生成AIの登場によって知的作業のスタイルが変わったと言われる。
ChatGPT mostly substitutes for worker e!ort rather than complementing
worker skills, and restructures tasks towards idea-generation and editing and away from rough-drafting.(訳:ChatGPTは、主に労働者のスキルを補完するのではなく、労働者の努力にとって代わり、タスクをドラフト作成から、アイデアの生成や編集へとシフトさせる。)─ Experimental evidence on the productivity effects of generative artificial intelligence
そう、人間が担うべきは、「0⇒1」の部分と、仕上げの「1000⇒1001」の部分とに集約されるという話だ。
「1000⇒1001」の「ラスト1マイル」
よく「ラスト1マイル」という表現が使われる。
物流における集荷から配送センターまでの1000マイルは非常に効率的にいくが、最後の1マイルにはクリアすべき困難(配送担当者の確保、道路事情、不在時再配達 etc)が絡み合っており、ビジネスの成長にとって大きな課題になっているという話だ。

この「ラスト1マイル」はホワイトカラーの知的生産にも同じことが言える。
例えば、こういう具合に操作的な定義が可能だろう。
- 1000マイル;正解や評価規準が比較的明確な作業。手続き化、テンプレ化しやすいプロセス。
- ラスト1マイル;状況・文脈依存。評価規準が暗黙的。決断と跳躍による最終統合が必要な責任を伴う仕上げ。
実はラスト1マイル部分の「1000⇒1001」は「0⇒1」と同じくらいクリエイティブな思考回路が求められし、当然、価値が高い。
1000マイルの仕事はAIが得意
1000マイル部分は、単純な作業ではあるが、それなりに時間と労力がかかる。何かの企画を作るときの情報の収集やデータ処理、ブレインストーミングを思い浮かべればいいだろう。ある程度のトレーニングは必要だが、誰でも一定の成果が出せる部分。若手がこの部分を担当しながら仕事を覚えていく…ということも多いだろう。
ここはAIに代行ないし補助してもらうことで、劇的に効率化するし、業務の精度が上がる可能性が高い。
条件に合う資料の収集、整理、要約の提出、複数の視点からのアイデア出力…こういった作業はAIの得意分野だからだ。
AI時代のラスト1マイル
これに対して、最後の1マイル部分、つまり「最後の微調整」を加える役割こそがAIに代替させられない人間ならではの領域といえる。
最初の1000マイルをAIがサポートし、最後の1マイル──人間らしい感情・倫理観への配慮と共感、自分の現場への適用、そして社会・現場・データを俯瞰して得られる独自のインサイトに基づく編集作業──を人間が担うわけだ。まさに「AI時代のラスト1マイル」と呼ぶべきものだ。

AIは仕事の成果(質)をどう変えるのか?
AIは僕らの知的作業に足場をかけてくれる。これは本当に素晴らしいことだ。
丸腰では手が届かなかった高さに手が届くようになるのだから。
でも、残念ながらAIは本当に求められる仕事の成果を引き上げてくれるわけではない。
だって、仕事の価値を決めるのは「0⇒1のアイデアのクリエイティブさ」だし、仕事の成果(質)を決めるのは「ラスト1マイル」だからだ。
確かに1001マイルのうち1000マイル部分は、AIを活用することでレベルの高い成果が上がるようになる。効率化もされる。全体の質も上がるだろう。でも、やっぱりラスト1マイルがあって初めて、それは誰かに選ばれるレベルの成果に仕上がるんだ。
そして、ここで次の問題が発生する。
これまでの基準で1001マイルの成果を計ることが許されなくなる可能性がある。
AIのお陰で1001マイルがハイレベルに平準化されると、社会(市場)は新しい1001マイルを作り、競争のレベルを更新していくだろうから。
つまり、あなたが仕事の成果を引き上げたいと思うなら、「0⇒1」と「1000⇒1001」を鍛えなければならないんだ。なにしろ、AIに任せた「後」が主戦場になるんだから。
AIの足場掛けのタイプで考えよう
もし、あなたが今、1000マイルを担当する人なら、すぐに+1マイルのプロセスに挑んでいく必要がある。だって、1000マイル部分は一定のトレーニングをし、AIを活用しさえすれば、誰だってかなりの質を出せる部分だからだ。つまり代替可能領域だってこと。
もし、すでにラスト1マイル部分や、1001マイル全体をこなしているなら、1000マイルのAIによる自動化を進めた上で、ラスト1マイルのクオリティを引き上げる挑戦をしよう。現実的には「ラスト1マイル」の中にも、AIを活用することで次元を引き上げうる「折りたたまれて、内包された1000マイル」があるはずだ。そこを見いだすための工夫も必要かも知れない。
そうなると、AIをどう使うか、AIにどんな足場をかけてもらうかが問題になる。
AIに努力やAHA体験(ひらめき)を代行させてしまえば、ゴールには早く辿り着くかも知れないが、あなたの経験値とひらめきは失われていくことになる。
AI活用は次の3つのタイプを意識して使っていきたいところだ。
- 代行(努力放棄)タイプ;サプリ型と言ってもいいだろうか。必要なことについて、AIに答えを出してもらう(解説したもらう、要約してもらう、結論を出してもらう、文章を作ってもらうなど)。出力されたものを分析・評価する力を持った人なら、仕上げ部分以外はこれでことたりる。これはもはや足場ではなくエレベーターだ。
- 誘導(チューター)型;AIに手順や問いを提示してもらう(ヒント、質問、チェックリストの出力など)。これこそが本当の足場掛け。未熟な人がプロセスと考え方に慣れていく上で有効。ただし、徐々に依存を減らして自立を目指す必要がある。
- 鏡(コーチ)型;いわゆる壁打ち相手として活用する。自分の思考・出力に対して批判的に分析してもらったり、足りない視点を指摘してもらったりすることで、思考の次元を上げていくことが可能。これも足場ではない、足がかり・手がかりの提供というレベルだ。そして、その足がかり・手がかりの発見を自分でこなせるようになっていきたいところだ。

