「速読」なんて存在しないことが科学的研究で明らかに?!

速読&読解関連コラム

世の中には、夢と希望をふりまく速読メソッドがあふれています。
 
しかし、おもしろいことに、読書や学習の権威、あるいは科学者と呼ばれる人は、その存在を明確に否定しています。
 
とはいえ、「速読がある」と主張する人たちも、「速読なんて嘘だ」と主張する人たちも、どちらも共通していることがあります。それは「科学的な検証をせずに主張している」ということ。
 
現実的な話でいうと、次のことは「真実」と言って間違いありません。

  • A.世の中には、信じられないスピードで、しかも理解度高く読める人たちがいる。
  • B.速読教室に通って速読をマスターした人も、確実に存在する。

Aについては、楽天の三木谷社長、GMOの熊谷社長、エリエスの土井英司社長、元Livedoor役員の小飼弾氏などなど、「天然で1冊5分で読める人」は数多(あまた)いらっしゃいます。彼らの共通項は「万」の単位で本を、しかも古典から教養書から新書まで、あらゆるジャンルの良書を読んでいるということ。
 
Bについては、Aとも絡むのですが、年間100冊以上読むレベルの読書家であれば、どのような流派に通っても、かなりの確率で速読をマスターすることができるものなのです。
 
ここで「ただし」という話になります。
 
私(フォーカス・リーディング開発者、寺田)の元には、これまで合計7つの速読流派の先生方(FC加盟教室の先生であったり、本部の社長であったり、速読のベストセラーを出している先生であったり…)が相談にいらっしゃっていましたが、多くの教室では、読書が苦手な人のみならず、普通の人(そこそこ本を読む人ですら)速読をマスターすることができていないのです。もちろん、(私の知る限り)インストラクターの方もたいていは速読ができず、表面的な指導法を学んでいらっしゃるに過ぎないという残念な実態があるのです。
 
そして「さもありなん」的なお話が、ここでのテーマでして、実は、2017年現在、科学的(心理学、認知科学的)見地からは、速読は完全に、その存在を否定されているのです。

科学論文で示された速読に否定的な見解とは?

その衝撃的な科学論文はこちら。

So Much to Read, So Little Time:How Do We Read, and Can Speed Reading Help?

 
レイナー教授(心理学)らの長年の研究の成果としてまとめられたもの。 
目の作り、文字・文の意味の認知プロセスなどなど、「読解」の基本から徹底的に解説しつつ、速読は本当に可能なのか?を検証しています。その上で、各種の速読流派が主張している「速読の根拠」をことごとく否定しています。

目を速く動かしても無駄

まず重要なことは、

The factor that most strongly determined reading speed was word-identification ability. This finding suggests that reading speed is intimately tied to language-processing abilities rather than eye movement-control abilities.
読書スピードを強く既定しているのは、単語識別能力であり、この研究からいえるのは、読書スピードは、目の動きではなく、言語処理能力と密接に関わっているということだ。

 
という事実。その時点ですでに「目を高速に動かす」意味が失われるわけですが、さらに追い打ちをかける科学的な事実があります。
 
1950年代の研究ですでに明らかになっていたことですが、目が動いている間(約0.03秒)、脳は文字情報を受け取っておらず(脳内で意味の処理は続いていると考えられています)、文字の上に停留している僅かな時間(約0.3秒)で文字情報を受け止めているのです。
また、停留時間のうちやく30~50%くらいの間も文字情報を受け取ることができないことが分かっています。もし、3倍速で目を動かしたなら、情報処理時間の70%近くを削ることになり、文字情報を受け取ることができない30%だけが残されることになります。
 
つまり、目を速く動かすということは、情報を受け止めるために必要な停留時間を削ることに他ならず、速く読むことには何ら貢献しないのです。
 

視野を広げても無駄

目の構造上、情報を処理可能な視野角というのは限られています。しかも、それは物理的な視野と比べて非常に狭いのです。(ただし、明瞭にとらえられた視野の周辺部=前後の文節=からも意味を受け取って入ることが分かっています。)

