パソコン画面を眺めるだけの速読トレーニングって効果あるの?

2000年以降、PCソフトやNintendo DSなどで「手軽に、効果的な速読トレーニング」と銘打ったものが多数販売されています。
最近ではスマホアプリも登場していますね。
 
ですが、最初に結論を言ってしまえば、私はそれらの効果に懐疑的というか否定的です。

名無しさん
でも「できた」っていうやついるじゃん…

確かに、それらのソフトやアプリで速読をマスターしたという声は存在します。
しかし「誰かができたらしい」ことは、「誰でもできる」ことの証明にはなりません。
 
むしろ、「PCの画面を眺めるだけで速読できる」とうたうシステムが広く受け入れられている学習塾業界では「速読は看板専用」と揶揄されており、「速読をうたうことで集客にはつながるけど、速読は身につかないし、成績も上がらない」との評判です。
 
実在する「速読のおかげで本が読めるようになった」、「成績が上がった」という声を、あたかも標準的な成果かのようにうたうのも、それを信じてしまうのも問題があります。
 
今日は、その「PCでの速読トレーニングってどうなの?」という話を、できるだけ科学的に語ってみたいと思います。

私が「PCで速読」に懐疑的なわけ

実は、私はこの10年間の間に、「PCの画面を眺めるだけで速読トレーニングができる」とうたう3つの流派から相談を受けてきました。
うち2つは、ざっくりいうと次の3つの悩みを語ってくださっていました。

  • パソコンの画面上では速読できるが、書籍や学習のテキストだと速読できない。
    ※某FC本部役員から
  • 速読できるという子どもでも、学習上の成績にはつながらない場合が多い(悪い場合は成績が下がる)。
    ※某FC本部役員および複数の加盟教室の教室長から
  • そもそもまったく身につかない受講生が非常に多い。
    ※すべての流派の本部、加盟教室、受講生から

相談にこられた本部の方、教室の先生方、地方組織の幹部の方には、1つの共通する特徴があります。

誰も速読できないし、速読の原理も修得の方法論も知らない。

いやー、ホラーですね。((((;゚Д゚))))
 
そして、私の所にどういう相談があったかというと、

  • 顧問になって欲しい。
  • 今あるPCソフトを、効果の上がるものに修正するアドバイスが欲しい。
  • そもそものメソッドを根本的に作り直して欲しい。
  • インストラクター養成をして欲しい。
  • 教材とメソッドを提供して欲しい。
  • 加盟教室から届く質問や相談に、プロとして対応できる窓口になって欲しい。
  • 速読を活用して学力が上がるような教育プログラムを開発して欲しい。

という感じでした。
 
インストラクターと呼ばれる人達ですら、自分たちのメソッドで速読をマスターできていないのに、それを市販して、購入者がマスターできるとはとても思えないわけです。はい。

名無しさん
じゃぁ、できたって人は、どういう人なん?

ですよね。
それでもマスターできた人というのは、どういう人なのでしょう?

PC速読の効果が出やすいパターン

実はPC速読に限らず、あらゆる速読メソッドについていえることがあります。
 
それは…

読書量の多い人は、今までの読書の感覚を壊すだけで速読できるようになる(可能性がある)。

ということ。

たびたび書いておりますが、

速読=スキーマ(データベース)×眼・集中力のコントロール力×フォーカス

という式で表される「スキーマ」が非常に大きいということですね。
 
視野を緩めるとか、受動的な意識状態で活字を眺めるとか、そういう感覚がつかめるだけであっさり速読できるようになります。
そして、こういう人たちは、もともとのベースがあっての「自然体な速読」なので、速読をマスターすると、そのまま学習などにも有効活用できるようになり「速読すげー」という感想を述べてしまうことになります。
 
そうでない普通の人には、PCやスマホの画面を眺めるタイプのトレーニングでは、速読を身につけるのは「ほぼ無理」なのです。

PC速読トレーニングのかかえる根本的問題

パソコンの画面を眺めるタイプの速読トレーニングには、科学的には次のような問題を宿命的に抱えています。
ぜひ、PCを使った速読トレーニングをさせている教室の先生や開発者の方々は、こういう問題をクリアできるようなカリキュラム、教育プログラムを用意してくださいませ。

