何かを知りたい時に本を読むことって多いですよね。
でも、もし、それが「たったの1冊に頼っている」としたら、これはかなり危険です。
だって、その著者の書いていることが正しいかどうか分かりませんから。
例えば…
- うそを書いているかもしれない。
- 著者が無意識にやっていることは書かれていない。
- 著者が前提としている条件が分からない。
- 著者が言いたかったことが、正しく言葉に変換されている保証がない。
こういうことが考えられるわけです。
なので、何かを調べたいと思ったら、少なくとも数冊以上の本を横断的に調べなければなりません。
同じテーマについての複数の情報をどう料理できるかは、その人のリテラシーに関わる重大問題です。
やり方がまずい場合、偏った情報だけで満足してしまったり、複数の情報の矛盾に気付かず、支離滅裂な意見を持ってしまったりと、かなりイタい人の仲間入りをしてしまいかねません。
では、どうしたらいいか?
あなたが、何かのジャンルの専門的知見を持つプロフェッショナルとして発信していくために、どういう作業がもめられるのか?
読書指導の研究と実際の指導に関わっている私が、正しいやり方をご紹介します!
シントピック・リーディング
複数の書籍を並行して読み、その差異・異同を分析しながら、自分の意見・見解の軸と輪郭を明確にしていくことは、そういうわけで現代を生きる私たちにとって必須課題です。
このような「特定のテーマ(トピック)について複数の書籍を横断的に読む」方法をシントピック(またはシントピカル)リーディングと呼びます。
「横に並んだ複数のタブを横断的にチェックする読み方」というニュアンスで「Lateral Reading(横断的な読み)」と呼ばれることもありますが、これは書籍では使わないような気がします。
なので、ここでは伝統的な呼び方である「シントピックリーディング」という呼称で話を進めて参ります!
しかし残念なことに、日本の学校教育では書籍を対象にした体系的・科学的な読書法の指導が、ほとんどおこなわれていません。ましてや、複数書籍の読み方の指導なんてものは、ごく限られた機会に、「研究のため」レベルでおこなわれている程度。
教育心理学の世界で、小林敬一先生が「複数テキスト」の横断的な読解について、多数の論文をご提供くださっています!
「複数テキストの批判的統合」, 「複数テキストからの学習に及ぼす読解課題の効果」などなど!
しかし、このような複数書籍の読み方は高次リテラシーの中核だと言ってよいくらいです。
とりわけ、ビジネスにおいて自分の軸でキュレーションし、発信する立場にある人にとって、テーマ横断的な情報収集と分析、そして自分の世界観に基づく発信は、専門家としての信頼を左右します。
それを適当にしてしまうくらいなら、最初からAIに「違いを表にして出力して!」と投げた方がいいかも知れません。
問題はそういう「分析した結果」だけを受け止めてみたところで、専門化としての目も知見も磨かれないということです。
AI時代をサバイバルするための知性を手に入れたいのであえれば、複数の書籍(説明的テキスト)をアウトプットありきで読み、争点を見極めつつ統合し、自分の立場として表明するための方法を、ここでしっかりと学んでおきましょう。
ビジネス書の中のシントピックリーディング
ビジネス書(ノウハウ書・自己啓発書)と呼ばれるジャンルの中でも、「シントピック・リーディング」について言及している本があります。
ビジネス文脈でのシントピック・リーディングは一言で言えば、「出力から逆算して複数冊を読む」作業です。
読むこと自体を目的化せず、最終的に誰に・何を・どの基準で届けるのか(出力のゴール)を先に設定し、それにマッチする言葉や情報だけを抽出していきます。
ちなみに、ビジネス書で語られるシントピック・リーディングは、恐らくアドラー・ドーレン著『本を読む本』を下敷きにしたものと考えられます。ですので、基本的には後述する学術的モデルと同じ発想であり、より実践的・実用的に設計されたものと言っていいでしょう。
ここで重要なのは、「何のために読むか」を常に意識しておくこと。
主な手順と方法は、およそ次のように整理できるでしょう。
出力(ゴール)を先に決める
想定読者、形式(提案メモ/記事/行動実践)、評価基準(何で良否を判定するか)、締切を設定します。
