速読で「読めた」と、普通の読書の「読めた」は同じなのか?

よく速読教室の宣伝には「一字一句を理解・記憶して、スピードだけ速い」と宣伝されています。
こういった宣伝は完全に詐欺です。もし、そのような芸当ができる人は、単なる天才だよって話は、これまでも度々書いてきました。
 
特に「読書スピード測定の詐欺的方法」については、ご一読を。

基本的に読書スピードと理解度はトレードオフの関係にあります。
これは日本であれ、世界であれ、「私、速読できます!」と名乗っている人達を対象とした研究で、科学的に確かめられています。
日本で有名なものとしては、フォトリーディング®とパク・佐々木式の受講生を被験者にした実験があります。どちらも研究者の下した結論は「スピードだけ上がってて、理解はボロボロだから、速読って意味ないよね」というテイストです。
 
まぁ、そういう「一字一句を読んで、高い理解と記憶」なんていう夢物語的な妄想は別にしても(そもそも、ゆっくり読んだって、そんなに理解も記憶もできないものですし!)、フォーカス・リーディング講座でも、理解度85%(日常的な、丁寧な理解)の読書スピードが、訓練前と訓練後を比較すると、約3-8倍(中央値で比較すると、約4倍)になっています。
 
主観とは言え、十分に読めているという手応えを持って読んで、なおかつ数倍だぞ、と。
では、この数値は信頼していいのでしょうか?

フォーカス・リーディングの読書スピード測定

フォーカス・リーディング講座では、読書スピード測定を次のような形でおこないます。

測定に使う書籍

使用するのは次の2冊を使っています。
自己啓発書:土井英司著『伝説の社員になれ』と岩波新書:志水宏吉著『学力を育てる』です。
 
 
あえて2種類測定するのは、読みやすいビジネス書・自己啓発書を読むのと、読みやすく編集されているとは言え、学術的な内容を扱う本とでは、読み方が変わる可能性があるからです。その違いを自分の実感と、実際の数値で確認しよう、ということ。
そして、どちらも読んでいない箇所(事前:第一章の冒頭,事後:第二章の冒頭)を読んでもらいます。

測定の指示(理解度の設定)

測定の際の指示は「いつも通りの楽しみ方、理解の程度で読んでください」という程度。その際に「いつも通りの丁寧な読書」を85%の理解と定義し、それと比較してしっかり読んだのか、ちょっと軽く感じたのかを数値で表現するよう伝えて、スピードを測るだけでなく、理解度を自己判定してもらいます。

理解度の判定基準

この「理解度85%」の手応えは完全に主観です。少なくとも、自分がちゃんと読めたという実感がなければ意味がありませんからね。

表に「ミクロ構造」という表現がありますが、これは「本全体の構成やロジック」というマクロ構造が把握できたかどうかは別として、読んでいる章のストーリーやつながりというミクロ構造が読み取れたかどうかを判定する、という意味です。

なぜ主観で済ませるのか?済ませていいのか?

本当はちゃんと読めているのかどうか、理解テストをするのが筋です。客観性を考えるなら。
各種研究でも、本人の主観的な理解は多くの場合,不正確で信頼性に欠ける(Glenberg & Epstein,1982など)と指摘されています。
 
ですが、フォーカス・リーディングで目指すのは「学習のための読書」であり、読書による学習は目的に照らして自身の既知と未知を検討して、何をどう読むべきかを考えながらおこなわれるもの。そこで得られたものが、本当に正しい理解だったかどうかというのは、他の人とのコミュニケーションや、仕事・学習の中で試されるものだと考えています。
 
また、「読んだ後にテストをしますよ!」と伝えるだけで、読書スピードって一気に落ちるものなのです。必要以上に「ちゃんと読まなきゃ!」というモードになるからです。理解度も、表の中で示される95%くらいを目指すことになるかも知れません。これは心理学的な研究でも「テストをすると、読速度の柔軟なコントロールが失われる可能性があるよーと指摘されています(Samuels et al., 1975)。

実際、フォーカス・リーディングの受講者8人の例ですが…
■ビジネス書・自己啓発書の1分あたりの読書スピード
事前:1,392文字/分
⇒事後:4,926文字/分 伸び率:3.9倍
■比較的読みやすい新書の1分あたりの読書スピード
事前:1,654文字/分
⇒事後:3,743文字/分 伸び率:2.4倍
 