The final aspect of the perceptual span that we should point out is that readers do not access any information from the lines above or below the line currently being read.
我々が指摘すべき認知スパンについての最終的な見解としては、読み手は読んでいる行の上下いずれの行からも情報を受け止めることができないということだ。

「頭の中で音にしない」は無駄

頭の中で文字を読み上げるから遅くなるのだ、頭の中で読み上げなければいいという主張も多いのですが、2つ言えることがあります。
1つには、世の中には元々、頭の中で読み上げることなく理解できる人が一定割合(1割前後)おり、「それができる人」がいるからといって、それが誰にでも有効というわけではありません。(これは別の論文からのお話です。)
そしてもう1つ、(こちらはこの論文から)結局の所、頭の中で音にしなければスピードが上がったとしても、(読む文章が簡単なものでない限り)確実に理解が悪くなるということです。

世の中には「読んでいる時、数を数えましょう」とか「意味のない(関係ない)言葉を唱えましょう」などという人がいますが、これも同じ結果に行き着きます。

These findings support the idea that, when it comes to understanding complex materials, inner speech is not a nuisance activity that must be eliminated, as many speed-reading proponents suggest
これらの結果から分かるのは、複雑な文章を読む際には、内声化は、多くの速読提唱者がうたうほど、決して忌み嫌うものでも、なくすべきものでもないということです。

コンピューターで情報を高速に表示させるのも無駄

スマホアプリなどで、文章を細切れにしたものを連続高速表示する(RSVP=Rapid Serial Visual Presentation)とか、流れるように表示するとか、そういった「速いスピードに慣れさせて、高速に処理できるようにしよう」という効果を狙ったものが多数あります。
 
それらについても、研究の結果からは否定的にならざるを得ません。
そもそも、難しい言葉も処理が簡単な言葉も機械的に表示されてしまえば、難しい言葉が処理されずに忘却の彼方に向かうことは容易に想像できます(実際にそういう結果が出ています)。
また、別の研究によると、連続して言葉が表示されると、記憶の中で前後の言葉が干渉し合い、理解・記憶が悪くなることがあるとされています。
 
なお、日本のパソコンを使う流派などで頻繁に主張される「高速道路から降りてきた時の効果」、さらには脳の可塑性(※)によって、次第に高速処理に慣れてくることで、速読が可能になるという説があります。
※脳が環境の変化等によって、その状態に変化を起こし、それに適合的な状態を保ち続けること
 
これはそもそも科学的な根拠がないだけでなく、現実問題として「高速道路から降りてきてスピードがゆっくりに感じられるのは、料金所までに過ぎない」という事実から、簡単に否定されます。そして何より、それを主張する3つの流派から「なぜ、これで速読が身につかないのでしょうか?」と私に相談しにきているのも、効果がないことの何よりの証拠です。

結論

結論はレイナー教授の言葉を引用させていただくことにいたします。

In this article, we have seen that there is no such magic bullet. There is a trade-off between speed and accuracy in rading, as there is in all forms of behavior.
この論文で見てきたとおり、そんなマジカルなものはないということだ。そして、読書スピードと読みの正確さの間には、どんな行動にだってあるように、トレードオフの関係が存在するのだ。

では、フォーカス・リーディングって何よ?

恐らく、ここまで「速読は詐欺」みたいな話を書いてしまうと、「では、お前が主張している速読とは何なのだ?」ということになろうかと思います。
 
それについては、また少しずつ書いていこうと思いますが、とりあえず「このレイナーの論文で検証も否定もされておらず、世界中で他にまったく実践されていないメソッド」とだけ、ここでは書いておきます。
 
ただ、怪しいものでも、最先端の科学的なものでもなく、禅の発想であり、スポーツ科学の発想で作られたメソッドであり、いずれ科学的な検証の俎上に乗せていきたいと思っています。
 
2018年中は、ひとまず「速読技術(戦略)が、大学生や社会人の読書の苦手意識を克服し、効果的な読書に向かわせる一助になりうる」ことを量的研究でもって確かめつつ、その効果と限界を見極めたいと思っています。
 
その上で、2019年中には「速読が可能になる原理」についての科学的な検証に取りかかれればと考えています。

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

関連記事一覧