社会人のあなたなら、日々の業務や自己研鑽で「本」を読む機会は多いだろう。
そして、誰でも読み終わったら、普通はこう思う。「よし、読めた」って。
でも、読んでいる時はすごく充実感があったのに、読み終わってみると、思いの外、自分の言葉で語れない、思い出せないという体験はないだろうか?
あるいは、読んでいる最中すら、ただ文字を眼で追っているだけで、著者の意図がぼんやりとしか分かってないぞ…と感じたことはないだろうか?
実は「本を読む」、つまり「読解」というのは、想像以上に高度な技術なんだ。
読解とは2種類の理解を丁寧に組み上げるような作業だし、そもそも、そのトレーニングをしっかりとやっておかないと、思ったような理解が得られない可能性がある。
その「2種類の理解」というやつを、科学的な知見を踏まえて解説したいと思う。
2種類の理解
読書の「2種類の理解」というのは…
1つは「ミクロレベル(局所的)」の構造の理解。
もう1つは「マクロレベル(大局的)」の構造の理解だ。
「構造」の理解とは?
「構造」なんていうと分かりづらいかも知れないが、言葉やパラグラフがどういう風に結びついて構造を成しているかということだ。
ミクロレベルだとこんな感じにすると、「つながり(構造)」が見えやすいのではないだろうか。
私は、父がインドから買ってきた、たくさんの種類のスパイスを使います。
元の文

マクロレベルは「章」とか「パラグラフ」がどのような構造でつながり(関連し)合っているかだ。例えば、全体が8章あったとして、どの章とどの章を1つのまとまりとしてグルーピングできるか、どれが論理で、どれが実践法で、どれがフォローか…みたいな整理ですね。
ミクロレベル(局所的)構造の理解
これは読書の基盤となる「丁寧に文章を読み解く読解力」に直結するものだ。
例えば、
- 主語と述語の関係
- 修飾語と被修飾語のつながり(係りと受け)
- 指示語(例: 「それ」「この」)でのつながり
- 接続詞(例: 「しかし」「したがって」)によるつながり
といったものと説明できる。
ChatGPTよりも前のAIは、これがうまく処理できておらず、言葉と言葉を適当につないで処理していたように見えたが、文章読解が苦手な人は、このAIと同じレベルで処理している可能性がある、いわゆる機能的識字の問題だ。
この状態を無視すると、局所的な意味がつながらず、「丁寧に読んでいるはずなのに、何となく分かったような、分からないような…」となり、全体の理解が成立しない。
新しい分野の学習にはミクロレベル理解が重要!
学術研究では、このつながりをわざと崩した文章を読むと、当然のように読者の記憶の再現率が低下することが示されている。特に、前提知識が少ない人は明確なミクロ構造(の理解)が必要で、これにより文章の理解がアップするとされている。
ということは、社会人として新しい分野の本を読む場合、意識的にこれらの要素を丁寧に処理することが不可欠になる。
もし、ここに自信がなければ、次のようなトレーニングをしてみよう。答え合わせはAIの力を借りれば簡単にできる。
- 指示語(これ/それ/この)を見つけたら、そこに「具体的に、指している言葉(単語・節)」を書き添えてみる。
- 一文を「主語/述語/目的語/修飾語(程度や様子を表す副詞や形容詞・場所/時を表す副詞)」に分解した上で、中心的な意味を抽出してみる。
マクロレベル(大局的)の構造の理解
次に、マクロレベルの構造を把握するためのアプローチだが、これは意識したことがない人も多いと思う。
簡単に言えば「章」とか「本全体」という大きな単位での主張の構造だ。
前書きと目次を丁寧に読んでみよう
基本的に、前書きには著者がどういう意図でこの本を書いたのか、どういう流れで説明しているのかが書いてあることが多い。そして、その詳細な構造は「目次」に現れている。
なので、前書きで意図と構成などを確認した後で、目次を分析的に見てみよう。
どの章とどの章がどうつながっているか?
章の中のパラグラフ同士はどうつながり合っているか? どんな因果関係で書かれていそうか?
目次(章タイトル+小見出し)を眺めると、およそ分かるかも知れない。
既知のジャンルならっていう前提条件がありますが…
トップダウン処理が便利
書籍の全体像を把握したい場合、速読技術をマスターしているなら、「全体の構造」「大きな流れ」にフォーカスした読み方になる。
具体的には、いわゆる「トップダウン処理」と呼ばれる手法が有効だ。
見出しを的確に把握し、「章のコンセプトをつかんでから、本文を処理する」ような読み方に切り替えた上で、章と章がどうつながっているのかを確認する意識を持つと、このマクロレベルの構造の理解が捗る。
ついでに、章が終わる毎に章の内容を、本文を参照せずにメモしていけると記憶まで強化されるのでお勧めだ。
研究によれば、前提知識が乏しい場合、マクロレベルの一貫性が高いテキストだと理解度がアップするとされる。ということは、本文を読み始める前に、前書き+目次を分析してマクロレベルの構造を頭に作っておくと、改めて細かく丁寧に読むときの理解がアップする可能性がありそうだ。
現実的なマクロレベルの構造の処理
まず本の目次を丁寧に眺めながら、各章のマクロ命題(主な主張)を書き込んでみて欲しい。
次に、章・パラグラフ間のつながりを矢印で図示してみる。
ここに3から10分ほどかけることで、全体構造を適切に把握でき、時間効率の高い読書が可能になる。
そこまでできたら、全体をスキミングして読み進めてみよう。速読をマスターしているなら、この作業は10-20分、マスターしていないなら、1時間くらいかけていい。
ミクロ&マクロ両面の構造をとらえる意識を!
説明的な書籍は、そもそも著者の時系列的でない体験や思考を、時系列的・因果関係的っぽく見えるシーケンシャルな(一連の)文章として紡いだと考えられる。単に時系列につなぐなら、それは物語になる。
読み手は、これをミクロ・マクロの両レベルから処理し、自分なりに再構築することで「理解」することになる。
図にすると、著者の執筆から読者の理解へという流れはこんな感じ。左の2列が著者の領域、右の2列が読み手の領域というわけ。