読む本(コーパス)を設計する
同一テーマでも立場の異なる著者を意図的に混ぜ、著者・年・立場など出典情報をメモします。
ざっとスキミングしつつメモを作る
目的と無関係な箇所はスルーして、主張や自分の出力につながる情報を抽出していきます。
この時、抽出した主張や情報には何らか出典を示すタグ(著者・書名・ページなど)を付けて、自分の意見なのか、どこかから抽出した情報なのかが混乱しないようにします。
統合して自分のコンテンツや行動指針にする
ピックアップした情報に矛盾があれば、その食い違いが生まれた理由を考え、自分がそれに対してどう判断するか検討し、最終的には自分の見解として整理します。矛盾がなければ、上手に統合して整理します。
3つの構成要素
あらためてシントピック・リーディングとはどういう読み方をいうのか、整理してみます。
まず定義するなら
同一テーマに関する複数の書籍を、事前に定めた目的(出力仕様)に照らして横断的に読み、語彙・論点・主張の異同を整理した上で、自分なりの方向性(目的に沿った形)で統合する読書作法
ということになります。
その具体的な作業は、小林敬一氏による「複数テキストの批判的統合」によれば、次の3つのコンポーネントからなっているとされています。
「批判的」というのは、自分なりに著者らの主張や事実、あるいは自分の知識や考え方も含めて反省的・合理的に思考することです。
1.テキスト評価
テキストをリストアップした上で取捨選択し、ピックアップした書籍について信頼性や有用性、著者の意図などを評価しながら重み付けをする作業。
2.テキスト間関係の理解
リストアップされたテキスト同士がどのように関係しているのかを整理する作業。
一冊一冊を丁寧に処理した後に、矛盾・対立する主張、データのズレ(食い違い)あるいは一致点などを整理していくわけですね。当然、一冊ごとのミクロ構造・マクロ構造が理解できている必要がありますし、類推・推論を含めた状況モデルの理解も必要になります。
3.裁定
読んだ個別のテキストと、テキスト同士の関係の理解を踏まえて、主張・事実を整理したり、ズレや食い違いについて推理・類推したりといった作業を通じて、自分なりの意見を構築する作業。
『本を読む本』で示される5つの手順
アドラー&ドーレン著『本を読む本』では、より具体的に次のような5つの手順として示されています。
ちなみに原書では「Syntopical Reading」と記述されていて、外山滋比古氏は翻訳書で「シントピカル読書」と和訳しています。
1.関連箇所の特定
本の論点やテーマではなく、読み手自身の問題意識を中心に読み、その問題意識に関連する箇所をピックアップしていく作業をおこなう。
2.中立語彙の確立
「著者と折り合いを付ける」という表現がされているのがおもしろいところですが、読み手の使う語彙と著者の使う語彙が同じ定義、同じニュアンスであるとは限りません。そこを丁寧に整理しながら自分なりの言葉で整理し直していく必要があります。これを著者は「翻訳の作業と大いに似たところがある」と語っています。
3.問いの明確化
自分が知りたいこと、整理したいことについて
一連の質問を作り、その質問に、それぞれの著者から答えてもらうことである。
─ 同書 p.230より
としています。これで書籍ごとの主張の異同などを確認していくわけです。
4.論点の設定
3の作業で、同じ問いに対して書籍ごとの主張の食い違いが生まれて来たら、そこに「論点」が見えて来ます。
自分なりの、新たな「問い」ですね。
一致点と相違点を整理しながら、自分の主張の筋を確かめていくことになります。
5.テーマについての論考の分析
論争点について批判的に整理・統合しながら自分の主張・意見とその根拠(ロジック)を固めていく作業。
それぞれの書籍に見られる主張について
「それは真実か」、「それにどんな意義があるか」を問うのである。
としています。
結局のところ、様々な意見に食い違いが見られるとしたら、あなたがそれに対して何かを主張したところで、「そういう主張の一つ」に過ぎないということになります。
なので、著者(アドラーら)の言葉を借りるなら、大切なことは「命題や主張ではなく、秩序だった論考の中にある」と考えるべきなのです。
複数テキストをどう整理するか?