1.そもそも液晶画面でのトレーニングの抱える問題

紙面に印刷された文字を読むより、PCやスマホなどの透過光の画面に表示される文字の方が、脳にとっては読みづらいのです。
読書スピードでいうと画面の文字の方が2-3割遅くなります。
 
実は紙の文字を読むときと、PC画面の文字を読むときとでは脳のモードが変わると言われているのです。

つまり、同じように見える「読む」という作業が、脳の中の処理が全然違っているわけです。
パソコンで速読できると思っているのは、単にざっくり眺めているだけかも知れないし、紙に向かったときに分析モードになった時に同じように読めるはずもないわけです。

2.同じ場所に次々に文字が表示されるトレーニング

パソコンのトレーニングで、同じ場所に、次々に文字、文を表示するものがあります。
「意識で処理しきれない情報を処理するために右脳が活性化する」などと説明されるようです。しかし、それで本当に右脳が活性化するのか、本当に活性化したとして、そのことが文章処理を加速する効果があるのかという点については何ら証明されていません。
 
また、「同じ場所に、次々に情報を表示する」のは、実は何のトレーニングにもなっていない可能性があります。
視覚マスキングと呼ばれる現象があり、後に表示される情報が、前の情報の認知を妨害するのです。

先行刺激の認知に必要な処理がまだ終了しないうちに後続刺激の処理が始まると、あとの処理が優先され、先行刺激の処理が中断され、結果として破棄されてしまうと考える…
── 御領謙著『読むということ』(P.33,東京大学出版会 認知科学選書5)

実際の読書では、視野が移動しながら文字情報を読み取ります。そして、現在読み取っている視野の周辺領域で、前に読んだ情報を受け止めつつ文脈をつなぎ、同時に次の情報も読み取って下準備をしているのです。
 
そのような処理の構造を無視して、連続的に同じ場所に表示することが、本当に読解スピードを上げる効果があるのか、甚だ疑問が残ります。

3.次々に(流れるように)表示される文字を目で追うトレーニング

2がダメなら、こちらは理想的な状態に思えます。しかし、これには致命的な問題があるのです。
 

  • A:流れるように表示される文(文字)を受動的に眼で追って処理する。⇒PC
  • B:最初から文が表示されいて、それを能動的に眼(視点)を移動させて処理する。⇒本

この両者の処理はまったく違うのです。
Aの場合、眼は追随眼球運動と呼ばれる滑らかな動きをし、眼からの情報は連続的に脳に伝えられます。
それに対して、Bの場合、眼は停留(固視)と跳躍運動を繰り返し、しかも前の記事に書いたとおり、停留時間の約1/3は脳が情報を受け取れない状態になっているのです。
 
つまりパソコンで楽に読める気がしたとしても、それは現実の読書では再現が出来ないものなのです。
先にご紹介した「パソコンでは速読できても書籍ではできない」というのは、これと、上述の1が絡む問題ではないかと予想されます。

4.ブロックで1行ずつ表示されるトレーニング

視野というのは、その人の能力(スキーマ)に応じて、情報処理に適した広さが作られるものです。
それを無視してブロックで表示されても処理できるものではありません。
 
また次の5に関わる話ですが、もしそのブロックが機械的に文字数で区切られ、単語が分断されてしまっていれば、その単語の切れ端は処理不能な文字列として無視されます。これでは、文脈をつないで処理する力にはなりません。
 
ちなみに、このようなトレーニングについては、アメリカの心理学者Keith Raynerらの研究で、次のように言及されています。

We suspect that presentation of moderately complex texts via RSVP apps will not allow people to achieve the goal of greatly increasing reading speed.
── How Do We Read, and Can Speed Reading Help?
▲寺田のてきとー訳
適度に複雑なテキストを連続表示アプリで提示することは、読書スピードを劇的にアップさせるという目的達成には役に立たないと、私たちは勘ぐっている。
── 私たちはどのように読んでいるのか? そして速読術は役に立ちうるのか?
※RSVP:Rapid Serial Visual Presentation⇒高速で連続的な視覚提示

そもそも上述のように、本を読むときは、眼が能動的に動いて読むわけですから、同じ場所に連続的に表示される文を読み取る練習がどう役に立つのかは、まったく不明です。

5.ブロックで複数行が表示されるトレーニング

一読に複数行を読む「ブロック読み」なる速読技術を提唱する流派もありますが、基本的に文字情報はリニアで連続的なものであり、複数行を同時の処理することはできません。
 
とりわけ、行末と行頭で単語が分断されている場合、脳はこの処理に非常に時間を要するものであり、それを瞬時に、しかも同時に複数提示されて「理解」につながるとはとても考えられません。
(参考資料:池田光男著『眼は何を見ているか』 P.39図)

