社会人対象のフォーカス・リーディング講座もそうなのですが、子ども速読講座でも、あまり「速く読む」ことを求めません。
それは速読の目的が「速く読むこと」ではなく、「読書が好きになること」であり、「価値のある読書ができるようになること」だからです。
特に子ども速読の場合、あくまで読書が、ストレスのない肩の凝らないものになることで、気軽にたくさんの本を読んでいけるようになればいいと考えています。
読書が身近になりさえすれば、読解トレーニングで読む力を引き上げることが容易になります。こっちが大事。
読書のモチベーションを作るもの
著名な読書教育研究者であるGuthrieという方の研究では、読書のモチベーションを作るのは次の6つの要素だとしています。
- (1)本への没頭体験
- (2)特定のトピックへの興味
- (3)人とのつながり
- (4)難しいものへの挑戦
- (5)読書の重要性への確信(ポジティブ感:possitive affect)
- (6)自己効力感(自分には本を上手に読む能力があるという確信)
Guthrie, J. T., & Anderson, E. (1999). Engagement in reading: Processes of motivated, strategic, knowledgeable, social readers. Engaged reading: Processes, practices, and policy implications, 17-45.
速読講座でこのうち5と6を作ることができると考えています。
今まで辛いものでしかなかった読書が、時間のかからない、しかも疲れないものになる ── つまり心理的な負荷が大きく下がるわけです。そのことで、「読書って楽しいじゃん!」、「おれ、読めるじゃん!」ってなる。
実際には、それでは本当に目指したい「緻密な読解力」は手に入らないのですが、入り口としては十分です。
だから、子ども速読の基本は「ストーリーが十分に楽しめるように読むこと」なんです。
速読のスピードと理解度はどう決まるか?
大人でも層なのですが、読書スピードがどれくらいになるかは、その子のそれまでの読書経験値次第。
速読力=読書の経験値×心身のコントロール力×フォーカス
子どもの速読は、そういうわけで「楽しむ」ことなので、「フォーカス」は文脈と言葉に向かいます。読む対象も小説がメインですし。
スピードだけ不相応に引き上げてしまうと、かならず理解が壊れます。基本的に読書スピードと理解度はトレードオフの関係にあります。これは心理学的にも確かめられている事実。魔法はありません。
ですが、少しずつ経験値を上げて行ければいいんですよ。速読で本を読めるようになると、どんどん読書が捗るようになります。
少しずつ難しい本を読むように促すことで、そういう本でもちゃんと読みこなせるようになります。ただし、ゆっくりですけど。
もう、難しい本をゆっくり読むことにも躊躇がないくらい、上記6要素が満たされているわけです。
言葉の力、読解の力がそんな一瞬で上がるわけがありません。
じっくりと、ゆっくりと成長させるべき読解力作りの、最初の一歩を踏み出させるのが速読の役割だと、ことのばの子ども速読講座では考えています。
ちなみに、レッスン中に「読める!」というスピードと、実際に家庭で本を読むスピードもまったく違います。
教室では「速く読む練習」として読みますので、気軽にスイスイと読めてしまいます。
家に帰ると「物語を楽しむ」ことが目的になりますからね。モードもマインドもまったく変わってしまいます。
前に、こちらの記事でも書いたことにも通じるかも知れません。

あの速読講座の効果は単なるプラシーボ効果だったのか?!
脳を鍛える系の教材・ゲームとか、何かをマスターする系の講座って、講座を受けた直後、その教室を出るまでは、すごい高揚感と「できるようになったぞ!」感が半端なく沸き立ちます。 でも、ひどい場合には翌日、そうでなくても3日以内にその効果がすーっと消えていくんですね。 そのヒントとなる話が、...
例えば、今、在籍中の子で、トレーニングの時、『ずっこけ3人組』を平均1ページ3秒弱で読んでしまう子がいます。
本人曰く「ちゃんと理解して、楽しみながら読めています」とのこと。実際、あらすじを書き出させると、相当細かく書き出してしまいます。
ですが、読書課題として本を持って帰って読むと1冊200ページに、平均40分かかっているんですね。
これは1ページ12秒くらいのペース。
そんなもんなんです。実際。
そして、このギャップをあえて埋める必要はないと思っています。
中学校に入って、受験勉強などをするときは、この速読の読み方を学習に活かせるようになるといいな、とは思いますが。今は本を楽しめて、言葉が豊かになり、読解力が上がればそれでよし、です。
速読指導者としては、そういうことを理解した上で、自宅や学校で最適な読み方ができるようなトレーニングをさせていかなければなりません。
まずは読書を楽しもう!
今月から通い始めた女の子も、もともと本を読む習慣がなかったらしいのですが、4月に入ってから読書量が増えてきたとのこと。
国語が苦手なので、国語力、読解力が上がればということで、速読講座に通うようになりました。
最初は『ずっこけ3人組』を読んで、1分間で2ページ。1ページ30秒ペース。
50分間のレッスンを2回こなしたところで、だいたい平均して1ページ7秒くらいで読めるようになりました。
もちろん「読める」というのは、ちょっと語弊がある言葉であって、「読める気がする」ということだと、こちらとしては受け止めています。
目・視野の使い方、意識の使い方を変えてストレスを取り除いただけの状態です。それだけでも、プラシーボ効果も込みとはいえ、4倍のスピードになったわけですね。
それだけでも、この子は「読書って楽!」「読書って楽しいかも!」と思えたと思います。ポジティブ感と自己効力感です。
とはいえ、まだ使いこなせるようになっていませんし、定着もしていません。
今週の宿題として「今の、楽に読める状態を思い出しながら、1冊楽しんで読んでおいで」といって、ずっこけ3人組を1冊貸しています。
多分、今まで1時間半以上かかっていた読書が、1時間かからずに読めるようになっているのでは?と期待しています。
これで、恐らくは上記の(1)没頭体験が手に入ります。
速読講座の効果としては、ひとまず十分かな、と。
これが3ヶ月くらいたったころに、安定的に1冊を40分で読めるようになれば、読書はぐんと身近なものになるはずです。
そして、半年くらい経ったころには、読む本のレベルを上げていけるはずです。
その時は、またもっと遅いスピードでしか読めなくなりますが、その頃には1時間くらい静かに集中して本を読めるようになっているはずなので、きっとレベルの高い本もどんどん読みこなしていけることでしょう。
あとは、「本を楽しむ」ことと並行して、言語能力、言葉の処理能力を高める練習をしていけば、時間はかかりますが、揺るぎない「学ぶ力の基礎」が固まっていきます。
もし、小学生のうちに何をしたらいい?と悩んでいらっしゃるお父さん、お母さんがいらっしゃったら、ぜひ「まずは読書」をどうぞ。
今、ことのばでおこなっている速読トレーニングの方法や、読書への取り組ませ方を知りたい方は、拙著『子どもの速読トレーニング』を読んでみてください。
教室でおこなっていることすべてとは言いませんが、必要なことはしっかり解説していますよ。(^^)
もちろん、読書のストレスを取り除くためのトレーニングについても、具体的な取り組み方をご紹介しています!
☆『子どもの速読トレーニング』
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