という結果だった皆さんに、
「では、最後に夏目漱石の『坊ちゃん』で測定します。ただし、読んだ後に、簡単な理解度テストを受けていただきます。」
と宣言して測定したところ、なんと【1,400文字/分】に落ちてしまいました。
確かに読みやすい本でなかったことは確かですが、ほぼトレーニング前の数値に戻っていることが分かります。

 
もう1つ。
フォーカス・リーディングというのは「TPOに応じて、読書のコントロールをする技術」です。設定したフォーカスや、文章の難易度などをモニタリングしつつ、最適な読み方を実現します。
その「モニタリング能力」を最大限に高めることこそ重要ですし、読んだ時に理解テストで問われたことにフォーカスが向いていたかどうかも正解できるかどうかに関係します。
 
そんなわけで、客観テストみたいな理解度テストはせず、あくまで自分の理解をモニタリングすることを大事にしているのです。

主観の「同じ理解度」は本当に同じか?

主観的に「同じように理解できた」という場合でも、その理解にはかなり幅があることが、各種の研究から分かっています。

速読の分かったはイレギュラーな問いに弱い

速読の大前提は「理解とトレードオフ」であること。
ですので、「理解度は変わらない」といっても、スピードが3, 4倍になっているということは、何かを軽く流しているはずなのです。
心理学研究でも(McConkie et al.,1973)一貫してフォーカスが変わらない読み方であれば、求める理解を得ながら、スピードを上げることが可能であるとされています。ただし、もちろん、そのような読み方ではイレギュラーな問いに対しては答えられません。

McConkie, G. W., Rayner, K., & Wilson, S. J. (1973). Experimental manipulation of reading strategies. Journal of Educational Psychology, 65(1), 1.

逆に言えば、自分の主体的なフォーカスに従って読む時、セレンディピティ的な出会いを求めさえしなければ、スピードを上げても問題が起こらないわけですね…。

ジャンルや目的意識が違うとフォーカスが変わる

同じ文章(ストーリー)を読んでも、「小説として読む」場合と、「説明文として読む」場合とでは、まったくフォーカスが変わります。
例えば、小倉昌男氏の『経営学』や、スティーブ・ウォズニアック氏の『アップルを作った怪物』、レイ・クロック氏の『成功はゴミ箱の中に』など、ビジネス小説を読む場合を思い浮かべていただくといいでしょう。
 
単純に「伝記」として、つまり小説のように事実を追ってしまうと、ビジネスに活きる教訓は得られても、抽象的で応用の利くビジネス上のストラテジーなどは読み取れないかも知れません。
逆に「ビジネスノウハウを盗む」という意識で読むと、ダイナミックな生き様や、経営者としての決断などのマインドが学べないかも知れません。
 
実際、心理学の研究でも、同じストーリーを、小説として読む場合とニュースとして読む場合とで、同じように読んでも、読み取る情報、記憶に残る言葉・内容などが違うことが確かめられています。

Zwaan, R. A. (1994). Effect of genre expectations on text comprehension. Journal of experimental psychology: learning, memory, and cognition, 20(4), 920.

ということで結論!

ここまでいろいろ書きましたが、フォーカス・リーディングでも「同じように理解度85%で読んでいる」とはいえ、その感覚はまったく別物(フォーカスの違い、読み方のスタイルの違い)である可能性が高いので、「同じ理解度でスピードだけ4倍になった」という考え方は正しくないと言えます。
 
ただ、フォーカス・リーディングはあくまで説明的な文章(書籍)を、学びのために読むことが前提であるため、自分なりの一貫したフォーカスで、読むべきポイントを読めていれば問題ないわけです。
そして、自分の理解が本当に確かなものであったかどうかは、次の3段階で確認します。

  • 1.理解読みの後のノートまとめ
  • 2.本を読んだ後の出力の手応え
  • 3.他者からのフィードバック

あとは、自分なりの「読めた!」が本当の意味で理解できた状態になるよう、読書力を鍛えるトレーニングをしていくしかありませんね!
 
以上、速読の「分かった」が、普通の読書の「分かった」と同じなのか?という疑問に対して解説してみました。

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