速読は、あなたを天才にするか?── 最終結論!

1980年代、第1次速読ブームと呼ばれる時期がありました。
 
右脳活用」「潜在意識で処理」「科学的」といったキーワードが飛び交い、テレビではいわゆる写真記憶の持ち主が生出演し、ぱらぱらーっと本を眺めただけで、内容に関する質問に的確に答えていくというショーが注目されました。
そして「写真のように写し取る」というキーワードでアメリカ発の速読法が上陸し、話題をさらったのが2000年代。この時、第2次速読ブームと称されるほどに、速読関連の話が盛り上がりました。
 
そしてここ1, 2年、これらのブームで話題になったキーワードをそのままコピーしたかのような「1冊3分」をうたう速読法が盛り上がっています。
 
すべてに共通するのが「従来と違う脳の使い方」によって、「超高速に文章を読み取り、一字一句を理解し、記憶できる」と主張していること。

速読希望さん

速読をマスターしたら、僕も天才になれますかね!

そんな妄想を抱く人が出ても仕方がありません。(高校時代の私もその一人でした…)
 
しかし、実際のところ、天才が速読を自由自在に使いこなすという例はいくらでもあるのですが、速読を練習によって身につけた人が、それだけで天才になるという話は聞いたことがありません。因果関係が完全に逆なのです。
 
「すべてをちゃんと読んで、分速10万文字(1ページ約0.3秒、1冊1分)」とうたい、「科学的速読」を標榜するパク・佐々木メソッド(第1次速読ブームの名残、韓国発の速読教室)なんてものもありますが…。
“科学的”とは名ばかりで、単に速読できる人を科学的に調べてみたというだけの話であり、しかも日本の脳科学者の研究ではこんな結論になっています。

…the results revealed rather poor performance in the Park-Sasaki trainees. That is, the negative speed-accuracy correlation involving both untrained participants and the trainees suggested a speed-accuracy trade-off.
────
▼寺田のてきとー訳
結果からは、パク-佐々木式の訓練者は、いただけないものだということになる。それは、訓練非経験者と(スピード・理解度のトレードオフが確認されている)訓練経験者を含めて、読書スピードと理解度とには負の相関があるということだ。

その他の速読法についても、現代の脳科学や心理学では完全に否定されており、超高速に文章を読み取り、一字一句を理解し、記憶できるような速読はありえないと結論づけられています。

速読教室は、あの手この手で受講者を欺し、「あなたも天才になれる!」とうたっているに過ぎないわけです。
ですが、残念なことに、一度「えっ!それは凄い!」という感情を揺さぶられてしまうと、どれだけ冷静に、否定的な事実を突きつけられても、どこか「いや、ひょっとしてあるのではないの?」という思いが捨てられないんですね。一度、感情を揺さぶった上で、相手の理性を奪い信じ込ませるのは詐欺師の常套手段です。(このあたりを詳しく学びたい方は『信頼と説得の心理学』をどうぞ。)
 
もう、心を揺さぶられて「実はできるんじゃないか?!」と思ってしまっているあなたに、この説明は響かないかも知れません。そういう方は、ぜひ“自分の信じていることが正しいことを確認するために”ということで、次の記事に紹介していることを試してみてください

速読できる人をどう説明するか?

速読希望さん

でも、1冊3分とか5分で読める人って、実際いますよね?

確かにその通りです。でもそれは、フラッシュ暗算ができる人がいたり、メジャーリーグで10年以上200本安打を達成する人がいたりするのと同じ。
 
できる人がいることと、誰でも努力すればできることは完全に別の話です。
 
そもそも速読で実現できる速さというのは、次の式で表すことができると考えられます。

速読=スキーマ×心身のコントロール技術×フォーカス

スキーマというのは、認知の枠組みなどと表現されますが、簡単にいうと脳みそのデータベースです。1冊3-5分で処理できる人は、ここが膨大な人だと考えられます。また、そういう人は自分自身の読書の感覚をモニタリングできており、視野や読む意識の感覚を意図的にチューニングしていること(つまり「心身のコントロール技術×フォーカス」の項)を、そういった天然の凄い速読実践者2人(田口元氏と土井英司氏)へのインタビューで確認しています。
 
心身のコントロール技術×フォーカス」の部分は、その人のスキーマのパワーを最大に引き出す効果しかなく、それで天才になれるものではありません。一読して理解できないものは、速く読んでも理解できないし、記憶に残ることもありません。これって、考えれば、すごく当たり前のことですよね?

速読教室の宣伝で登場する1冊を3分もかからずに読み終える子どもは、脳の文字の処理が特殊だと考えられます(「心身のコントロール技術」とは違う次元の話。想像ですが、一種のディスレクシアか、サバンに近い脳の使い方をしているものと想像しています)。ただ、そのような子どもが、それで本当に書籍を理解できているのか、どのような本を速読できているのかは科学的に検証されておらず不明です。

「現実的な速読」とはどういったものなのか?