足場が依存になるか? さらなる飛躍の土台になるか?
AI活用における①は、通常なら外注すべき場所であり自分の本質的なスキルと関係のない場所で使うものだ。
そして、浮いた時間をラスト1マイルの価値を高める作業に再投資しなければ、思考回路は鍛えられない。
②もあくまで「仮設」であることを肝に銘じておく必要がある。常設の足場は必ず、あなたに依存心を芽生えさせ、思考の筋力を奪う。足場で上がった高さまでをちゃんと自力で登れるようにした上で、次の高さを目指そう。
最終的に使うべきは③だ。
早い段階で自分の作業の中の1000マイル部分を、上手に①と②に振り分け、③で自分のレベルを引き上げる努力が出来た人は、さらに高いレベルで成果を出せるようになる。
仕事の質という点では1000マイル部分にリソースを注いでも評価に直結するものではない(天井効果)。
また代行型では逆向きになるし、批判的読解力やAI出力のブラックボックス部分を推論する力がなければ逆効果をもたらすこともありうる。
何となくAIに依存してしまって気付かない人と、戦略的にAI活用をコントロールしている人とでは、AIで差が縮まるどころか、拡大の一途となりかねない。

AI時代こそ、読書力を磨こう!
かくして以前書いた「なぜAI時代に、あらためて「読書の必要性」を強調しないといけないのか?」という話に立ち返ることになる。
ここで求められるのはインサイトを生み出しうる読書であり、自分の思考回路が編集され、成長していくような読書である。
それが「編集型読書(あるいはインサイトリーディング、知的生産型読書)」だ。
目指すべき読書のカタチ
もはや、情報を拾い集めるだけの読書は要らない。気づきを得るだけの読書も同じだ。
これからの読書に求められるのは、こんな要素だ。
- 「!」と思った主張や情報が依って立つ文脈を把握する、ミクロ・マクロ両面からの理解
- 著者の主張を支える根拠(出典)とロジック、その適用可能範囲、反論可能性を確認する習慣
- 文脈の中での情報の意味や価値を吟味し、別の文脈に移し替える編集的な読み方
- 「?」を感じた著者の主張とそのロジックに戦いを挑むような批判的読解力
- 今まで手に取らなかったジャンル・世界の書籍に手を伸ばす戦略的多読
- 著者の世界観にどっぷりと没入し、心が震える体験
- じっくりと噛みしめ、何度も反芻することでしか味わえない濃く深い読書体験
読書で手に入れたい「ラスト1マイル」スキル
仕事で求められる「ラスト1マイル」に生きるスキルを、読書を通じて手に入れたいわけだが具体的にはこういうものだ。
- 意思決定:豊富なデータと経験値をベースに、何をやめ、何を始めるのか、根拠(判断基準)を持って決める
- 現場適用:読書から得られたインサイトを自分の文脈・現場に実装するプラン(制約条件、リスク評価、KPI設定)を作る
- 発信:自分の暗黙知および形式知を、伝わる言語として、他者が再利用できる形(フレーム、図解、ブログなど)に落とし込み発信する
- 検証:問題が生じない規模・領域でたくさん試し(A/Bテスト、観点評価、振り返り)、改善する
下の図は「AIの提案に対する理解と発想」としているが、「読書における理解と発想」でも同じことがいえる。
目指すは統合的・文脈的理解であり、応用・変容に向かう動的理解であり、それがインテリジェンスとして行動志向の知性に結晶化するわけだ。

AIと共生しラスト1マイルを極める
生成AIは知的作業のあり方をガラリと変えてしまった。
でもそれは脅威ではない。むしろチャンスだ。今までよりも高いレベルで試行錯誤ができるわけだから。
自分が日頃やっている作業を1000マイルとラスト1マイルに分解してみよう。
そして、あなたが一番輝ける仕事、高単価に働ける仕事に注力して、ラスト1マイルの輝きを手に入れるんだ。このラスト1マイルこそが、ビジネスの主戦場だ。
そのために読書体験そのものをシフトしていこう。
読書を通じて批判的読解力(思考力)、文脈把握力、そしてインサイトを生み出す力を手に入れよう。それがそのままAIをよきパートナーとして活用しうる力になるはずだ。なにしろ、AIとの会話、AIへの問いかけ(プロンプト)は「言葉そのもの」だし、言語と思考体験で作られた「思考のOS」がその言葉を生み出しているんだから。
あなたも、今日から早速、本を手に取ってみてはどうだろう?
編集型読書は、新しい時代に求められるクリエイティブな思考回路を作り、あなたの思考回路を「ラスト1マイル」仕様に変える力を持っている。
そして、ラスト1マイルを極めた先には、豊かな未来が待っている── これは間違いない。





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