先の見えない時代に勝つのは、ハリネズミかキツネか?─書籍『RANGE』に学ぶサバイバル能力のあり方

突然ですが、あなたは『スラム・ダンク』の桜木君が、安西先生との練習で、何本のシュートを打ったか憶えていますか?(知っていますか?)
 
あなたはある特定のジャンル(スキル)で一流になるために、意識的な練習時間を何時間くらい積み上げるべきと言われているかご存じですか?
 
30万部を売り上げた『GRIT』という書籍では、人生で何かを成し遂げる人に育てるために、子どもに何を身につけさせるべきと語られているかご存じですか?

答えは…

桜木君はシュート練習で…

2万本のシュートを打ちました。
最初に、ビデオでフォームを撮影して、矯正した上で。

ベストセラー『天才!成功する人々の法則』で…

1万時間の法則という言葉が語られ一時話題になりました。
かなり話題になりましたので、憶えている方も多いかも?

ベストセラー『GRIT』では…

やり抜く力(=GRIT)」こそが人生成功に不可欠な力であると語り、その後「マインドセット」なる言葉も成功者の心のあり方を語る言葉としてよく目にするようになりました。

ひたむきに専心するハリネズミこそ勝者…!

バイオリンなどの楽器は3, 4歳から始めなければ遅いと言われるのを聞いたことがあるかもしれませんね。
 
こういう、何かを成し遂げるには粘り強く取り組み、努力を積み上げる意志力が必要だとされます。
ビジネスの世界でいえば、名著『ビジョナリーカンパニー2』の中では「ハリネズミの概念」として、このひたむきな専心の価値が語られています。

偉大な企業への飛躍を導いた経営者は、程度の違いはあっても、全員が針鼠型である。(中略)比較対象企業を率いた経営者は狐型が多く、針鼠の概念にみられる単純明快さの利点を獲得できず、力が分散し、焦点がぼけ、方針に一貫性がなくなっている。
── 『ビジョナリーカンパニー2』(p.146)

ハリネズミの概念は真実だとしても…

世の中で成功するためには何か1つのことに専心・没頭して取り組む必要があることは間違いありません。
ただ、1つのことに専心・没頭して秀でることのリスクというものもあるかもしれないぞ、ハリネズミが勝利するというのは本当か? ──そんな疑念が生じる事態が、コロナ騒動の中で見えて来ました。

なぜか専門家を名乗る人達の見当違いな言説

最近のコロナ騒動を見ると、どうもテレビに出てくる専門医たちの予測が大いに的外れになっているのが気になります。
例えば、こちらはYahoo!ニュースとして掲載された感染症の専門医が執筆した記事。

この中で、感染者数が激増していることを危惧し、フロリダの例を持ち出し、日本も「2週間後には大惨事になる」ようなことを書いていらっしゃいます。

フロリダ州では6月から流行がさらに加速し、7月に入ってからは1日平均10000人以上が新型コロナと診断されています。
当初、流行の中心は若い世代であり、症例が増加しても死亡者は増えていませんでした。
しかし、高齢者の感染者が増加するにつれ、死亡者も増加傾向にあり、現在は1日に100人以上の方が亡くなっています。

この記事から1ヶ月が経過しますが、まったくそのような事態になっていないことは誰もが知っています。実はこの記事の前には「発症から7~10日経ってから悪化」するとしていましたが、その予測も外れています。今回も、上の記事から1ヶ月が経過し、重症者も死者もほとんど増えない(重症者は大阪の院内感染で増えましたが…!)状況に対して、専門家としてどう語るのでしょう?
 
