「速読で語彙って増えますか?」問題

もう今となっては昔のこと。
 
速読のフォローアップセミナーに参加したコンサルタントさんから相談を受けまして。
 
曰く、

「講演ネタを仕入れるのに、たくさん本が読みたい」
「人に語る、あるいはブログや書籍に書く言葉を、もっと豊かにしたい」

とのこと。
 
それで多読を・・・と。

「多読は不要でしょ。むしろ言葉を耕す方向で、古典や名著をじっくり読んだ方がいい」というのが私の答え。

 

確かに、速読を売り込みたくて仕方がない人が「速読で多読をして、語いと知識を手に入れよう」的なブラフアピールをすることがあります。
 
ですが、それは幻想
 
だって、語いが充実しているから速読という高度な読書が可能になるんです。
逆ではないんです。
 
キャッチボールをできるようになりたいから甲子園を目指すなんてことはないんですよ。
キャッチボールがままならない、素振りをする筋力がない…という人は、甲子園を目指す前にやるべきことがある。
 
同じリクツです。
 
でも、そういう「速読で多読。世界が広がる?!」ってな期待ってありますよね。実は私もそうでしたし。
 
そういう向上心とか学習意欲ってすごくステキ。
それをカモにしようとする人がいるのがケシカランってだけで。。。
 
ということで、今日は誰もが(?)ちょいと気になるテーマ

  • 語彙を増やすには、どういう読書をしなければならないのか?
  • 速読は新しい知識を手に入れるためには使えないのか?

について、ちょいとクールに考えてみましょう。

そもそも「読書とは?」と考えてみる

速読を考える前に「読書とは?」と考えて見る必要がありそうです。
 
読書とは、文字情報を自分のデータベース(これをスキーマと呼びます)に照らし合わせて、そこに込められた意味を理解することです。
 
理解にせよ、記憶にせよ、すでに持っている自分の知の体系(ネットワーク)の中に関連づけられ、適切に位置づけられて初めて成立します。
 
つまり、読書というのは、ある程度、そこに書かれている話の前提を知っているという条件が必要なんです。
 
もちろん、すべてを知っている必要はなく、というかすべてを知っているのなら、その本は読む必要がないわけで・・・

書かれている言葉の文法、文字など読むのに必要な語学力

某有名な先生が「読めない英語の本でも脳に写真として写し取れば、右脳が処理してくれる」的な説明をしているそう。じゃ、これから未解読の古代文字の分析と解読は、その先生にお願いしましょう!

書かれている内容の前提となる背景的知識(社会背景など)

時として言葉が理解できてもイミフメイという事態が起こります。
「ニュースを読むためにパソコンの前に座った。」なんていう単純な一文も、30年前からタイムスリップしてきた人には「ハァ?(゜д゜?」って話。
アメリカの文化的背景が分からないと、アメリカの書籍が楽しめないのも同じですね。

他にも細かく言えばイロイロ必要になるわけですが、基本的にこの2つが本を読む前提として必要になります。
だから「語いを増やす」ってのが「知らない言葉を手に入れる作業」だとすると、それは結構大変な作業なんですよ。

未知の「言葉」を獲得するのには、多くの「体験」が必要

うちの歳の息子はまもなく4歳(2016年5月現在)。
どんどん言葉が増えていっています。
 
この前、お店のジュースメニューを見ていたら「パッションフルーツって何?」と聞かれました。
 
この「パッションフルーツ」という単語の獲得は、それほど難しくありません。
 
ネットで検索して写真を見せたり、他のフルーツと比較して教えることができます。これは、彼の中にフルーツという食べ物という前提知識、いろいろな食事体験、味覚体験があるので、すんなりと受け容れられたんですね。
 
これが、例えば「無重力って何?」という質問になると答えに窮します。(NHKの「コタツタコDVD」というやつで出てきました。)どう考えても彼の体験から作られた脳内データベースでは理解不能なんですね。「重力」という概念がないんですから!
 
だから適当に「体が軽くなってふわふわ浮かんじゃうんだ」ってお茶を濁してます。
 
 
読書によって言葉を獲得していくのも基本的に同じこと。
前提として、どのくらいスキーマ、つまり前提知識や体験があるのかが重要です。
 
逆に、これがなければ、その体験を読書を通じておこなう必要があります。
 
例えば、江戸時代に「解体新書」を翻訳した杉田玄白さん。
彼らは、そうとうな苦労があったはずです。上に挙げた2つの条件のどちらも完全に欠如していたわけですから!
 
何もかもが欠如している中で、

  • 自分たちでも腑分けをし、文脈を体験でなぞる。
  • 1つの単語でも、いろいろな文脈で使われている。それを丁寧に読み解きながら、曖昧模糊としていた輪郭をクリアにし、さらにその奥行きをつかむ。

そういう、言葉との格闘、言葉と体験の重ね合わせ作業をしていったわけです。
なんという根気のいる作業!(汗)

では「語いを増やす読書」とは、どうあるべきか?

当たり前ですが、誰だって新しい概念を学ぶには、背景も含めて何度も学ばないといけません。初めて知る概念を一発で理解できるなんてことはありませんからね。
 
そうやって繰り返すことで、まずアタマで理解する。そして、その後で腑に落とす。
 
場合によっては、分からないものを何度も繰り返すより、他の本を読んだ方が有効な場合も多いもの。同じ言葉が、違う文脈で使われているのと出会うことで、言葉の輪郭が見えることもよくあること。
 
いずれにせよ、「繰り返し」はとても大事です。

では「速読」はどう使えるか?