この時、ミクロレベルの構造がつかめていなければ、何かもやもやとした感じが残るし、マクロレベルの構造がつかめなければ、断片的な理解と記憶だけが残ることになる。だから読書の「読んだ」は難しいわけだ…。
本を読んで「分かった」とは?
本を読んで「分かった」と思える状態は、実はこのような章単位の理解と、その章同士がどうつながり合っているかの理解という2つの理解が噛み合うことで成立する。
何かを総合的に学ぶ場面でも、ビジネス上の判断を下す場面でも、基本的に、大量の断片情報をハイパーテキスト的にを自分の頭でつなぎ合わせていく必要がある。
社会人として、細かい情報、断片的な情報を統合して、全体像を把握するスキルは必須だと言っていいだろう。
だからこそ読書を通じて、こうした理解の構築(意味の再構築)プロセスを意識的に行うことで、読書・学びの質はもちろん、あらゆる情報処理力・判断力が上がっていくと考えられる。
ここまでで「本を読んで、分かった」という状態がどのようなものかは分かっていただけただろうか?
そこまでできるようになったら、次のステージに進んで欲しい。
編集的思考でステージを上げよう!
次のステージとは「本を読んで分かった(理解した)」だけで満足せず、その主張を批判的に読めた、そこから新たな発想を得たという状態だ。
前者はいわゆる「批判的読解力」だが、理解を統合するだけで終わらせず、著者の語る事実と主張(の構造)を批判的に検証する作業はAI時代に必須のものでもある。なにしろ、何を根拠にそういう提案・回答をしているのかブラックボックスだし、ハルシネーションという言葉で語られるとおり、ウソも多いからだ。
ちなみに「事実と主張の構造」とは次の図に示されるようなもので、それを要素として分解することで批判的読解が可能になる。


また、そのつながりを分解して断片化した上で、自分の(現場の)文脈に再配置すると、「著者の主張に沿った自分の言葉での理解」と、「著者の主張を踏まえつつ独自のロジックで再編集したオリジナル主張」を生み出すことが可能になる。
批判的読解については、詳しくはこちらの記事で深めて欲しい。
オリジナルの主張を生み出す作業は「編集型読書」という名称で、こちらの記事で解説している。
なぜ、読書はビジネスの業績アップにつながるのか?
本を読んで売上が上がった!みたいな話を聞くと思う。
もちろん、知らなかったマーケティング技法を学んだり、新しい広告手法を学んだりといった、価値のある情報を手に入れられたから、ということもあるだろう。
でも、根本的には上記のような編集型読書こそが、売上アップの種になっていると考えていい。「ただ真似る」のではなく「構造をパクる」という発想だ。
例えば、ビジネス書を読んで、事実(データや事例)をリストアップし、主張(結論)を抽出する。
次に、その主張の構造を自分の業務経験に当てはめ、新たな戦略を導き出すわけだ。著者の語る文脈、主張のマクロ構造と、個々の事実・主張とのつながりを、自分の文脈上に再配置・再構築することは、橋渡し推論や問題解決的思考の有意義なトレーニングになり得る。
このアプローチは、前提知識を持った読み手が(一貫性に欠けた)読みづらいテキストから、深い理解を得るプロセスと相似形をなしており、いわゆる「インサイト」を得るためのトレーニングとして有効だと考えられる。
このような読み方をトレーニングすることで、読書は単なる情報の収集・処理(理解)から、新たな主張やインサイトの生成へと役割を変えることが可能だ。
社会人として、書籍から得た知識をイノベーションに繋げるチャンスが増えるわけで、実際、「本を読んで売上が○倍アップした!」というような事例はこのような読み方が奏功したものと考えられる。
科学的な研究ではさらに、こうした積極的な処理が長期的な学習を促進するとされており、実績アップ⇒モチベーションアップ⇒読書の質と量アップ⇒…という好循環が生まれそうだ。
まずは2つの理解を鍛えてみよう!
ミクロ・マクロの一貫性(構造)を意識した書籍の読解トレーニングは、読書の効果を高めてくれる。
もし、科学的な観点からつくられた読書指導を受けたことがないのであれば、ぜひ「インサイトを生む読書」の第一歩として学んでみることをお勧めしたい。
















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