こども速読講座の1つのトレーニングとして「論理エンジン」というテキストを使い始めています。
まだ使い始めて、やっと1ヶ月が経過したところですが、過去の経験も含めて整理をしつつ、今後の指導構想につなぎたいと思います。
「速読って、勉強に役立つの?」と思っている方の参考になれば、そりゃまた結構ってことで。
この記事の目次
1.子どもたちの速読のレベル
今年度4月から入会した子ども達は、もともと「読書が嫌い(苦手)」という状態でしたが、8ヶ月経過して、読書習慣も付いてきましたし、速読力もかなり上がってきています。
どの子達も、だいたい「流れをつかむための速読」が1ページ6-9秒。
「丁寧に理解するための精読」が1ページ12-15秒くらいです。
もともと読書家の子どもであれば、これがそれぞれ3-6秒、6-9秒にワンランク上がりますが、読書にようやく慣れてきた子達であれば、だいたいこんな感じです。
また「精読」というのは「本を楽しむ」ということとは違います。
子ども達の言葉を借りると「十分に理解はできるけど、楽しくない」という状態です。
これは「間」や「リズム」を楽しむという要素が消えること、無意識的・意識的な「次はどうなるんだろう?」という予測作業がなくなることが原因ではないかと現在は考えています。
これについては、心理学的な見地から、きちんと研究しなおしたいと思います。とはいえ速読というのはあくまで「学び」としての読書の価値を高めるための技術ですので、大きな問題ではないと考えています。
2.国語のテストと速読
まず、誰もが気になる「国語のテスト(成績)と速読」の関係。
2-1.速読トレーニングは国語のテストに有効か?
これは書籍にも書きましたし、記事としても書いてきたことですが、短期的にはあまり直結しません。
「わけてつなぐトレーニング」であるとか「接続詞トレーニング」などを通じて、読みが丁寧になり、言葉のつながりを意識するようになることで、国語の成績は上がりますが、速読の成果ではありません。
もともとバリバリに受験対策の学習をしている子どもさんであれば、文章を処理するスピードが上がることで、成績がアップしそうに思えるかも知れません。
でも、それがそうでもない。
過去、2人だけ中学受験をする子どもさんをお預かりしたことがあるのですが、「あまり劇的な効果があったとは思えなかった」という感想をもらいました。
その子らは、たいていの小学生向けの本を1ページ3-6秒で読めるようになっていたにも関わらず、です。
2-2.なぜ速読は国語のテスト(成績)に無力なのか
とくに、うちの速読講座は塾と連動させていませんし、「受験のため」という理由で入って来る子どもさんもいませんので、「国語のテストを解く作業」に慣れていません。
彼らの指導をしていても思うのですが、「国語のテストを解く」という作業は、それ自体がかなり高度な技術なんですね。
それは基本的にフォーカスが「言葉」に向かいます。言葉のつながり、表現の正誤など、かなり能動的に文章をとらえ、評価していかなければなりません。
そして、やはり「見逃せない」という想いが強くなりすぎて、入力レベル(読もうという意識)が上がりがちです。
速読は受動的に文字情報を受け止めること、フォーカスを「流れ」に向けることで成立する技術です。速読を成立させる基本的な要素と言える「入力レベルを下げて、情報を受動的に受け止める」ということと「フォーカスを流れに合わせる」という2つとぶつかるわけです。
2-3.どうしたら速読を成績につなぐことができるか?
そういうわけで「試験」という部分に速読を活かそうと思うと、それ専用のトレーニングを用意して繰り返す必要があります。通常のテストの解き方とはまったく違う、速読技術を活かしたトップダウン的な文章解析の方法を採用するんですね。
それとは別に、あくまで言葉のつながりを分析的にとらえる習慣をつけるべく、国語の問題を丁寧に解く作業に少しずつ慣れさせるていくことも必要ですね。この問題を解く作業は、文章の言葉同士のつながり、前後の文脈のつながりを意識させる上で、非常に有益なんですね。というより、こういう問いかけ、適切な発問がなければ、理解の精緻化は難しいといってもいいくらい。
ただ、それは基本的に速読とは対極にある読み方です。
そこを、速読トレーニングの核心ともいえる集中力とリラックスのバランスコントロールで、ストレスなく処理できるようにするだけと考えていいでしょう。
それを繰り返すことで、自然と問題を読むのも解くのもスムーズになっていくものですし、その「反復による慣れが生み出すスピードアップ」と集中力コントロールのかけ算こそが、国語の成績に直結する効果といっていいでしょう。
これ以外に速読が生きてくるとしたら、学習法を根本的に変えて学習の効果を上げること、そして価値ある読書を積み上げていくことで生まれる知力のベースアップという2つでしょうか。
3.日常の読書と速読
1でも書いたとおり、速読は「理解できるけれども楽しくない」状態になります。もちろん、ある程度の底上げは起こるのですが、それも「読書力(経験値)」が上がってこそのこと。
速読力=読書の経験値×体(集中力・眼)のコントロール力×フォーカス
速読が成立するための、この式の第一項を養うことが一番重要、というわけです。
その速読力の第一項が十分に育つまでは、日常の読書では速読を封印することが必要です。そこが十分でない状態でさらさらすいすい読んでいては、読み方が雑になりますし、読み方も深まらず、語彙も増えません。
ただ、疲れない状態、りきみとストレスのない状態で集中して本を読めさえすれば問題なし、という発想が必要なのです。
4.まとめ
ということで、速読を学習に活かそうと思うなら、まず「速読で読むスピードを上げて効率アップ!」という短絡的な発想を捨てなければなりません。それは業者さんが煽る夢物語に過ぎないのです。
そうではなく、「速読を活用する」という前提で、根本的に「読書」とか「問題の解き方」を見直し、メソッドとそのためのトレーニング法を構築していく必要があるのです。
ことのばでも、引き続きその方法論をしっかりと構築していきたいと思うところです。