「そもそも速読って何?」という話を確認しておきましょう。

読書に最適な体(眼・意識・集中力)の使い方でもって
スキーマに照らし合わせながら、効率的に意味を受け取っていく作業

 
これが速読の基本です。
 
フォーカス・リーディングでは、さらに手に入れたいリターンを明確に設定し、フォーカスからずれることは軽く流すことでスピードを上げようと提唱しています。
 
いずれにせよ、知らない言葉、曖昧な概念について知りたければ速読は基本的に無力です。フォーカスが「言葉」という小さなレベルに向かっていないから。そして「意識で戦い、体験する」という読み方ではないから。
 
 
ただ、まったく「使えない」のではなく、「通常の読書とは使い方を変えなければならない」ということ。ま、まさに「未知の語いを獲得することにフォーカスした読書」をしましょう、と。

未知の言葉、概念が一部に出てくる場合

初めて知る内容であっても、前提となる知識があって、自分の体験と照合可能な範囲内であれば、それなりに理解可能です。あるいは、一部に未知の言葉や概念が出てきても、全体を理解することで、そこを埋め合わせ補強することが可能です。
 
これは外山滋比古氏の例え話をお借りするならクロスワードパズルを解くのと同じだってことになります。横のカギに不明なものが混ざっていても、縦のカギが分かれば解ける・・・ということ。
 

「読みの整理学」をどうぞ。私の種本の1つです。

 
つまり、あえて細かな、不明な点をスルーして全体像をしっかりつかんでおいて、そこからあらためてじっくり体験すべき箇所に戦いを挑む、というスタイルが可能になります。
 
気をつけなければならないのは、あくまで言葉を体験するにはしっかりとイメージが広がり、腑に落ちるような読み方をしなければならないってこと。
 
あえて残して置いた「未知の領域」に立ち戻って読み直す時は、速さを捨てる勇気、ブレーキを踏む勇気をお忘れなく。

まったく新しい概念の本に挑戦する場合

場合によっては、一冊まるごと新しい概念・・・ということがありますね。資格試験に挑む場合とか、自分の世界を広げるための読書とか。
 
そういう場合は、フォーカスの設定が重要です。そして「最低5回読む」という前提を用意しましょう。

1.まずは「ざっくり全体を俯瞰」

まず、フォーカスを文脈(ざっくりした理解)に置き、分からない言葉、分からない概念を気にせず、淡々と読み進めておきます。「ほー」「ふーん」ぐらいの軽いのりでOK。
 
あまりにも分かりづらい話の場合は付箋を貼って置きましょう。(付箋だらけになるでしょうね。)

2.不明点にフォーカスして丁寧に読む

2回目の読みは、フォーカスを「分かりにくかった部分」に置きます。
1回目の読みで、まぁまぁ読めた話は軽やかに流しつつ、付箋の部分を重点的に読みましょう。
 
ただし、二読目でも分からない話もあるはず。それは付箋をそのままにします。なるほど、と思えた部分はチェックをいれて付箋をはがすか、付箋を貼る向きを変えるか、「難しかったけどクリアしました」という痕跡だけを残します。
 
章の変わり目では、前の章をざっと振り返り、トップダウンで「だいたい、こんな話」という程度に整理をしてください。

3.不明点を解消しながら精読

3回目でようやく丁寧に読んでいきます。
入力レベルが変えられる人は、すでに1~2回目で分かってしまっている部分を「分かる」レベルで流します。そして、理論など「意識でしっかりかみ砕く」必要があるところをじっくり読みましょう。

4.ポイントを絞ってスキミング

4回目以降は、そこまでの手応え次第ですが、憶えたい部分にフォーカスしながらスキミングしていきます。

本当に使える言葉として定着させるには?

実は、そうやってインプットした言葉は「本物」ではありません。
 
言葉(知識)ってのは往々にして、使ってみて(出力作業を通じて)初めて腑に落ち、使いこなせるようになるもの。
 
また、記憶への定着を考えても「繰り返せば憶える」のは確かですが、「繰り返し思い出したものは強固に記憶でき、使いこなしやすい」ことも真実です。
 
資格試験のテキストであれば、ただ読み重ねるのではなく、チェックペンで塗りつぶして見えにくくしておき、一瞬でもいいから「あれ?なんだっけ?」という時間を作るのが理想です。
 
人に説明する、ノートにまとめる、日常で使ってみるなんてのも同じ効果があります。
 
なにしろ、言葉を手に入れるためであれば、読書、つまり入力で完結するなんて思わず、出力までセットで考えたいものですね。

「たくさん読む」が語彙を増やすとは限らない!

「言葉を増やそう!」「世界を広げよう!」って思ったら、「速く沢山読もう」という安易な発想は捨てましょう。
 
確かに、本をたくさん読めば、いろいろアイディアがもらえますよね。
 
でも、速読で手に入るのは「今の自分のデータベースが及ぶ範囲」です。そこでわき上がってくるアイディアは、もともとあなたの中にあったもの。本が触媒になったに過ぎません。
 
「言葉と格闘して、充実した言葉の体験ができる本」を読んでこそ、本当の意味で言葉・思考が豊かになり、自分の視点を変える体験が可能です。
 
語彙を増やして知性をアップさせたいあなた。
 
ぜひ、自分の知性が及ばない、あるいは普通なら絶対に手に取らないような本を、積極的に手に取り、じっくり向かい合ってみてください!

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