だからといって、「速読はウソ」とか「速読は存在しない」というわけではありません
ただ、理解度をそのままに、記憶にも残しながら、一字一句を丁寧に高速に読むことが、普通の人には(トレーニングをしたとしても)不可能というだけの話なのです。
 
現在の科学的な知見(心理学専門レイナー教授らの長年の研究の成果等)を踏まえて考えるなら、速読というのは次のようなものと考えるのが妥当です。

  • 【1】速読スキル(頭の中で読み上げる内声化をなくすというのが現実的?)があれば、読みやすい文章を、スピーディーに読むことが可能。
  • 【2】フォーカスを「概要」や「大雑把な流れ」に置けば、スピーディーに読むことが可能。

【1】読みやすい文章を、スピーディーに読むことが可能

これは速読スキルの有無に関わらず、読みやすい文章は理解度を落とさずに速く読めるということは当然のことだと理解できるでしょう。以前こちらの記事で紹介したとおり、「頭の中で読み上げる癖(内声化)をやめることで、60%くらいのスピードアップが見込める」ことが分かっています。ただし、あくまで読みやすい、文章構造がシンプルなものに限られます。

【2】フォーカスを「概要」や「大雑把な流れ」に置けば速読できる

教育心理学の研究によれば、読書スピードに影響を与えるのは、以下の3つの要素だと考えられます。

The factors which interact to determine reading rate are the individual's reading style, the difficulty of the material, and the purpose for reading.
──────────────
▼寺田のてきとー訳
読書スピード(効率)を決める要因は、(1)個人の読書スタイル、(2)コンテンツの難易度、(3)読書の目的である。
“Establishing Appropriate Purpose for Reading and Its Effect on Flexibility of Reading Rate” by Samuels & Dahl(1975)

実は、この説明は「読みの柔軟性(reading flexibility)」に関する論文の一節です。本によって、あるいは1冊の中でも部分によって、読み方を自在に変化させ、柔軟に読み方を変える技術です。この(2)が上記【1】に対応し、(3)が【2】に対応しますね。

長年の研究から「速読はトレーニングでは実現できない」と結論づけたレイナー教授も、【2】を目的としたスキミング(一種の拾い読み)の効果は認めています。同時にそれは「説明的な文章」で有効なのであり、小説などは効果が得にくいとしています。

フォーカスを明確にすることが重要!

そういうわけで、概要にフォーカスした場合や、特定の問題に関する答えを求めて読む場合、つまりフォーカスが明確な場合読書スピードを上げることが可能ですが、当然のことながら、そのような読み方では、設定したフォーカスに沿ったものしか読み取れないと考えるのが妥当です。(”Psychology of Reading” chapter 13, Flexibility in Readingより)
 
この「フォーカスが明確な場合はスピードを上げられる」という考え方こそ、上記の式の中の「×フォーカス」という部分であり、拙著『フォーカス・リーディング』でご紹介したこちらの式の考え方そのものです。

読書の価値は、コストを絞る(時間を短縮する)ことで高めることが可能だけれども、それは「手に入れたいベネフィット(Function)が明確な時にのみ有効」なのです。
 

結論:速読の有効性とは?

では、現実的な速読というのはどういうものか、ということをまとめますと、

  • 読む対象は、説明的な文章に限る。(ビジネス書や自己啓発書、学術書)
  • 一番有効な速読スキルは「スキミング」であり、フォーカスが「概要」や「文章の流れ」に設定されている場合である。
  • 文章が読みやすかったり、スキーマや既有の知識と親和性の高いものだとさらによし。すべてがそうでなくても、そのような部分を臨機応変に軽やかに読めれば、スピードアップにつながる。

・・・という完全に夢も希望もない、単なる読書技術ということになります。しかも、それで読める(理解する)ことと、記憶に残せることは別問題なので、それは学習戦略として考える必要があるのは当然のこと。
 
ちょっとトレーニングしたくらいで、複雑な認知作業である読書が劇的に変わって、天才になる(1冊を3分で読めて記憶に残せるのを「天才」と言わずなんと呼ぶでしょう?)ようなことは科学的には絶対にあり得ないのです。

それでも速読で賢くなりたいなら…?

そういうわけで、速読をマスターしたら天才になれるなんてことはないと結論づけられるわけですが、読書という営み自体が、あなたの脳みそを進化させる可能性を持っています。いくつかの条件を満たす必要はありますが、読書を通じて新しい知識や概念、あるいは思考法を手に入れることは、パソコンに最新のOSをインストールする以上の効果が期待できます。
通常、古いパソコンに新しいOSを入れると、パソコンに無理がかかり動作が遅くなったり、エラーが出てしまったりといったことが起こりがちです。しかし、読書を通じてインストールされたOSは、脳みそそのものを強化し、アップグレードしてくれることが分かっているのです。(Tay, Flavell, Cassini, Wimber & Lee, 2019など)

Tay, K. R., Flavell, C. R., Cassini, L., Wimber, M., & Lee, J. L. (2019). Postretrieval relearning strengthens hippocampal memories via destabilization and reconsolidation. Journal of Neuroscience, 39(6), 1109-1118.

