ビジネス書が売れなくなっているという話は、過去に何度か書きましたが、ここまで酷いのかという記事がありました。
2009年9月2日付け日経新聞朝刊の「丸善、3億4000万円の最終赤字(2009年2〜7月期)」というものです。
いわく「ビジネス書などの書籍販売が低迷した」とのこと。
昨年同期に比べて4億円近いおちこみってのは、すごいことです。1冊1000円とすると40万冊分の売り上げが半年で消えた計算です。
今年に入って突然、人が本を買わなくなった理由は分かりません。
まぁ、景気の悪化でお小遣いが減ったというのは確かでしょう。
でも、リターンの見込める投資ならケチル必要がないわけです。
ということは、投資マインドが冷えてしまったということでしょうか。
読書の投資対効果が悪い?
自分の読書について、そう感じたことはありませんか?
よく「本を読んで、それを実践する人は5%もいない」なんてことが語られます。
行動に結びつかなければリターンはありませんからね。確かに。
ハウツー本を読んでブログに感想を書いて終わり…なんていう人も多そうです。感想書かないでTo Doリストに行動指針を書けば実行につながる可能性も上がりそうなものです。
「わかった」と「できる」との果てしない隔たりについて
でも、「実行に移そう!」と思ったとき、「わかった」を「できた」につなぐのが非常に困難を伴うことに気がつきます。
これも実行できない大きな原因という気がします。
特に「できる人」の言葉は、時として「(読者が)できる人であること」を前提として書かれていることがあるものです。
すべてを「心技体」で考えてみる
拙著『フォーカス・リーディング』では、達人の読書技術を心技体で考え、パーツに分けて、それぞれの磨き方を提案しました。
これを丁寧にやらないと、世にあふれる読書論、本田直之氏や齋藤孝氏の書いている言葉が抽象論で終わってしまうと思ったんですね。読書論を語り、読書の効率アップを語ろうと思ったら、具体的に何をどうしなければならないのかを語る必要がある、と。
そして、その基礎技術を語るのが速読指導者の務めだろう、と。
おそらく、あらゆる仕事上のスキルも心技体で分解することができると思うんです。
そして、達人の「技」から学ぶために、「体」の部分をどう磨いていくかというのが最大の課題になるはずです。
たとえば、メール術について書かれたノウハウを理解しようと思ったら、「心」として「人とどういう関係を作っていきたいか」を意識し、「誠実さと真心で相手に尽くす気持ち」を大事にしなければなりません。
その上でメールの書き方の「技」を学ぶ。
教育者が書いた本や、読者の心技体を理解している著者の本は、テクニカルなこと、つまり「技」を学びながら、人間関係作り、コミュニケーションの基本といった「体」を学ぶことができます。「技」と「体」を合わせ技で学ぶことが可能なわけです。
すごい人の書いたすごい本の難しさ
これが「できる人の本」だと、そうも行きません。
例えば、齋藤孝氏の『「読む・書く・話す」を一瞬でモノにする技術』という本の場合だと、書かれている話はある意味で具体的なのですが、求められるレベルが相当高いため普通の人が「いざ、実行!」となると途方に暮れてしまいます。
齋藤氏の語る「技」を活かすための「体」の作り方は、きれいに省略されているんですよね。
そういう場合は、「総論」として「心」のあり方を学び、具体論は他の書籍に求める必要があります。
これは「本(著者)が悪い」のではなく、「それをいちいち基礎から語っていては、何百ページあっても語り尽くせない」という事情があります。ま、メディアの制約ですね。
読者は、それを理解した上で、「その本の『心』を活かし、『技』を盗むためには、まず何を学ばなければならないのか」を考えなければなりません。
その上で、あえて一度、その本から離れるという作業が必要になります。
ひょっとするとセールスの本の心を盗むために、中学生向けの作文の技術に戻らなければならないこともあるかも知れません。
著者はどんな人か? どんなレベルで書いた本か?
確認すべきは、達人が語る「技」が「達人の技」なのか「達人が普通の人だった頃の、達人に飛躍するために使った技」なのかということ。
これを見誤ると「ほー、勉強になるなー」という感想で終わってしまいます。
「勉強にはなるが、参考にはできない」ような達人のノウハウが、世の中にはあふれています。
これがある意味部分、読書の投資対効果を悪く感じさせる原因ではないかと思ったりもするわけです。
達人のKnow-howを学ぶ前に、達人のKnow-whyとKnow-whatを学ぶ。ある意味で、仕事の技術ではなく、仕事の哲学を学ぶという感じでしょうか。
投資として読書は本当に手頃です。
やり方を間違えなければ、高いリターンが返ってきます。
ただし、投資がリターンを生むのは、決してお気楽、自動的なモノではなく、確かな資金活用の努力があってのこと。
経済的に厳しい時代になっても投資をケチらない。
経済的に豊かな時代になっても、浮かれず、投資を忘れない。
そういう姿勢を忘れたくないものです。