実は、赤線や蛍光マーカーでページを汚しても、頭には残らない──。
じゃ、どうしたらいいの?
私たちは子どもの頃から「大事なところに線を引く」ことを授業でも指導され、社会人になってからも自己啓発書などで「どんどん線を引け、書き込め」と推奨されてきました。
最近の本は、最初からマーカーや傍線で装飾されていて、どこが大事かが分かるようになっています。
- 後で見返して、どこが大切か分かる
- 線を引くことで、自分なりにどこが重要か確かめられる
これは学習上とても価値があることのように思えますよね?
これらは勉強に役立っているように見えますが、果たして本当に学習効果を高めているのか?
むしろ最近の学習関連ノウハウでは「線を引くのは意味がない」と断言するものも目にするようになりました。(私もその一人です。)果たしてそれは本当なのか?
実はシンプルにいうと、
下線やマーカーは万能ではない
これが真実です。
そう、線を引いたから誰でも、どんな場面でも効果があるわけではないってこと。同時に
正しい使い方をすれば、
学びを深める強力な武器になる
これもまた事実。
というわけで、学習戦略の研究と高速学習法の指導に長年携わって来た私が、下線・マーカー(学術界では「ハイライト」と呼びますので、この記事でも「ハイライト」と呼びます)を「アノテーション」という広い枠組みの一部として捉え直した上で、その効果と限界、そして活かし方について分かりやすく紹介したいと思います。
「下線を引く」はなぜ効果がないのか?
1-1.下線はなぜ多くの人が使う?
日本人に限らず世界中の人が、教科書や専門書を読むときに「ここが大事だ」と思う箇所に下線・傍線を引いたり、マーカーで色を付けたりした経験を持っています。
重要部分を目立たせることで、
- 内容が頭に入りやすくなったように感じる
- 後で読み返すときに重要ポイントがすぐに見つけられるため便利
こういう実感があるからでしょう。
何より、下線・ハイライトは、勉強中にも“集中できている”、“理解が捗る”という実感の持てる作業です。学校であれば、どこがポイントか伝えるために「ここは赤線(青線)を引け」というような指示を出す先生もいます(特に社会科?)。
そのため、多くの学生や社会人が自然に取り入れ、その実際の効果に疑問を持つことなく、読書や勉強の“定番ツール”として長く使ってきたのでしょう。
1-2.実際、「下線の効果」はどうなのか?
しかし、ここで残念なお知らせです。
教育心理学や認知科学の研究からは、この「効いている気がする」という感覚と、実際の学習効果の間には大きなギャップがあることを示しています。この…
手応え(実感)があることと、
実際の学習効果にギャップがある
ことこそが、世の中の様々な学習系都市伝説を生んでいる元凶なのですよ…
例えば、実験では、すでに下線が引かれた文章を読んだ学生は、直後のテストで下線部をよく思い出せる一方、1週間後の応用課題では効果がほとんど見られないことが報告されています。これは、下線が一時的に注意を引きつける「プロンプト」として働いたとしても、深い理解や長期記憶には直結しないことを意味します。つまり、線を引いた瞬間に「覚えたつもり」になっても、実際の学習成果には結びついていないというわけです。
1-3.「線を引く」で終わらせないために
これが学習者を惑わせる大問題を生むわけです。
学習で自己満足が得られれば良いのか?
それとも本当に未来を変えたいのか?
もし本当に短期的な記憶しか得られず満足感だけのものなら、すぐにやめた方がいい。
でもやめる必要はありません。
ただし、考え方、使い方を変える必要があります。
下線は学習の始まりに過ぎない!
そう考えるんです。
そして、線を引いた後に、要約や質問づくりなどの追加作業に進みましょう。つまり、線を引くこと自体は「目的」ではなく、そこから「自分の思考を深める仕組み」をつくっていこうというわけです。
下線・ハイライトは“アノテーション”の始まりだ
アノテーション(annotation)とはデータにタグや注釈を付けて情報を整理し、意味付けを行うことです。本を読みながらメモをする作業がこれに当たります。
2-1.下線は能動的に引こう!
