたび書いてきました。
ですが、なんと2023年に入って発表されたイギリス・リテラシー学会(The United Kingdom Literacy Association)発行の学術論文誌 “Journal of Research in Reading”に
「眼筋トレーニングなど速読アプリに速読の効果があった!」
という論文が掲載されました。
今まで「意味ない」って、めっちゃ主張してたじゃないか!
と文句を言われそうな事態ですが…実際に、どのような内容の論文なのか、どの程度の効果があったのかをレポートしてみましょう!
2023年・速読研究について
今回ご紹介する速読に関する論文はこちら。
Does speed-reading training work, and if so, why? Effect of speed-reading training and metacognitive training on reading speed, comprehension and eye movements
(DeepL和訳:速読トレーニングは効果があるのか、あるとすればそれはなぜか?速読トレーニングおよびメタ認知トレーニングが読書速度、理解度、眼球運動に及ぼす影響)
研究の概要
- 著者:Klimovich, M., Tiffin‐Richards, S. P., & Richter, T.(University of Würzburg, Germany)
- 対象:ドイツの大学生30人(女性20名、男性10名、平均年齢22.77歳・SD=3.41・レンジ;19-33歳)
- 調査のあらまし:「市販のアプリを用いた速読トレーニングをおこなった群(速読トレーニング群)」と、対照群として「メタ認知トレーニングをおこなった群(メタ認知トレーニング群)」、「トレーニングなし群」の3者の結果を比較。読書スピード、理解度のテストだけでなく、眼の動きを測定している。
- 採用したトレーニング:ドイツSchneller Lesen(英訳:Read Faster)※ドイツの消費者向け商品テストで、テストされた6種類のアプリの中で最良と評価されたもの。
- 速読トレーニング群;週5回・15分間のアプリによるトレーニングを実施(3週間で合計3時間45分)
・10.1インチのタブレット端末を使用
・テキスト中のターゲット単語(文字・数字含む)を検索するトレーニング
・非類似単語ペアの識別、数字の入れる中の偶数識別など視覚探索系トレーニング(集中力アップを期待)
・眼球運動の最適化(眼球の退行運動を減らす)
⇒いわゆる眼筋トレーニング系あるいは高速表示文章を追っていく系
・視野拡大系
・内声化の抑制も指示されている
・合計8種類のトレーニングで、各およそ1分 - メタ認知トレーニング群;読書の認知プロセスに関する1時間の講義に参加
・読書プロセス(フォーカス・リーディングの初日の最初にやるような話っぽい)の説明
・読書ストラテジー(目標によって異なる戦略を採用することや、これからの読書について読み始める前にプランを考えること、トップダウンでテキストの構造を整理・構築すること、読書中には集中し、理解を整理しながら読むことなど) - トレーニングなし群;両方受けてない
- テキスト:4種類;地球温暖化の原因は人間の活動によるという話題、ワクチン接種のメリットについての話題
テキストの長さ(平均約896語)や読みやすさなどは厳密に同程度に調整済み
画面上に段落毎に表示され、スペースバーで読み進める。 - 理解テスト:テキストの内容に関する4種類の正誤問題;「本文を言い換えた情報(正)」「本文から推論できる情報(正)」「テキストに関する偽情報(誤)」「テキストと無関係な情報(誤)」
前提となる知見
- 読書スピードと理解度はトレードオフの関係にあるとされる。
- タイマーなどで軽度の時間的なプレッシャーをかけると理解度が高く、かつ、ちょっとだけスピードが上がる。
- いろいろな文献から察するに、速読トレーニングの効果は読者が読書プロセス全般を認識するようになり、メタ認知的な効果が生まれてテキストへの関与が高まっただけじゃないの?(仮説)
調査の結果の概要
- 読書スピード;2つのトレーニング群に有意差なし、トレーニングなし群とは有意差あり
速読トレーニング群;平均237語/分
メタ認知トレーニング群;平均224語/分
トレーニングなし群;平均195語/分 - 理解テスト
すべてに有意な差はなし - 眼球運動のトラッキング;2つのトレーニング群に有意差なし、トレーニングなし群とは有意差あり
いくつかの指標を設定して測定・分析した結果、スピードアップは速読トレーニングの直接的な効果でもたらされたものではなく、読書中の戦略的なプロセスに作用したものと考えられる。
結論:速読トレーニングの効果とは?
評判のいい市販の速読アプリ(タブレット用)のトレーニングは、固視時間の短縮など、読解過程の意識的な制御や眼球運動の変化(加速)の効果はなかったと考えられる、というのが今回の論文の結論でした!
結局のところ、「速読教室でやらされるトレーニングに、読書スピードを高める効果はなかった」ことが、あらためて確認できたわけです。
でも、まったく無意味というわけではなく、
速読トレーニングのポジティブな効果の説明として、読み手の読書プロセスへの意識が高まり、読書への関与が高まった結果、初めて読むものへの集中度が上がって、テキストの返り読みの必要性が減った(その結果、読書スピードが25%ほど向上した)。
(同論文より)
そこから導き出される仮説的な何か
ということは、なのですが、あらためて次のことが仮説的に言えそうだということですね。
- 眼を速く動かしたり、カタマリで文字を見る練習をしたりする速読トレーニングには意味はない。
- 文章(読解)への注意力・集中力を高めるトレーニングの効果は期待大。
- 語彙・読解を強化するような基礎的なトレーニングには間接的とはいえ速読力を高める可能性がある。
- 読書戦略を学ぶことで読書スピード、理解の質が向上する可能性がある。(ある意味で当然)
こちらの記事にそれに関することを書いていますので、興味があればぜひご一読ください。