6.視野を広げるトレーニング

視野は、その人のスキーマに応じて、十分に処理可能な広さに自動調整されるものです。それを、何の脈絡もなく広げたところで、単に処理できない文字が流れ込んでくるだけになります。
実際、上述のKiethの論文でも「速読が可能だと提唱している人達は、一視野で把握できる語数をトレーニングによって増やせると主張する」ものの、それを裏付ける証拠はなく、むしろ諸々の実験によって否定的な結論が出ているとしています。
 
なお、「速読トレーニングによって視野が広がって、スポーツが上達する」という話があります。
これは事実です。
私のトレーニングメソッドを採用したビーチバレーチームも、県大会止まりだったのが、半年のトレーニングで全国優勝するまでになっています。
その時のチームも「視野がまったく変わった(広がった)」と語ってくれていました。
 
しかし、面でとらえ処理・反応するスポーツと、リニアな情報を意識的に処理する読書を同列に論じることはできません。
視野を広げたところで、最終的には理解するスピード、量を増やすことはできないのです。
 
これについてもKeithは次のように論じています。

These facts about reading suggest that the ability to read is limited by our ability to attend to, identify, and understand words rather than our ability to see them.
▲寺田のてきとー訳
読解についてのこれらの事実は次のことを示唆している。読解力は、私たちが注意を向け、確認し、理解する能力によって決まるものであって、単語を見る能力によって決まるのではないということだ。

7.超高速な文章を眺めるトレーニング

よく「高速道路から降りた直後の、スピードが通常よりもゆっくり感じられる効果」を利用して速読できるようになると解説しているものがあります。
 
これは確かに効果があります。
ただし、その効果は短時間で消え去ります。また、「丁寧に読みたい」「ちゃんと理解したい」という気持ちが働いた瞬間に消えてしまいます。
 
高速道路から降りた時の効果も、料金所を過ぎたら消えてしまうのとまったく同じです。

8.スマホの速読トレーニング

基本的にPCもスマホも、ここまで述べてきたとおりのものであり、特段、PCとスマホで変わる訳ではありません。
ただ、スマホやDSの場合、いかんせん表示できる文字が少ないため、PC以上に効果が得にくいであろうことは想像に難くありません。

効果を出すための必須条件

では、パソコンでのトレーニングの効果を何らか「成果」として引き出すには、どういう条件が必要なのでしょうか?

A.劇的な効果を期待せず、気長に楽しむ

スポーツに生きる広い視野が手に入るのは確か。
これは実生活でも、意外と役に立つものです。
JRの路線図で目的の駅を素早く探せるとか…シューティングゲームで敵からの攻撃を楽勝で察知・回避できるとか…
 
そういう実利を楽しみつつ、あとは難しい本をかみ砕いて読み、読書力を根本から上げていきたいところです。
その相乗効果によって、読書が少しずつ快適なものに変わっていくはずです。

B.本を使ったトレーニングを並行しておこなう

本を使ったトレーニングとして何をしたらいいの?というのは、なかなか難しいところですが、例えば高速道路の効果で「ゆったり、時間の流れが遅くなる感覚」が得られたのであれば、直後に10分以上本を読んでみて、さっき手に入ったはずの感覚を再現する練習をしてみてください。

名無しさん
なんで10分以上なの?

もちろん、これには理由があります。
速読教室によっては読書スピードの測定を1分とか30秒とかしかしないところがあります。
 
これは、それ以上長くやると、感覚が元に戻っていく(速読トレーニングの効果が消える)ことが分かっているからです。
 
でも、1分しか保たない効果には意味がありません。
自分の内面の感覚を使いこなして、少なくとも10分以上、それを持続的に再現できるようになれば、それは価値のある効果と言えるでしょう。
 
そして、スポーツ同様、ある程度、集中して取り組む時間が継続しなければ、手に入った感覚が定着しませんからね。(^^)
 
 
ということで、PCを使った速読トレーニングのリアルなお話でした。
 
何かの参考にしていただければ幸いです!

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