これに対して、永江一石氏やホリエモン氏のような、世の中を広く分析的に見ることに慣れている経営者の方が的確に予測しているように見えます。
永江氏は3月、4月から現在のコロナの情勢を予測し、データを広く分析しながら的確な予測と提言をおこなっており、その提言の確かさが、時を経て確かめられています。

ご存じの通り、7月中旬頃、「2週間後には目も当てられない大惨事になる」と国会で涙ながらに訴えた学者がいましたが、あれから早1ヶ月…。
今の状況を、国会で演技をぶった先生も、8割おじさんも、どう説明なさるのでしょう…
 
そういえば、私が小学校4年生の時(1984年です)、現在のコロナ騒動で見られた「専門家に限って、視野の狭い分析をしてしまい失敗する」という代表的な例がアメリカで起こりました。
それはスペースシャトルの打ち上げ直後の爆発という大惨事。
NASAの精鋭たちが何重にも検証し、大丈夫と判断して打ち上げたわけですが…、専門的な知識を持っているが故の判断ミスをしてしまったのだそう。
 
そして、この失敗を、状況設定を変え、資料分析・判断を試す学習の題材にして、ある有名大学の授業をおこなったそうです。すると、全員(全グループ)がNASAの専門家と同じミスを犯し、大惨事を招く判断をしてしまったそうです。
 
実際、この「専門家が未来予測に失敗する」ことについて、こういう評価が下されています。

ハリネズミたちは、過去については見事な見解を述べるが、未来の予測ではチンパンジーのダーツ投げ並みだ。
── 『RANGE』より

コロナ騒動での、医師やウイルス研究の第一人者達の見当外れな未来予測を目の当たりにした今、この話は非常に納得感が高く響いてきます。

ハリネズミ的な専心と努力のもう1つの弱点とは?

ハリネズミ的な努力の負の側面として、もう1つ考えなければならないことがあります。それは「粘り強さ」がもたらすリスクです。
書籍『RANGE』では、ベストセラー書『ヤバい経済学』の著者、スティーブン・レヴィット氏の言葉を引いて、こう語っています。

「『勝者は決してやめないやめる人は決して勝てない』などの格言は、善意から出た言葉だとしても、アドバイスとしては非常によくないと思う」。レビットは自分が持っている重要なスキルの1つとして「断念すること」を挙げる。
── 『RANGE』(p.184より)

そして、学校も本来、モラトリアム期間を作ることで、「自分が何者でどんな仕事に合っているのかを探す間、専門特化を遅らせる役割」(p.180)があったはずだと指摘します。
 
そのモラトリアム期間を儲けず、何か1つのことにこだわり続けることは、その道を断念せざるをえない状況になった時(社会の変化かも知れないし、自分の限界を悟った時かもしれないし…)、思わぬ苦労を背負うことになりかねません。
スポーツ選手のセカンドキャリア(の難しさ)が、非常に大きな問題として語られて(語られ続けて)いるのも、その現れでしょうか。

軽やかな身の振り方こそが吉?

何か1つの世界に突出するよりも、器用にいろいろ出来た方が世の中を上手に渡っていけるのでは? ── あなたはそういうふうに感じませんか?
コロナ後、あるいは謹慎処分後の芸人さん達のリバイバル。はたまた、スポーツ選手の引退後の活躍などを見るにつけ…。
 
実は「自分を商品としてプロデュースする時の考え方」として、「1つのことに対して、正しく努力をすること」と、「自分が輝ける場所を見つける」ことの両面から語った人がいます。
── 島田紳助氏です。
 
島田氏は、正しい努力の仕方を説いた上で、その世界で自分が通用しないと気がついた時には他の道を探すべきであるとし、方針転換をした時に通用するような努力を勧めています。

誰でも頑張って「5の努力」をすれば、「5の筋力」を得ることができます。
それを得ることができたら、この世界が駄目でも、他の世界で絶対成功できます。
── 「自己プロデュース力」(p.103)より

実際、これだけ変化が激しい社会では、これまで基盤となっていたものがあっという間になくなってしまうこともありえます。コロナで「対面販売」ができなくなった商売、そしてその中でもYouTubeやオンラインビジネスなどで、それまでと違った花を咲かせた人達を思い浮かべるだけで、納得できるはずです。

実は天才的プレーヤーには2つのタイプがあった!

