文章力を高めるためには、どんな「仕込みとしての読書」が必要か?

こんにちは。読書と学習法のナビゲーター、寺田です。
 
実は私は、予備校講師・高校教師時代に、高校生相手の小論文指導を通算7年やっておりました。
 
中学校に勤務していた2年間は、総合的な学習の時間に論理的文章トレーニングを少々、というレベルでしたが。
 
その後、社会人を対象とした文章指導を5年間(2017年現在)。
 
別に私が主張するまでもないことなのですが、伝わる文章、響く文章を出力しようと思ったら、あらかじめ言葉を仕込んでおく必要があります。
 
文章のネタを「仕入れる」のとは別次元で、言葉を仕込み、熟成させておくのです。

「いい言葉」を大量に仕入れよう!

人に伝わる文章を書く大前提は、「いい言葉」「いい文章」を大量に仕入れること。
 
一見、何の反論の余地もなさそうに見えますが、この「いい言葉」の「いい」を判断する根拠が問題です。
(「いい言葉」以外にも、ストーリーのプロットとか、論理構成とかも必要ですが、それはまた別の機会に…)
 
例えば、あなたが何かグッと来る言葉と出会ったとします。
 
その言葉は「いい言葉」なのか?
 
それは確かに「その時のあなたにとって」という条件が付いて「いい言葉」だといえるでしょう。
 
ですが、あなたにはあなたの世界観があり、その時、置かれていた文脈があります。
そのあなたに刺さったからと言って、あなたがメッセージを届けたい相手にとっても刺さる言葉になりうるかどうかは不明なのです。
 
ということは、です。
 
高尚で美しい言葉だからといって、あなたが届けたい人に響く、「いい言葉」だとは限りません。
 
ひとまず、「仕込み」としては、次のような作品を幅広く、戦略的に読んでいくことをお勧めします。

  • 言葉(語彙)、表現を味わうために、様々な著者の文学作品、小説を読む。
  • 空間、情景、味覚、感情などを言葉で描き出す描写がおもしろいエッセイを読む。
  • 起承転結といった日本的な文章構造、ストーリー展開を学ぶためのエッセイや説明文を読む。
  • 売るためのコピー、文章構造を学ぶために、売れている広告文、チラシの事例集を読む。

仕込みの段階としては、言葉(響きや表現、言葉のつながり)を大切にしながら、たくさんの文章を、黙読・音読するだけでも問題ありません。
ただし、「大量に」だからといって、速読でぶわーっと読んではいけません。それは言葉を体験することにならず、単に眺めているだけになってしまいますので。ここでは「大量に言葉を体験する」ことこそ重要なのです。
 
もちろん、その作業と並行して、面白い表現、グッとくるコピーなどを見つけたら、ひとまず本に線を引いて付箋を貼っておくとか、
ノートに書き出してストックするとか、そういう「言葉をコレクションする」のもいいことかと。(^^) 

言葉を感情、価値観と結びつけていこう

言葉というのは心理・心情・快不快あるいは価値観といったものと密接に結びついています。
 
広告の神さま、ジェームス・W・ヤングが著書『アイデアのつくり方』の中で、「言葉」とは「情動的(エモーショナル)経験のシンボル」であるとして、こんなことを語っています。

言葉を修辞(レトリック)の一部として研究するよりも情動的(エモーショナル)シンボルとして研究する方が一層良い広告教育をもたらすのではなかろうか。

 
私たちは思いの外、細かな言葉の使い方一つで、大きく影響を受けたり、免れたりするものなのです。
 
それを時々でいいので意識的にとらえてみてください。
とりわけ感銘を受けたり、引き込まれたりしたら。
 
そのコピーが訴求しているのはどんな価値だろう?
お金を稼ぐ?
成果を上げる?
失敗を回避する?
人間関係の和を大事にする?

どういう言葉が、どういうシチュエーション、シーンで使われ、言外にどのようなイメージ・メッセージを伝えるのか?
それは言葉として学び、頭で理解することもある程度は可能です。

似た言葉・表現の細やかなニュアンスをかみしめてみよう

私の手元には「感情表現辞典」と「感覚表現辞典」そして「比喩表現辞典」という、言葉に関する辞典が3つあります。

例えばこんな感じの内容です…

感情表現辞典

喜びをおぼえる
「村瀬がすなおに私の申し出をうけとめてくれたことによろこびをおぼえた。」〔菊村=あゝ〕
喜びを味わう
「坊主であり吃りであることの確乎としての意識の底に身を沈める、悪徳を行うに似た喜びを味わったはずだ。」〔三島=金閣〕
喜びを感じる
「彼はまだ日本語を話す喜びを感じていた。」〔小川=スイ〕

