こんにちは。読書と学習法のナビゲーター、寺田です。
ゴールデンウィーク最終日。
本日から3日間、フォーカス・リーディング3日間集中講座です。
今回の受講者は4名。
人数が少なく、細やかにケアできますので、
満足感は上がります。
ですが、速読技術というのは、それ自体が目的ではありません。
ある意味で、速読をマスターすることで、
価値ある学習のスタートラインに立つだけ。
- 1冊のハウツー本を、楽しんで20-30分で読めるようになった。
- 1冊の教養書を1時間で、疲れずに読めるようになった。
- 情報収集目的の読書を、2時間で一気に20冊こなせるようになった。
このような成果をどう活用し、
どう、自分の思い描く未来に接近していくか、
そこが問題というか、講座の成果の核心です。
ですが、ここから先は、ある意味で「成長デザイン」の問題であり、
「学習意欲のデザイン」に関わる領域。
講座の会場を離れた話がメインなので、
かなり難しい部分であることは確か。
ということで、今回は
講師として、受講者のモチベーションを
どう高め、どうゴールまで導くことができるか?
というお話をお届けします。
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教育系講座が目指すべきもの
教育サービスを提供する人や会社は、
その場の満足感ではなく、
1年後に、その人がどう変わったかで
成果を測られるべき、というのが私の持論です。
ですので、フォーカス・リーディング講座の最大のテーマは、
受講者の方に、どう自分の未来と、その道筋を
デザインしてもらい、着実にそれを歩んでもらうか?
だと考えています。
これについて、欲求ピラミッドで有名なマズローも、
こんなふうに語っています。
「私がもし、ベルの音で唾液を分泌し、
その後これが消失するなら、
私にとって何も起こってはいない。」
── マズロー著『人間性の最高価値』(P.189)より
学習意欲をデザインする!:ARCSモデル
この学習意欲に関する研究において、
世界的権威であるJ.M.ケラー氏と鈴木克明氏(熊本大)が
ARCSモデルという教授・学習デザインを提唱しています。
非常に良く出来たモデルであり、世界中の教育現場で
(もちろん日本でも)その手法に則った教育が実践されています。
その理論は
『Motivational Design for Learning & Performance : The ARCS Model Approach』
という書籍に収められており、日本語訳も出ています。
この本によれば、学習意欲というのは、
ある種、確定的で予想可能な要因もあるものの、
多くの要因は不確実であり、多次元的だと言います。
それを指導者の立場でコントロールするための
戦略が、本のタイトルにもある「ARCS」の4段階であり、
A-R-C-Sの各段階で、指導者、教材提供者は
次のような問いを持たなければならないとしています。
Attention:注意
どのようにしたら、この学習体験を刺激的でおもしろくすることができるだろうか?
Relevance:関連性
どんなやり方で、この学習体験を学習者にとって意義深いものにさせることができるだろうか?
Confidence:自信
どのおうにしたら学習者が成功するのを助けたり、自分たちの成功に向けて工夫するための手がかりを盛り込めるだろうか?
Satisfaction:満足感
学習者がこの経験に満足し、さらに学び続けたい気持ちになるためには何をしたらよいだろうか?
※以上、前掲書『学習意欲をデザインする』(P.47より)
モチベーションを維持する仕組みをどう作れるか?
基本的には、「モチベーションは下がるものだ」という発想が
絶対的に必要であることは、間違いありません。
目指すゴールまで確実に到達させたければ、学校教育のような
「仕組み」作りが必要です。
それがない以上、何かしら自分に強制力を与える仕組みを
自分で用意するのが理想です。
[blogcard url=”https://www.office-srr.com/yomoyama/both-willing-and-system/”]
しかし、そこを「自己責任」で終わらせるのは無責任というもの。
講師の立場として、そこにコミットする余地があるのではないか?
