投資・学びのための読書って「賢くなりたい」とか「仕事のスキルを高めたい」とか、そんな気持ちがあって取り組んでいるはず。でも、気をつけないと
結構がんばって本を読んでいるのに、それほど成果とか成長につながってないような…
そんな残念なことがしばしば起こりがちです。もし、あなたが…
- 読んだ時は「なるほど!」とか思ってるけど、いざ誰かに説明しようとすると、うまく言葉にならない(記憶から引き出せない)。
- がんばってたくさん読んでいる割りに、あまり賢くなった気がしないし、仲間からの評価も上がっていない。
- 仕事のためのノウハウ書を読んでいるが、時間が経つと意識から消えていて、アウトプットにつながって来ない。
そんな残念な気分を感じているのであれば、あなたは「ワナ」にはまっているのかも知れません。
読書の成果を遠ざける4つのワナ
本を読めば何か力──知識やスキル、あるいは思考力といった知性──が手に入るかというと、実はそう簡単ではありません。それは、学生時代の試験で、教科書やテキストを一読しただけでは満足のいく成績がとれないのと同じ理屈です。
「力を高めるための勉強は、それほど簡単なことではない」
というお話なのです。
あなたの読書に、次のような傾向がないかチェックしてみましょう。
1.なんとなく読んでいる
学生時代のテスト勉強で教科書・テキストを読んでいた時の読み方と、今の読み方を比較してみましょう。
「なんとなくテキストを読む」だけでは試験勉強になりませんでしたよね? ── そして今の読書は、その「なんとなく読む」だけになっていないでしょうか。
これは「頭と心、そして身体を使わずに読んでいる」という表現も可能です。
もちろん、「ほほー」「なるほどー」なんて感じで「学びがあるな!」と思いながら読んでいるはずです。
でも、本に思ったことを書き込んだり、自分の体験や意見とリンクさせたりといった能動的なアクションをとらないと、知識や情報はどうしても他人事になってしまいます。心を動員した情報や能動的に体験した情報は記憶に長く残りますが、そうでないものは、思いのほかあっさりと記憶から消えてしまいます。
2.分かったつもりで読んでいる
様々な心理学的な(読書についての)研究で明らかにされているのですが、私たちは自分が読んでいることの理解度を客観的に評価することができていおらず、「自分が本当に理解できていないことに気づかない」ものなのです(※)。
いわゆるメタ認知というやつです。
読んでいる時に「分からない」と思う部分があれば、それを「分かろう」とすることで頭脳がレベルアップします。
問題はすべてがスムーズに読めてしまって「分かった!面白かった!」と思えてしまった場合です。多分、本当は分かっていない部分があるはずなのですが、ほとんどの人は自分が理解できていないことに気づかないもの。「これってどういう意味だと思います?」と質問されて初めて、自分が理解できていないことに気づくのですよ…。
※読んだつもりで分かってない問題に関する論文
・Glenberg, A. M., Wilkinson, A. C., & Epstein, W. (1982). The illusion of knowing: Failure in the self-assessment of comprehension. Memory & Cognition, 10(6), 597-602.
・Paris, S. G., & Myers, M. (1981). Comprehension monitoring, memory, and study strategies of good and poor readers. Journal of reading behavior, 13(1), 5-22.
・Zabrucky, K. (1990). Evaluation of understanding in college students: Effects of text structure and reading proficiency. Literacy Research and Instruction, 29(4), 46-54.
ほか多数
3.一読して分かる本しか読んでいない
もし筋力アップを目指すなら、軽々と持ち上げられるダンベルやバーベルではなく、手に入れたい筋力・筋肉の状態に合った形で負荷をかけるはずです。ぎりぎり8回上げられる重さで4セットとか、ぎりぎり15回で3セットとか…。
軽々と扱えるダンベルでたくさんトレーニングしても筋力は高まりませんよね? これは脳のパフォーマンスを高めるための取り組みでも、まったく同じことって考えましょう。
自分が理解できていないことに気づけないのも問題ですが、本当に「一読して十分に分かる」本だったとするなら、それはあなたの知性を1mmも向上させない本であることは間違いありません。そんな本をどれだけ一生懸命に読もうが、たくさん読もうが脳みその成長はないと思わなければなりません。
4.本を1回しか読まない
簡単な本であれ、難しい本であれ、1冊の本を1回しか読まなければ、理解できていたとしても、記憶に定着することはありません。テスト勉強で教科書を1回読んだだけでは得点につながらないのと同じです。
ここまでに1-3で書いたようなことをクリアしたとしても、1回しか読まなければ、時間の経過とともに記憶は薄れていくものなのです。
学びのための読書には何が必要か?