読書にアルゴリズムを持ち込もう!

脳みそをアップグレードするような読書とはどのような読書か気になりますよね?
それは端的に言えば、次の2つのような要素を満たした読書と考えられます。

  • 1.今まで自分が知らなかったこと、分からなかったことが分かるようになる読書
  • 2.一度読んで満足せず、何度かの重ね読みと、時間を空けての想記と復習をおこなうなど、システマティックにおこなわれる読書

他にも、様々なジャンルの本を読むこと、読んだ内容について人とディスカッションすること、同ジャンルの複数の書籍を対照しながら読むこと、といった条件が考えられます。

この2つの要素はセットで考えるべきものと考えられます。そして、1の「分からなかったことを分かるようになる」ためには、一度はゆっくりと吟味・思索しながら読まざるを得ません。
 
2については、retrieval practice(想記テストによる復習)やrelearning(再学習), spacing effect(時間を空けた反復)など戦略的な学習が必要になります。このような戦略的な学習を「戦略的読書アルゴリズムstrategic reading algorythms)」と呼び、アメリカなどでは読書を通じた学習の基本戦略として広く知られています(PQRSストラテジーやPRORストラテジーが有名)。

戦略的読書アルゴリズムの例:PQRSストラテジー

このPQRSに代表される戦略的読書アルゴリズムは、1回ごとの読書でフォーカスを明確にします。そこでは

  • 読者の目的は何か?(purpose)
  • 自分はそれについて何を知っているのか?(What I know)
  • それで何を得られれば満足か?(What I want to know)
  • どのような読み方をしたら、それが得られるか?(How I learn)
  • 最終的に何が学べたのか?(What I've learned)

こういったことを考えながら(これをKWHLストラテジーと呼びます)、1回ごとのフォーカスを明確にした上で、反復した重ね読みします。
 
そこでは、上述のように「フォーカスを明確にした読書」ということで、速読の活躍シーンが増えることになります。これこそ、まさに「速読で賢くなる」という大本命に直結する速読の効果と言えるでしょう!

速読の思わぬ効果も!

さらに実は速読には「読みやすい本を速く読む」以上の効果があることが分かっています。

スキミングの学習における効果がすごかった!

PQRSの「P」つまり「下読み(preview)」ではスキミングを使うことがお薦めなのですが、この「下読みとしてのスキミング」は、後で読み重ねる「R」つまり「理解読み(read)」の読書スピードと理解度を高める効果があるのです(McClusky, 1934など)。

McClusky, H. Y. (1934). An experiment on the influence of preliminary skimming on reading. Journal of Educational Psychology, 25(7), 521.

また、第2言語学習の研究では、「読みやすい題材」「無理なく読める語彙」のテキストで速読トレーニングを採用すると、学習のモチベーションが上がりやすく、通常の速読スキルが及ばないような本も快適に読めるようになるとされています(Macalister, 2010)。

Macalister, J. (2010). Speed Reading Courses and Their Effect on Reading Authentic Texts: A Preliminary Investigation. Reading in a Foreign Language, 22(1), 104-116.

そして、また寺田の研究(2018-2019)では、PQRSに従った読書(これが「フォーカス・リーディング」です)を学ぶことで、速読スキルのレベルは様々ですが、学生さん達の読書へのモチベーションが上がり、読書量、しかも大学のテキストやゼミの教材、論文などの読書量が大幅に増えることが確認されています。

しかも、ノート法も学ぶことで、PQRSの学習効果も劇的に高まることが期待できます。

【結論】速読技術は使い方次第で、あなたを賢くしてくれる!

結局、速読をマスターしたからといって天才になることは絶対にないのですが、速読スキルを活用した戦略的な読書を積み上げられると、あなたのインテリジェンス(知性)を、あなたの必要に応じてどんどん高めていくことが可能だと言っていいでしょう。
 
そして、その発想で、様々な読書教育に関する研究をベースに作られたのが「フォーカス・リーディング」であり、決して魔法ではないけれども、「自分の未来を、学ぶことで切り拓きたい」と願うあなたにとって、有効なスキルとなると確信しています。
 
速読をマスターすることが目的ではありません。
速読をマスターした後こそが重要です。ぜひ、効果的な読書を、あなたの未来のデザインにしたがって読み重ね、積み上げていってください!


登録解除

0 0 vote
Article Rating

関連記事

Subscribe
Notify of
guest
0 Comments
Inline Feedbacks
View all comments
0
Would love your thoughts, please comment.x
()
x