というわけです。
私の講座の場合、「3日間で終了した後のフォローの1年間」なのか、
「3ヶ月間の講座期間」なのかで、かなり考え方は変わりますが、
このARCSモデルをヒントに、いくつか考えるべきコトはありそうです。
注意(Attention)喚起戦略
教材や課題を提示する際に、
セールス系のメールにありがちな
「意外性があり、興味を引き出すタイトル」など
刺激への反射的反応を引き出すのも1つの方法です。
もちろん、興味を引いた後で、どう学習意欲を生む
提案が出来るかが一番の勝負どころではありますし、
単なるサポートメール程度だと、そういうメールに
慣れて、飽きてしまう可能性が否定できません…
関連性(Relevant)づくり戦略
フォーカス・リーディング講座では、受講のスタート時点で、
「速読修得を目指す理由」を紙に、具体的に書き、宣言してもらっています。
恐らくは、ここが一番重要だと感じています。
ここで具体的な目標が書ける人、言葉にできた人は、
最後まで読書を継続できる可能性が上がります。
学習者の人生やビジネスに、その学習がどう役立つのか、
どう関連するのかが明確に意識出来た人というわけです。
それが出来なかった人や、
「とにかく読書を変えて自分を変えたい!」
という抽象的な動機しか持ち合わせない人に対しては、
リアルな先行者の実例を出して、ロールモデルとして
採用してもらうなどの工夫が必要かも知れません。
また、途中の自主トレのメニューの提案に際しては、
それが学習者にどのようなベネフィットをもたらすのか、
常にベネフィットライティングで提案していく必要があります。
ある意味でセールスコピーライティングでは当然の発想ですが、
学習支援の部分では、ここは弱かったなと反省しきりです。
自信(Confidence)を形作るための戦略
自信過剰になってしまうと、学習者は指導者の言葉に
耳(心?)を閉ざしてしまいます。
ですが、「不安にさせない」ことと「ポジティブに成功に期待する」ことは
とても重要です。しかも「がんばったからできた!」という自己有能感を
持たせることですね。
達成感(Satisfaction)を生じさせるための戦略
講座を受講する前にはできなかったことが、
受講の結果できるようになったという実感、手応えが
その第一歩であることは間違いありません。
しかも、その直後のプラシーボ効果が抜けきって、
日常の中で、その手応えを実感するような機会を
提供する必要があるかも知れません。
講師から学習者への定期的なアプローチ
上記ARCSモデルのどの領域かというと難しいのですが、
モチベーションを維持し、あるいは上げ直す目的で、
適切なメールやメッセージカード配信が効果的であると
Kellyは具体的な事例でもって紹介しています。
This approach includes the creation and distribution of ‘motivational message’ that are sent to students according to two schedules. The first is a set of fixed points based on predictions of the points during the course when these messages might have the strongest effect. These messages are the same for every one. The second schedule consists of personal messages sent to students when the instructor, or in L.Visser’s case the tutor, deems it appropriate. These messages were in the form of greeting cards, which conveyed messages of encouragement, reminders, empathy, advice and other appropriate content.
▲寺田のてきとー要約
このアプローチは「動機付けメッセージ」の創造と分配を含んでいる。そのメールは2つのスケジュールにしたがって生徒に送信された。
1つ目のスケジュールは、これらのメッセージが強い影響を持っているであろう、あらかじめ設定されたコース途中に配信されている。
2つめは指導者が適当と思うタイミングで、個人的なメッセージとして送信された。これらのメッセージはグリーティングカードの形式を取り、勇気づけ、思い出させ、共感し、アドバイスし、その他適切なコンテンツをメッセージとして配信されている。
これについては、「確かにね!」というところではありますが、
社会人の学びが、しかも自分のフィールドに戻ってからの実践が、
非常に多様であることを考えると、なかなか大変です。
また人数が多くなると、一人一人にカスタマイズされたカードを
送ろうと思うなら、チームを組んで、システマティックにやる必要が
ありそうです。
1つめの「固定されたスケジュールに沿って」という分であれば、
ある程度「最小公倍数」的なタイミングを取って送ることは
可能でしょうか。
その際には、AttentionやRelevanceの原則を上手に使う
必要がありそうです。
講師がコミュニティを作って、ほどよく絡む
こちらのブログ記事で紹介している板坂氏は、
facebookに「同期会」グループを作り、
中心的に活躍しそうな人物を設定した上で
お互いに励まし合う仕組みを用意しています。
[blogcard url=”http://www.kotonoba.jp/learning-tech/best-policy-to-keep-motivation-high/”]
同士、同期の仲間や、おろそかにできない人を巻き込んで、
お互いに励まし合うようなコミュニティが作れると最強ですね。
板坂氏は定期的に講座開催地に出向き、飲み会までなさっています。
好きじゃないとできない(私には真似できない)荒技です…
ざっくりとした結論的な何か
以上、長くなりましたので、ややまとめ的に整理しますと・・・
- モチベーションは下がるものだという前提の下、自己責任として長期デザインを描けるような支援、継続できる仕組み作りに関する支援を適切に行っておく。
- 受講開始段階で「ゴールのデザイン」を言葉にしてもらい、それを1ヶ月後、3ヶ月後、半年後など、ある程度のマイルストーンとなりそうなタイミングに、リマインダー的に確認してもらう仕組みを用意する。
- 不定期に、「注意を喚起できるタイトル」で釣りつつ、自分の停滞感や「もっとやらねば!」という意識を喚起できるようなベネフィットライティングのメールを届ける。
- 学習者が適度に「やってみよう!」と思い直し、「やれるじゃん!」という自己効力感を実感できるような課題を提案してみる。
- 学習を通じて自己成長、自己実現を達成した事例を、やはり興味を引くタイトルを添えて配信し、「よし、自分も!」という意欲に再点火する。
- 「同期」を強調し、その中のリーダーを指名して、その人を中心にコミュニティを作ってもらう。これは目的や取り組む課題が共通している場合には、かなり効果的。
といったところでしょうか。
こう書いてみると、まだまだフォーカス・リーディング講座も
フォローの部分で改良の余地がありそうです!
ひとまず、明日の2日目講座、全力で参ります。(^^)