昨日は西南学院大学での授業。
課題図書は『タテ社会の人間関係』というミリオンセラー&ロングセラーの名作。
大学生には是非とも読んでおいて欲しい1冊なのですが、少しだけ読書力を要します。
一昔前に出された、こういう学術的な書籍は、今どきの新書やビジネス書のような「わかりやすさ」を、それほど大事にしていません。(この本が出版されたのは私の生まれる前ですからね。)
例えば、こんな、4行に渡る文が出てきたりします。
(英単語を含めず、句読点を含めて140文字!)
したがって、筆者がここに提出する、日本の諸社会集団にみられる諸現象から抽出された構造の理論的当否は、その論理的一貫性(logical consistency)ばかりでなく、実際の日本社会に見られる諸現象、日本人のもつさまざまな行動様式、考え方、価値観などに対する妥当性・有効性(Validity)の存否によってもテストされうるのである。
この文は、当然のように前段での説明を踏まえて書かれていますから、それぞれの語句が何を意味し、何を指し示すのかという理解も必要です。
そして、「理論的当否」という時の「理論」と、「論理的一貫性」という時の「論理」の違い、「妥当性」と「有効性」の違いなどを明確な言葉で説明できなければなりません。
そういう意識的に処理しなければならない言葉が、かくも長ったらしい文に詰め込まれているわけです。
1冊の学術書(の入門書)をどう読み解くか
文のスケルトンを浮かび上がらせる
さすがにこれだけ濃い情報がだらだらと続くと、すんなり一読では頭に入って来ないかも知れませんね。それでも、冷静に分析してやれば、それほど複雑怪奇なことが書かれているわけではありません。
この文章のスケルトン(骨格)を取り出すと「【主語】構造の理論的当否は【述語】テストされうるのである」というシンプルさ!
文章の骨格を取り出すことに慣れていくと、一見複雑そうに見える文も、すんなりと理解できるようになっていきます。
これは、修飾関係が複雑な英文でも同じですよ。(^^*
私が高校生の頃、旺文社の「英語・標準問題精講」には、必ず長文の下に構造を図解したものが載っていました。
書籍全体の構造を浮かび上がらせる
私たちの脳の「意識的な作業」は意外とキャパが小さいんです。
ですから、ちょっと面倒な意識の作業を自動化していけるかが、トータルの読解力に大きく関わってきます。細かな部分に意識の処理を奪われている限り、全体像が見えてくることはありませんし、記憶に残るような整理された理解にもなりません。
まず「ミクロ」のレベルで文・文章を正しく理解する。
表現であるとか、論理であるとか、事実(関係)などの不明点を洗い出していく。
その上で「読書」としての「マクロ」レベルの読解作業に挑む。
すなわち全体の構造(書籍・章の構造、論理構造)把握を目指す。
今回の授業では「全体のロジック構造を図解化する」というワークを事前の宿題としてさせてきて、それについて授業で検証作業をしていきました。
章ごとの要約作業をおこない、それぞれの章の関わりを、矢印などを使い構造が浮かび上がるような形に整理するのです。
新書などの学術書(の入り口の本)を読むような「読書力」は、こういう具合にレベルアップを図っていきます。なかなか大変ですが、これを数冊こなしていくと、さすがに本の構造をつかむのがうまくなっていきます。
「読書」の大前提の「文・文章の理解」を固めよう!
この西南学院大学の読書講座では、予習として次の3段階の読書を推奨しています。
1.【下読み(速読・概観)】
2.【本ちゃん読み(精読・精緻化)】
3.【振り返り(構造とポイントの確認)】
速読技術も学んでいますから、読みやすい新書であればこの3段階を60分(10分+40分+10分)、難しめの新書であれば90分(20分+60分+10分)を目安に読むように指示しています。
ただ、その前提としてミクロレベルの理解で雑さがない状態、マクロレベルの構造をつかみ、頭の中で構造化しながら読んでいく力をトレーニングしておかなければいけません。
これが一朝一夕には完成しないことは十分に理解できることと思います。
ぜひ、何らか小学生から中学校1年生の間に、読解力、文法的分解力を鍛える取り組みをさせておきたいものです!