「眼を高速に動かす」では速読できない理由

速読&読解関連コラム

「眼の動きを2倍速にできれば、読書スピードを2倍にできる」

1980年代に、韓国から速読術が輸入された頃から、一貫して語られ続けてきた間違った速読メソッドの1つです。
 
韓国のメソッドは「眼を高速に動かす」というトレーニングを重視しませんので、恐らくどこかの業者が、アメリカで一時期ブームになっていた「眼の動きを速くする!」というトレーニングを、韓国式メソッドに混ぜて普及させてしまっただけだとは思いますが…。
 
まだ、それを看板にかかげ、実際にトレーニングさせている教室もあります。
実際、そういう教室の先生方から、幾度となく相談を受けて来ましたし。
 
現場の先生方も「本部から言われたとおりに指導しているだけ」のようで、ご自身も速読をマスターしているわけではないので、対処法の見当が付かず、
 
「どうしたらスピードを上げるだけではなく、ちゃんと理解できるようにできるのでしょう?」
 
という深刻な悩みを語ってくださってました。
曰く「1500文字/分を越えたら、ほぼ理解がゼロになる」とのこと…。
 
 
では、なぜ「眼を高速に動かすのはダメか?」について、さくっと解説してみます。
 
まだ知らずに「がんばって眼を速く動かす!」トレーニングをしていたあなたも、これで、無駄なトレーニングから解放されてください!

眼を速く動かすことが無駄である根拠

眼を速く動かすことには意味がないよということの根拠を、いくつか示しておきますね。

A.眼が動いている時間は、全体の10%未満である

「眼を速く動かす」といっても、もともと「眼が動いている時間」は、読書の中で10%未満なのです。
眼は「固視」と呼ばれる「読み取り作業」と「跳躍運動(サッケイド)」と呼ばれる視点の移動を繰り返しながら、文字情報を読み取っていきます。
1文字ずつ滑らかに動いて、ずーっと読み取っているわけではないのです。

さて、固視と跳躍の時間関係であるが、(中略)
…1回の固視に使われる時間が分かるのである。…それは3分の1秒、おおよそ300ミリ秒ということになる。
(跳躍については)その時間は約30ミリ秒、すなわち固視の時間の10分の1である。
── 『眼は何を見ているのか?』(P.38,池田光男著、平凡社)

これは、読書にまつわる研究全般で認められている事実。
(引用した書籍は眼科の専門書ですが…)
 
なので、「眼を高速に動かす」というのは、眼の運動機能を高めているわけではなく、本来読み取りに使うべき時間を削って、無理矢理スピードだけを上げている状態なのです。
 
3倍速にするってことは、読み取り・処理の時間が1/3になるってこと…。これは相当なダメージであることはご理解いただけるかと。
 
ただ、それだけじゃないんですよ…。

B.眼を速く動かすと処理がフリーズする

眼を動かすことには、もう1つ問題がありまして…
それは、眼が跳躍運動をする際に、眼から入ってきた情報を脳に伝えないということ。

サッカディック抑制と呼ばれる現象がある。これは極端に言えば、サッケイド中には視覚の機能が停止する、ということである。
(中略)
この抑制はサッケイドの開始前60msから既に始まっている。
──認知科学選書5『読むということ』(P.34、御領謙著、東京大学出版会)

つまり、約300msある読み取り時間のうち、20%が削られているんですね。
 
もう1つ、先ほどの『眼は何を見ているのか』には別のデータが示されています。

跳躍が終了しても、感度はまだきわめて悪く、図では150から180msでやっと元に戻ってくるという感じである。
── 『眼は何を見ているのか?』(P.46,池田光男著、平凡社)

この本に示されている図(グラフ)を見ると、跳躍の約50ms前で知覚確率50%に落ち、跳躍時は0%、そして約100ms経過後に50%まで回復しています。
 
つまり、2つの書籍の情報を総合すると、約300msある読み取り時間(固視)のうち、150msくらいは情報処理に使えていないわけです。
 
これで3倍速になって、読み取り時間が100msに削られたら何が起こるか自明ですよね?
 
読み取って処理する暇もないまま、次のポイントに眼が動いていくことになるわけです。

C.行末・行頭ではさらに時間が必要なのに…

最後に「行頭・行末問題」について。
 
実は、行の中程を固視・跳躍していく場合、だいたい1回の固視は300msなのですが、どうやら行頭と行末では400msほどかかっているようなのです。
これについては、データが非常に少ないため、まだ「仮説」「可能性」としか言えません。
 
そもそも固視による情報の処理には、「読み取り可能な視野角」以上の情報が使われているんですね。
意識で「読めた」と思う以上の広さで、無意識レベルで情報を読み取り、無意識レベルで文脈をつないでいるようだということが分かっているのです。
 
行末・行頭では、単語が分断され、処理に負荷がかかるだけでなく、広い視野で無意識レベルに処理(先読み処理)されていた情報も入ってこないわけです。
 
どうやら、それを脳内で補完するのに時間がかかっているのではないかと考えられます。
 
このあたりは、いつかちゃんと研究して確かめなければなりませんね。(^^;
 
なにしろ、眼を速く動かす!という意識で読んでしまうと、処理に時間(負荷)がかかる行頭行末まで、機械的に高速にぶっ飛ばしてしまう可能性が高いわけです。
 
これも大問題なのです。
 
 
他にも、いろいろな要素がからむのですが、冗長になりそうなので、核心的な要素を上げてみました。

結論!「眼を速く動かしても速読できない」

ということで、眼を速く動かすトレーニングには、何の意味もありませんよ、さっさと止めましょうね、というお話でした。

P.S.実はこの指摘は50年前からあったんですが…(笑)

「眼を速く動かしても速読できるわけじゃないよ」という指摘は、実は50年前からありました。
しかも「速読できる人の眼の動きは速い!」というレポートを出した張本人から。
 
以下、1957年に出版された本からの引用です。

Speed is achieved by increasing the rapidity of the eye movements, decreasing the length of the pause, and taking in a large number of words during each pause.
While these are the mechanics of eye movements, you have been warned that it is the mind which controls the reading process, and better eye movements are but a reflection of increased mental tempo in absorbing the meaning from printed symbols.
▲寺田のてきとー訳
スピードは以下の諸条件で達成できる。すなわち、高速な眼の動き、停留(固視)の短縮、各固視における処理後数の増加である。
これが眼球運動のメカニズムではあるが、やはり警告しておく。読書過程をコントロールするのは、あくまで心である、と。よりよい眼球運動は文字情報を処理する心のテンポの反映でしかないのだ。
── 『Speed Reading Made Easy』(Nila Banton Smith, Literary Licensing)

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