研究で明らかにされてきたのは、こんなシンプルな話です。
他人があらかじめ引いてくれた下線は、その時の注意(興味?)は向けられるが、長期的な記憶や理解の定着には結びつきにくい。学習者が「何が大事か」などの判断や思考のプロセスを体験できないから。
最近のビジネス書、自己啓発書は太字・傍線のオンパレードですが、「線があるから大事なんだろう」と受け身で確認するだけで終わるため、本質的な学びにはならない、と。
2-2.能動的な下線は「深い処理」を生み出す
一方、自分で「ここが大事だ」と考えながら下線を引く作業は、内容を取捨選択し、他の部分と比較し、重要性を判断する作業になります。この一連の能動的な作業は「精緻化符号化」と呼ばれる深い認知処理を引き起こします。これが記憶の強化につながるのです。
さらに、自ら下線を引くことは「生成効果(generation effect)」の一種とされ、情報を自ら作り出す行為が理解や応用力を高めるとされています。
つまり、
能動的に取り組めば、下線は単なる目印を超え、
学習の強力なツールになり得る
というわけです。
2-3 下線はアノテーションの入り口にすぎない
ですので、下線やハイライトは、それだけだと「効果的な学習法」と呼べないぞ、と。
そして先に書いたとおり「アノテーション」という広い枠組みの一部として捉えるべきだと研究者らも指摘しています。
例えば、
下線部を元にして要約を書いたり、
余白に意見や感情を言葉や記号で添えたり、
後で考えを深められるような問いを書いたりする
わけです。
下線はその入口にすることで、高い効果を生むよってことですね!
効果的なアノテーションとは何か?
傍線/下線・マーカーをアノテーションの入り口にと書きましたが、どんなことを書き込んだら効果的なのかということを見ていきましょう!
3-1.精緻化:自分の言葉でまとめるから残る
アノテーションの最大の価値は「精緻化」と呼ばれる認知活動にあります。精緻化というのは書籍で出会った新しい情報を、既有の知識(もともと知っていたこと)と結びつけ、意味のある情報・知識として再構成することです。
例えば、教科書の一節をそのまま書き写すのは、学習としてほぼ無価値ですが…
- 自分の言葉で言い換えたり
- 短く要約したり
- 図やキーワードで整理したり…
こういう一手間を加えると、価値が上がります。そして、これこそが精緻化なのです。そのことで、理解も深まりますし、長期記憶に残りやすくなります。
学校でやらされた「先生が書いた黒板の内容(板書)をそのまま書き写す」ようなノートは単なる作業で学習効果がないってことです!
3-2生成効果:自分で作るから残る
もう一つの鍵は「生成効果(generation effect)」です。心理学では、人は情報を受け取るよりも、自分で生み出したときの方が記憶が強化されることが知られています。先ほど書いたような「本文の要点を書く」とか「例を付け足す」とか、「後で確認するための質問を作る」などの作業ですね。
このような能動的な作業を通じて、知識は単なる断片ではなく、再利用可能な形に再構築されるわけです。たくさん線を引いたから効果があるわけじゃなくて、「考えて作り出したかどうか」が鍵を握るわけです!
3-3.想起演習:復習のトリガーに変えるから残る
効果的なアノテーションは「復習を助ける仕掛け」にもなります。
たとえば、余白に「この定義を説明してみよう!」といったメッセージを書き込んでおけば、後で見返すときに「単なる再読」ではなく、「なんだっけ?」と思い出しながら読みますよね? これは「想起演習(retrieval practice)」と呼ばれ、科学的学習法の世界では最強の記憶系学習法と考えられています。
要約や疑問符(記号)も、後で「なんだっけ?」と思い出すきっかけになります。つまり、効果的なアノテーションとは「読んだ痕跡」ではなく、「後の想起活動を誘発するトリガー」としてき機能するものと言っていいわけです。
誰にとって、どんな文章で効果が出るの?