書籍同士の2種類の関係
複数の書籍を集めたとすると、書籍と書籍の関係というのは、大きく論争的か相補的かという2種類に分けて考えることができます。当たり前ですが、どちらに当てはまるかで、作業の室が変わってきます。
論争的(conflicting/controversial) テキスト
ある論点について意見がぶつかり合う、あるいは矛盾し合う関係の複数テキストです。
この場合は「批判的統合」という作業が求められ、矛盾する主張を、証拠の質・適用範囲・前提の妥当性などの基準で評価した上で、重み付けしつつ(条件付きの)結論としてまとめていきます。
主張がぶつかり合う場合というのは、
- そもそも「論点」(答えようとしている問い)が違う
- 踏まえているデータ(対象・年代その他の属性)が違う、またはその解釈が違う
- 伝えようとしている想定読者が違う
- どちらかが本当は例外に過ぎないことを引き合いにだしている
といった違いがあるはずです。なので、それらを吟味・精査しながら整理していく必要があるわけです。
相補的(complementary/consistent)
どちらも大きく矛盾しない場合は、それぞれの記述を一貫したアイディアとして整理していくことになります。
この場合、論争的なテキストと比べると難しくなさそうですが、用語(語彙)の定義を整理したり、前提やそれぞれに見られる因果関係を整えたり、理論・原理を抽出したりすることになります。
統合のレベル
テキスト同士の関係や、その処理の仕方について理解できたところで、次は「複数の書籍(テキスト)をどういうレベルで統合できたのか?」を考える指標(基準)を見てみましょう。
1.個別表象モデル(最低のパターン)
本そのものは理解できているが、書籍間の横断的なリンクが作られていない。
もちろん、それ以前のレベルとして「本そのものを、正しく理解できていない」という場合も大いにあります。
2.マッシュモデル(ダメなパターン)
複数の内容が未整理の状態でなんとなく理解されている状態。
3.タグ・オールモデル(最低限の合格)
それぞれのテキスト内の主張にタグ付けがされていて、出典も明確にできている状態。
4.ドキュメントモデル(理想的なパターン)
内容を的確に統合できていて、出典、著者の立場や信頼度、テキスト(書籍)間のリンクが的確に整理・明示されていいる状態。かつ引用、反証、条件整理などもできた優秀なレベル。
目指すべきは当然「ドキュメントモデル」です。
まずは、【主張—証拠(出典・ページ)】の対応を適切に整理しておくこと。そして「一般論」のような形で曖昧にせず、誰がどのような言葉でそう主張しているのかを明示すること。ここから始めてみましょう。
発信につなぐには何をすべきか?
最後に、あなたが専門家として、何かのジャンルについて専門的ポジションから発信していく際の手順とポイントを整理してみましょう。
発信につなぐ5ステップ
私がおこなった大学の授業(TFとして実施)では、次のように「論文やレポートを執筆するまでのステップ」を示しています。
これになぞらえて説明します。


赤色のハンドマーク(A,B,C)はフォーカス・リーディングを活用するフェーズを示しています。
Step 1:発信したいテーマを確定する
想定読者、出力の形式(メモ/記事/スライド)を設定し、集めるべき情報のボリュームをイメージしておきましょう。
Step 2:関連書の大量速読
アドラーが示す5つの手順の1と2に該当します。
手当たり次第、本をスキャニングしていき、自分の調べたいトピック、論点に関わりのある本を抽出し、書名・著者名、著者の主張(の方向性)などをメモしていきます。
Step 3:論点と論旨の設定
アドラーの3と4に該当します。
本をすべて精読することをあきらめ、全体をスキャニングし直しながら、改めて必要と思われる箇所を丁寧に抽出していきます。メモに整理して書きつつ、書籍にはアクセシビリティを高めるための付箋を貼っておきましょう。(大きめの付箋に、メモ書きして貼り付けておいてもいいですね!)