実は「天才(的プレーヤー)」と呼ばれる人達には2種類いて、幼少の頃から才能を発揮し、ずっとその世界でやってきた…というパターンと、小学校の高学年まで、いろいろ試し、経験した上で1つのこと、本当に「これをやる!」と決めたことに集中して成功したパターン
 
ビジネスの世界でも同じ事が言えるようです。
3M(ポストイットの会社)には特別な研究員がいるらしいのですが、その人達の中で成果を上げている人たちも2種類に分かれているそうです。何か特別な分野に突出した研究をしている人と幅広く研究している人なのだそうです。

ちなみに、これについてこういう補足説明がありました。
「開発者の中には、幅も深さもそれほど際立っていない人がいたが、そうした人たちによる貢献はなかった。」(『RANGE』より)
いわゆる器用貧乏になりがちなタイプですね。

そういえば、ビジョナリーカンパニーでも「大量のものを試して、うまくいったものを残す」(第7章)の重要性を強調していますし、同シリーズ4では、「銃撃に続いて大砲発射」という比喩を用いて、その重要性を語っていましたっけ。GRITやビジョナリーカンパニー2で語られる努力を、そういうふうに解釈し直すと、腑に落ちるかもしれませんね。

あなたはRANGEをどう作る?

変化の激しい時代に、どう学び、どうキャリアを作っていくのが、サバイバル能力を高め、何かを成し遂げる力につながるのか?
その答えは明快です。──幅(range)」を作るべし、と。
 
スペシャリストではなく、ジェネラリストになること。もちろん、なんとなく適当に広い…ではなく、どれも一生懸命に打ち込み、成果を上げつつ、興味の赴くままにいろいろ試してみること。合わないな、とか、飽きたなと感じたら、気軽に路線を変更すること。
 
だからといって、「ただ広く浅く知っている」ことはもちろん意味がありません。知っていることを、様々な角度から分析・検討し、今のあり方、進むべき道を見極める力、何か不測の事態が起こったら的確に対応できる力も必要です。
 
変化の激しい時代に求められるのは、柔軟、しなやかで強い思考回路。そしてもちろん行動力・実行力

これを私はしばしば「サバイバル能力」と呼んできました。
 
読書法も学ぶ理由も、速読技術を身につける理由も、そこにこそあるのです。
必要に応じて、自由自在に学び、試し、自分自身を変えていく力です。
 
読書法講座を学んでくださった方は憶えていると思いますが、読書も読みやすい本を気楽に読み、思考を停止してただ読むだけではサバイバル能力が養われません。
哲学や小説などをじっくり読み、味わったり、作者と対話をしたりといった、思考力を高める読書も必要です。ジャンルでいえば、複数のジャンルにまたがった幅の広い読書をしていく必要があります。

さてさて・・・あなたは、コロナ騒動の中で、焦ることなく変わり続ける現状に対処し続けられた人ですか?
やってきたことが通用しなくなり、途方に暮れてしまった人ですか?
 
もし「ひょっとして後者…?」という心当たりがあるなら、ぜひ幅広く学んでいきましょう。
変化はまだ始まったばかりですよ。
 
 
インテリジェンス・ジムあるいはビジネス読書道場にご参加なら、先日アップした動画で、今回の本『RANGE』について詳しく解説しています。ぜひ視聴してみてください。
 
そして、ぜひネタ元の書籍『RANGE』を読んでみてください。

 
 
丁寧に読み、描かれている多数のストーリーに身を置いてシミュレートしてみることで思考を鍛えることもできます。
実際、内容はとても濃く、じっくり時間をかけて読み込むだけの価値がある本です。
 
これから起こるであろう、様々な変化に、柔軟に、しなやかに、そして軽やかに対応できる頭を手に入れましょう!

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