感覚表現辞典

こちらは「光影」「色彩」「動き」「音声」・・・というように、私たちの感覚についてカテゴライズし、その感覚について、どのような表現があるのか、たくさんの文例を引いて解説しています。


「昔はそこにささ紅が光っていたろうという唇である。」〔幸田文=流れる〕
「唇には赤い口紅が濡れたように光っていた。」〔宮本輝=道頓堀川〕
「すらりとした薬指には銀の結婚指輪が光っていた。」〔村上春樹=プールサイド〕

比喩表現辞典

この「比喩」というのは、ロジックを越えた表現として、上手に使えると、書き手の意図を抜群に伝えてくれます。

愛情
「女の人の心にはいつもピアノのような音色がある……愛情だってピアノが鳴るようなものじゃないか。」〔室生=杏っ〕
「結婚して苔に湧く水のような愛情を、僕たち夫婦は言わず語らず感じ合っていたのだが」〔林=魚の〕
「愛情は、炎のように、真暗になると、はっきり目に見えてくる」〔舟橋=木石〕

この比喩を巧みに使いこなして、説得力のある文章を書くのが『思考の整理学』で有名な外山滋比古氏です。
思考の整理学は、なんてことはないエッセイであり、科学的な根拠も、ロジックもない(強いていえば「比喩」はロジックの1つの形態、レトリックであると言えなくもありませんが)のに、とても説得力を持っています。

事典の引用だけでなく、書籍で体験を!

このような表現を、気の向くままに味わい、口に出してみながら、その言葉の持つ奥行き、微妙なニュアンス、テイストを体験しておくのも
とても大切なことです。
 
ただ、最終的にはそれが文脈の中に埋め込まれ、流れの中でどういう響き、色彩、ニュアンスといったものを持つかということを体験してみないことには、深い体験にはなりません。また一度や二度体験したくらいで、自分のものになるものでもありません。だからこそ、大量に読むのです。
 
大量に読みながら、少しずつ少しずつ、自分の中におりのように沈殿、堆積し、やがてそこから結晶が生まれるかのように言葉が明確な輪郭を持って浮かび上がってくるものなのです。
 

書いて強く染みこませよう

美しい言葉、美しい表現、美しいストーリーをさらに自分の中に刻み込もうと思ったら、それらを原稿用紙に筆写することをお勧めします。
 
心から。

原稿用紙に筆写しよう

 
筆写するのは何でも構いませんが、上に挙げたようなものがいいでしょうね。(^^)
 
表現を刻み込みたければ、文学作品を。ストーリー・文章展開を刻み込みたければ、エッセイを。という具合です。

筆写の手順
  • 1.筆写のお手本、「800文字」原稿用紙、鉛筆+赤鉛筆を用意します。
    原稿用紙は手に入るもので構いません。縦書きでも横書きでも800文字でも、400文字でも。
  • 2.まず、音読し、リズムや流れをつかんでおきましょう。ここを省略しないこと。言葉は「音」であって「響き」や「リズム」が非常に重要です。
  • 3.次に、声に出しながら丁寧に筆写していきます。句読点の位置、助詞・助動詞の使われ方、その他「言葉の響き」をあらためて吸収していきましょう。
  • 4.書き終わったら、さらに黙読しながら、接続詞を○で囲み、段落の区切りに赤線をいれましょう。論理的な文章であれば、「事実」と「意見・主張」を腑分けしつつ、さらに「読者への問いかけ」「作者の体験披露」などの要素があれば、それにも違う色をつけてみましょう。段落のバランス、主張と根拠のつながりなど、「文章の構造」をあらためて分析的に読むわけです。
  • 5.印付け作業が終わったら、あらためて音読してみましょう。

長い文章(800文字まで)だと1時間くらいかかってしまいますが、それだけの価値のある作業です。私は辰濃和男氏の天声人語の筆写を3ヶ月ほど続けました。

言葉のインストールには速読ではなく熟読・音読を

「大量に読もう!」というと、「じゃ、速読を!」と思うかも知れません。しかし、残念ながら速読では語彙は増えませんし、表現も豊かになりません。なので、言葉を豊かにし、文章力を高めたいのであれば、まずはじっくりと音読・熟読です。
 
その上で、たくさんのストーリー・プロットや事例、情報を手に入れるために速読を学びましょう。
 
この両者は「どちらがいいか」ではなく、「どんな目的か」によって使い分けるべきものですからね!
 
 
ということで、文章によるコミュニケーション力を高めたい方は、地味に見えるかも知れませんが、ここで紹介したトレーニングをつづけてみてくださいませ!

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