Step 4:統合と整理
アドラーの5に該当します。
必要箇所を精読しながら、論争的な箇所については批判的統合、相補的な箇所については語彙を含めた全体の整理をおこないます。
Step 5:プロセスと主張を整理して出力
自分の主張を絶対的な正しいものとして主張しようとせず、自分の主張が成立しうる条件とその限界(境界)、未解決のトピック、残された課題などを整理して示す。
チェックリスト
以上の5ステップを終えたところで、以下の10項目を正しく行えたかどうかチェックしておきましょう。
- 出力するスタイル、全体のボリュームを確定したか
- 立場の異なる資料を含めたか
- 丁寧に読むことを断念し、全体をスキャニングしつつポイントを拾えたか
- 主張ー証拠(+論拠)対応を明示的にピックアップしたか
- 語彙や論の定義を統一したか
- 対立するポイントを特定したか(踏まえる事実? 立場? ロジック?etc)
- 自分の示す限界を明らかにしているか
- 明らかにできていない点を示しているか
- 出典を明示しているか
- 想定読者に合わせて表現や語彙を選んでいるか
「自分の軸」と「世界観」をどう育てるか
結局のところ、あなたが学者でない限り、あなたの主張は、あなたの世界観(哲学・美学・ビジョン)に根ざしたものであり、あなたの持つ(示す)フィルターが他の人に「なるほど、そういう考え方があるのか!」という学びと気づきを与えるものであればいいわけです。
とはいえ、情報が氾濫する時代、細切れ・断片的な情報が飛び交う時代です。目の前に流れてきた情報に、感覚的に食いつき、直観的に賛成・反対を表明するような態度を改め、それらを精査する態度が求められていることは間違いありません。つまり、「その主張は、どういった条件や前提の上に成立しているのか」を判断した上で、自分の判断の軸で整理・統合・出力していく必要があるわけです。これこそが、あなたの専門性の核心です。
自分の軸を意識する
あなたが「価値あり」と見做すこと、あなたが「正しい」と判断することなど、あらゆる評価の規準(ものさしの観点)と基準(妥当性・再現性・実用性・価値観などの評価のレベル)を言語化し、発信のたびに適用してみましょう。
「あの人はいつもブレない」という評価は、この軸が見えることによって得られるものなのです。
世界観を表現する
科学的な観点、事実、分析は学者でもできます。というか、学者の本領です。
あなたが発信者として、クリエイターとして情報を発信していくのであれば、あなたの大事にしている価値観や、あなたが問題だと感じていることが、どのような背景から生まれているのか(例えば、私なら読書教育を蔑ろにしている教育界・教育制度を仮想敵と位置づけています)といったことを明らかにしていきましょう。
何が真実であるかも示していく必要がありますが、その事実をどう評価すべきかという、あなたならではの判断のスタンスとプロセスを示していきましょう。それが「○○さんの世界観」として、読み手・受け手の頭の中に構築されていくのです。
あなたならではのインテリジェンスを打ち出そう!
AI時代だからといって、すべてAIに任せて整理させてしまっていては、あなたの専門家としての知性は育ちません。
リアルな場で、クライアントやフォロワーからのライブでの質問に対して、様々な立場の意見や主張を的確に整理・分類して説明し、その上で、あなたの世界観に根ざした判断の方向を示すことができる「あなたならではなのインテリジェンス」が育つような本の読み方を積み重ねていきたいものですね!













コメント