ここまで説明したとおり単に「読んだ」という事実は、「分かった」も「憶えた」も「できるようになった」も保証しないわけです。
注意したいのは「“今の、この時間”を楽しむ」ための読書と、「“未来の時間”を豊かにする」ための読書とは、根本的に違う作業だということです。前者は時間とコンテンツを消費する読書。後者は時間と労力を投資する読書。
未来への投資としての読書には、次のような機能を求めているはずです。
- 知らなかったことを知る
- 分かっていなかったことを理解する
- できなかったことができるようになる
- 今までとは違う考え方、視点、視野が手に入る
ヒトコトでいえば「読んだ後、何らか、読む前と違う自分になっている」こと。
- 歴史を学んで、人名やら歴史的事件を知ったとしても、記憶に残っていなければ学ばなかったのと大差ない。
- 歴史を学んで、人名やら歴史的事件を知ったとしても、その事実関係やら因果関係やらが整理されていなければ、知らないのと大差ない。
- 数学を学んで、何かめんどくさい計算の仕方・手順を知ったとしても、問題が解けなければ学んでいないのと大差ない。
- 哲学を学んで、偉人の思考や名言を知ったとしても、自分の人生でそれが活かされていなければ学んでいないのと大差ない。
こんな考え方が必要なのです。ということは、本を読んだとして…
- 人に要約とポイントを伝えられるほどに、読んだ内容がちゃんと整理されていない。
- 3日経ったら、理解がぼんやりとしてしまって、あやふやになっている。
- 1ヶ月経ったとき、読んだ内容は、日常生活のどこにも影響を与えていない。
- 1年経った頃、本棚に並んだ本を眺めても、「読んだ」という記憶以上の情報が思い浮かばない。
- 読書(読解)力も思考力も語彙力も上がっておらず、難しい本を読みこなせない。
こんな状況であれば、「読んでないのと大差ないよね?」と考えるべきなのです。
どうしたら読書力が高まり、“賢く”なれるのか?
では、どのような本を、どのように読めばいいのかという話ですが、細かな目的(どのような力を身につけたいか)にもよりますが、およそ次のような考え方が必要です。
1.「読めた(理解できた)」のレベルを上げる
自分なりに「読めた」という状態のレベルを上げるためには、次の2つの作業を読書に持ち込む必要があります。
A)「分からない」を発見する
何より「自分が分かっていないこと」を把握することが、レベルアップの第一歩です。
そのためには「これはつまりどういうことか?」と考え、「自分の言葉で説明しなおすと、どう語れるか」を考えながら読む習慣を手に入れましょう。
その第一段階は「これはどういうことだ?」と感じる部分に緑色の傍線を引きながら読むこと。
意味不明箇所に気づくぞ!という意識を働かせることで、自分の理解をモニタリングする習慣が身につきやすくなりますので、これはとてもお勧めです。
第二段階は章を読み終わるごとに章の簡単なまとめ(要約)を作ること。
できるだけ本文を読み直すことなく、記憶を頼りにまとめノートを作ってみてください。ひととおり書き終わったら、さっと読み直して答え合わせをしましょう。
この2つによって「分からない」を発見し、さらに「読めた(分かった)」のレベルを上げることが可能です。
B)「分かった」の質を上げる
私たちが文章を読むとき、どうしても細かな言葉のつながりに拘泥しがちです。小中学生であれば、「知らない言葉、読めない漢字がなかった」だけで「読めました」と言ってしまうことも多いものです。
私たちの理解というのは、
- 表面的な意味が分かった。
- 書かれている文・文章の意味・コンセプトが理解できた。(テキストベース理解)
- 文脈の中での位置づけや、背景情報などが整理されて理解できた。(状況モデル理解)
こういう3つの段階で深まっていくものと考えられています。
それに加えて、言葉と言葉の連結によるミクロレベルの理解と、章立ての関係やロジックの構造などマクロ構造の理解との両方が噛み合って初めて「よく分かった」といえるものなのです。
この意味の深さとミクロ・マクロをマトリクスで表すと下の図のようになります。
「読んだ部分が理解できた」ことを積み上げていっても、書籍全体が理解できたことにはならないのが、文章理解の難しいところです。
さらには、
- その本の問題意識(論点)はどこにあるのか?
- その本が想定している読者は誰か?
- その本の究極の主張はどういったものか?
- その主張を支える論理(ロジック)はどのようなものか?
- 今、「分かった」と思ったことは、全体の論の中でどのように位置づけられているものか?