ここまで読んで見て「じゃ、下線に意味がないみたいな偏った言い方しなくていいんじゃない?」と思ったかも知れません。それがここからの話に関わるのです。
4-1.学習者の特性による違い
実は、アノテーションの効果は、読み手の経験値や読解力によって大きく左右されるのです。
研究によれば、大学生や本を読み慣れた人は重要な部分を的確に抽出できるため、下線やメモが学習の助けとなりやすいことが示されています。一方で、経験の浅い学習者は「どこが大事か」を判断する力がまだ弱いため、
- 過剰に線を引いてしまう(「オーバーハイライト」状態)に陥りがち;文章全体がマーカーだらけになり、どこがポイントか分からなくなる
- 線を引く(大事な箇所を選ぶ)ことに注意が向き、学習効果(理解)が下がる
という残念な事態になりがちです。
なので、小中学生の勉強が得意でない子には「どこに線を引くべきか選ぶ」練習をさせる指導が不可欠だと指摘されているのです。
まぁ、それに学校の教科書にわざわざアノテーションしませんよね…全部が重要語句みたいな面白みのないテキストですから…。
4-2.文章の難易度と構造の複雑さの違い
アノテーションが効果を発揮するかどうかは、文章の内容や難易度にも関係します。
難しい専門書や学術論文を読むときは、情報量が多く複雑であるため、下線やメモによって注意を集中させ、認知的な負荷を軽減できるとされています。特に因果関係や問題解決などの構造を持つ説明文では、シグナルワードや段落の要点を強調することで理解が深まりやすいと報告されています。
逆に、日常的な記事や短く平易な文章では、アノテーションの効果は限定的です。すでに内容が理解しやすいため、わざわざ線を引かなくても記憶や理解に大きな差は生じにくいのです。
つまり、
アノテーションは「難しい文章ほど効く」学習戦略
なのです。
4-3.紙かデジタルか──媒体による違い
最近は電子書籍が増えていますが、学術的な調査では、多くの学生が集中して深く読む必要がある長文では紙媒体を好むことが示されています。
紙は書き込みやページをめくる操作が直感的で、深い読解に必要な集中を支えやすいからです。(下の参考文献もどうぞ!)
一方、デジタル媒体は共同アノテーションや検索性の点で優れています。
協働アノテーションとは、オンライン上で仲間と同じテキストに注釈をつけ合う作業を言います。これは多様な視点を得られ、理解が広がるというメリットがあります。
つまり、紙は「個人で深く理解するため」、デジタルは「協働や情報探索のため」と役割が違う!と考えるといいのかも知れません。問題は「協働アノテーション」は日常的にチャンスが少ないってことでしょうか。(アノテーションしたスクリーンショットをXに投稿するとか…?)
ちなみにビル・ゲイツ氏は「余白にメモを取ることができるので書籍はやはり紙がいい」と述べているそうです。(山崎良平著『天才読書』より)
まとめ──傍線から「問い」へ
ここまで書いてきたことをまとめておきます。
傍線/下線やハイライトに学習効果があるのではなく、その後のアノテーションにつなぐきっかけとして活用するのがよい、ということでしたね。
線を引いた後にどういう作業を用意するか?ということを事前に設計しておく必要があるわけです。
- 下線部をもとに自分の言葉で要約する
- その内容から「問い」を作り、後で考えるきっかけを残す
- 「!」や「?」などの記号とちょっとしたメモ書きを添えて、疑問点や分からない部分を記録して「後で深める」トリガーにする
ということは、線を引いた場所には付箋を貼り、トレーサビリティーを高めておく必要もありそうです。
私たち大人が学ぶ場合には特に、「問い」を残す作業が学びを豊かに広げてくれる可能性があります。
「じゃぁさ、これは自分の文脈だと、どんな意味がある?」
「じゃぁさ、こんな場面でも適用できるかな?」
「でもさ、別の本には違う説明がされてたよね? 何でだろう?」
こんな「じゃーさー思考」や「でもさー思考」を発動させることで、単なる読書、単なる情報摂取から知識構築、思考の帰納的/演繹的展開へと発展させることができます。こういった思考の作業は、あなたならではの洞察(インサイト)を生む鍵になるはずです。
ぜひ、線を引いて満足するとか、線が引かれている本の傍線部だけ拾って読むとか、そういう「学んだ気分」を卒業して、本当の意味で自分の知性を高められる学びを作っていきましょう!














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