「速読をマスターする鍵は、頭の中で音声化(内声化)をしないことだ」とする言説は、かなり昔から語られています。
ですが、こちらの記事に書いたとおり、内声化を除去することは読書の質を落とすことにつながり、なかなかうまくいかないと感じる人が多いのが事実。
These findings support the idea that, when it comes to understanding complex materials, inner speech is not a nuisance activity that must be eliminated, as many speed-reading proponents suggest
これらの結果から分かるのは、複雑な文章を読む際には、内声化は、多くの速読提唱者がうたうほど、決して忌み嫌うものでも、なくすべきものでもないということです。
So Much to Read, So Little Time: How Do We Read, and Can Speed Reading Help? by Rayner et al.
つまり「速読で内声化は悪か?」という問いに対しては、「全然そんなことないよ」という話なんですね。
というか、内声化を排除してスピードだけ上げた速読で、いったい何を得ようとしているの?という話なんですが…。
速読トレーニングとして内声化除去は有効か?
次に、内声化除去ができたら速読が実現するのかというお話。
速読トレーニングにおける内声化除去の効果については、広島大学大学院教育学研究科の教授である森田愛子先生が学生を被験者として検証しています。
森田愛子先生の論文(教育工学会誌・ショートレター)
森田愛子先生プロフィール
森田先生の研究結果
論文には次のような結論が示されています。
構音抑制群(※内声化を排除するようなトレーニングを課せられた被験者グループ)では読み速度が平均して60%上昇し…
(中略)
トレーニングによって、内声化を減少させた読み方にシフトできる可能性は示された。
※括弧内の注釈は寺田による
あくまで速読検証のための読みのテストでの結果に過ぎません。つまり、無目的に「理解できるかどうか」だけで読みの判定をした結果です。ですので、これが実際の読書にどう使いこなしうるのか、どのような文章をどの程度の理解で読むのに使いうるのかは不明です(検証しようがない!)。
ですが、それほど劇的な効果ではないものの、速読技術につながる効果あり!という結果のようですね。
速読の原理として補足するなら、
- この内声化除去のトレーニングだけで速読技術が完成するものではない。(森田氏の実験では、スピード上昇率60%程度)
- 内声化除去は、観の目付の上に成り立つ入力レベルコントロールのトレーニングとセットになって初めて効果がある。
と考えられます。
問題は「内声化」をどう使いこなすか
森田先生の論文で「速読につながる可能性」が示唆されているといっても、それはあくまで可能性の問題であり、あくまで実験として行われたものに過ぎません。
どういうことかというと、「それで、本当にあなたの日常的な読書が60%加速するかどうかは不明」ということ。実験室で行われる物理実験で「摩擦や空気抵抗は考えないものとする」とか、そういうのと同じ類いものだってことです。
一番の問題は、先のRayner氏らの論文にあるように「複雑な文章」を読む場合です。
指導の経験と私自身の読書の実態から言えば、内声化を排除した読み方というのは、あくまで一読したら理解できる読み物に対して有効なのであり、分析的な読解を要するものには使えません。
どのレベルの書籍であれば、内声化を排した読みで対応できるかは、その人の経験値(スキーマ)次第です。
そして、1つのコンテンツの中でも内声化を除去しても十分に処理可能なところと、丁寧に(内声化ありありで)読み解いていくべきところがあるはずです。
そのことを考えても、「内声化を排除したら速読できる」といった単純な話ではないことが分かります。
目指すべきは、
内声化を排除しても理解できる回路を作った上で、読みの目的とか目指す理解の質、レベルに応じて、読みのスピード、内声化活用の程度をコントロールする技術を修得すること
と言っていいでしょう。
結論的な話
速読の世界でしばしば語られる「頭の中で音声化する癖をなくす必要がある(音声化をなくせば速読できる)」という話は、「内声化すると、じゃっかんスピードが上がる」という話であり、それは十分条件とはいえないものですし、それが必要条件であるかどうかも不明です。
基本的に、誰かが「これでできるぜ!」と主張している言葉に煽られず、「実際、それで自分の読みたい本は、読みたいように読めるのか?」ということを、身をもって判断したいものです。これは速読について語っている書籍であれブログであれ同じですよ。
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この内声化除去のためのトレーニングは、こちらの2つの記事で紹介していますので、ぜひ参考にしてください!