こういった要素を理解することで、著者が苦労して自身の体験と知識を詰め込んだ知恵が、あなたの頭脳にインストールされるものなのです。
2.自分のもともとの知識と融合させる
たとえば、「いい箱(1185)作ろう鎌倉幕府」── これを憶えることは簡単です。
ですが、それだと単なる「居酒屋でのプチ知識自慢」にしか使えません。「あー、知ってる知ってる!」的な会話。
でも、あなたが求めているものが表面的で断片的な知識ではなく、情報処理力、思考力といった、いわゆるインテリジェンスを鍛えて「賢くなる」ことであれば、知識をワンランク上げていきたいものです。
一番手っ取り早いのは「もともと知っていたこととリンクさせる」ことです。
以前に見たドラマとどうつながるのか、「1192(いいくに)」からどういう経緯(いきさつ)で「1185(いい箱)」に変わったのか。時代区分がなぜ動いたのか。さらには…
- なんで「いい国(1192)」じゃなくなったんだっけ?
- 「幕府」ってなんだっけ?
- よくいう「武士の台頭」って、どういう経緯があったんだっけ?
- そういえば、源氏って3代で滅んだけど、その後の将軍って誰がやってたの?(そもそもいたの?)
そういうところまで理解できるような学び方こそが目指すべき読書なのです。
自分の持っているあらゆる知識がどんどん有機的につながり合い、縦横無尽にロジックが張りめぐらされ、行き来するような理解です。
そういう有機的につながり、全体として構造化された知性を手に入れたいのであれば、読書で学んだことと、既有の知識とを意識的にリンクさせながらメモを作ることを習慣化しましょう。
理想はこんなノート作り!
構造化された知識を創り上げていくためにお勧めなのは、やはり明確に言葉として紙に書き留めていくこと。
特に、上述の「章を読むごとに、章のまとめ」を作ることが理想なのですが、この時にざっくりとした要約文を作って満足するのではなく、
- この章の論点は何か?
- その論点に対する主張(意見)はどのようなものか?
- その主張をささえるロジックはどのような構造になっているのか?
- その内容に関連する自分の知識や体験にはどのようなものがあるか?
- それに対して自分はどう考えるのか?
これらを明確に意識したノート作りをお勧めします。
そのフォーマットとしてお勧めなのは、世界中の大学教育で活用されているコーネルノートと呼ばれるもの。
詳しくは過去の記事に書いてしまっているので、そちらを参照していただきたいところです。
コーネルノート作りのポイント
上記の記事でも語っているのですが、あらためてポイントを整理しますと…
(1)章の論点と主張、ロジックを明らかにしよう!
これが理想的なまとめ作りの第1の条件。本全体の論点(問い)と主張が明確になると、書籍全体のロジックも俯瞰的にとらえやすくなります。
(2)書籍全体のロジックが見えてくるように章と章のつながりを確認しよう!
これが分かるようになると、書籍の要約も楽にできるようになりますし、同じテーマで意見が異なる書籍などと対比しながら理解することが可能になります。
(3)もともと知っていた知識や類書の情報などを書き加えよう!
これは超重要です。
この作業によって、書籍からの学びが、あなたの知識構造の中に位置づけられ、活きた知識になる可能性が高まります。
(4)読んだ後、書籍を見ないで思い出しながらラフに書き出そう!
この「思い出して書く(想起)」作業を「リトリーバル(retrieval)」と呼びます。これは読書を「学び」に変えていくために、とても重要な作業です。
もちろん、見ないで書くのには限界がありますよね? でも、それで「直後ですら、ちゃんと思い出せないレベル」であることを自覚できるわけです。
(5)再度、通読した上で、またノートに書き足そう!
想起作業を通じて、思い出せなかった部分、あやふやだった部分が確認できたら、あらためて再読(再学習)しましょう。
「想記+再学習(retrieval and relearning)」というタッグは脳の記憶構造を変え、記憶を強化する効果が期待できるのです。
Tay, K. R., Flavell, C. R., Cassini, L., Wimber, M., & Lee, J. L. (2019). Postretrieval relearning strengthens hippocampal memories via destabilization and reconsolidation. Journal of Neuroscience, 39(6), 1109-1118.
読書メモのサンプル
では、具体的にそれをどのような形にしていくかというのをご覧頂きましょう…。
まさに典型的なコーネルノートではありますが、論点・主張+ロジック、既有知識などを、段階を追って書いていけるようにしています。
上の例は書籍ではなく、短い読み物のまとめですが、どのような書き方をしたらいいかが理解できるでしょう。
(大学の授業で学生さんに課題として書かせたものです。)
授業では、下のようなフォーマットを提示してノート作りの練習をしてもらっています。
次の作品は読書会に参加してくださったメンバーさんが、読書会のための読み込み時にお作りになったものです。
どちらも一定の「型」を持ちつつ、それなりの自由度を持って書かれています。
あなたも、型を学びつつ自分なりの工夫を加えながら、理解が深まり、長く記憶に残るようなノート作りを試行錯誤してみてください!