なじみのないジャンルの本でも、速読できるのか?

先日の大学院入試の面接試験で、私の仕事である「速読指導」について、2人の教授から質問(というかツッコミ?)がありました。

「感動を味わうような小説を速読して、ちゃんと味わえるのか?」

「未知の領域の専門書は速読で理解できるのか」

ごもっともなツッコミです。
 
そして、この質問は本当によくお聞きする代表的な質問でもあります。
ここで、丁寧に解説しておこうと思います。
 
「速読とはどういう技術か?」ということをご理解いただければと思います。

基本1:「本を読んで理解する」とはどういう作業か?

1-1.理解の構造

まず、基本的なこととして、「本を読んで理解するってどういうこと?」という話を理解していただく必要があります。
読解に関する研究で定番となっているのは、Kintsch氏らが1998年に提示した”Integration-Construction Model”(統合・構築モデル)です。
 
読書の理解についても、だいたいこれで説明可能だと、私も考えています。
ざっくり図解すると、こんな感じです。

 
もう少し解説しますと、「本を読む」という場合、「著者の書いた言葉を、書かれた通りに把握する」という作業があります。
これについて、「言葉のつながり」というミクロ構造を理解する作業ばかりを意識しがちですが、「書籍の構造」や「著者の語るロジック」を理解することも非常に重要です。
 
大学の授業では、前者(ミクロ構造)を前期授業で、後者(マクロ構造)を後期授業で指導していました。(夏休みに速読指導)
 
そして、この理解は「書かれた通りに」だけでは成立しないわけで、「書かれていないこと」や「前提とされている条件」などを汲み取ることによって、さらに深い理解が可能になります。
 
この領域は、その人の読んで来た本や、してきた体験によって変わりますので、「処理・編集」という色合いが濃くなりますね。

1-2.理解のために必要な読み方

まずは何より「言葉通りの理解」が必要になります。
上のマトリクスの左下「ミクロ構造の、テキストに沿った理解」については、次の2つの問題がからみます。

  • 主語・述語、修飾・被修飾、指示語、接続詞などの言語運用能力
  • 著者がどれだけ分かりやすく書いたか

私は仕事柄、言語運用能力は低くないと思っているのですが、昨日のブログに紹介した次の文は、さすがに「一読して理解」は不可能です。

したがって、筆者がここに提出する、日本の諸社会集団にみられる諸現象から抽出された構造の理論的当否は、その論理的一貫性(logical consistency)ばかりでなく、実際の日本社会に見られる諸現象、日本人のもつさまざまな行動様式、考え方、価値観などに対する妥当性・有効性(Validity)の存否によってもテストされうるのである。
── 『タテ社会の人間関係』より

マクロ構造についていえば、ロジックの構造や、全体の展開について分析した経験があったり、類書を多数読んでいて、その領域の論の構造を把握していたりといった条件があれば楽になります。
 
また、ミクロ構造に注意を向ければ(フォーカスすれば)、マクロ構造をつかめなくなりますし、その逆もまたそうなります。

基本2.「速読」とはどういう読み方なのか?

2-1.速読というものの正体

速読というのは、基本的に次の式であらわすことができます。

速読=スキーマ(データベース)×眼・集中力のコントロール力×フォーカス

この中の3つの要素について、詳しく見てみましょう。

2-1-1.スキーマ(データベース)

「テキストに沿った理解」にせよ「推論・類推」にせよ、前提知識の多さによって、速さも変わりますし、ある一定のスピードで読んだ時の理解の深さも変わります。
 
このデータベースには、次の2種類があります。

  • 1.本を読んだ「言語処理」、「文脈理解」の経験値
  • 2.その領域に関する知識や体験、社会構造などに関する理解

1については説明不要でしょうか。(省略します!)
2については、例えば、

太郎は、ちょっと知りたいことがあったので、パソコンの電源を入れた。

という何でもない一文があったとします。
これを「何でもない」と思うということは、パソコンというものを知っているということだったり、インターネットに接続して調べるんだろうなぁという推論ができているということなんですね。

2-1-2.眼・集中力のコントロール

これは、ここでは論点から少々ずれますので割愛します。
興味がある方はこちらのページをどうぞ。

2-1-3.フォーカス

集中力をコントロールする技術としての速読技術のレベル如何に関わらず、最終的にはスピードはフォーカスで決まります。
 
どこまで細かなロジックやレトリック、あるいは深さに意識を向けるのか、です。
 
ざっと概要が取れればいいと思えば速く読めますが、当然、ミクロ構造の理解は雑になる可能性があります。一方、細かく丁寧に読み解こうと思えば、スピードが落ちます。そして、マクロ構造の把握は難しくなるでしょう。
 
「細かく丁寧に読み解こう」としたときのスピードは最終的には、無限に「ゼロ」に近くなります。哲学書を読む作業を想像していただければいいでしょうか。
 
つまり、マトリクスの縦軸の上によった部分ほど速読に適しているわけです。

速読でなじみのないジャンルを読めるのか?

前提を確認したところで、ようやく本論です。
 
上の式でいう「スキーマ」が乏しいわけですので、活用の幅は狭まりますよね。当然。
ただ、マトリクスでいう右上によった部分であれば、「乏しいなりに知っている要素」をベースにして、ざっくりとした情報を手に入れたり、マクロ構造を把握したりすることは可能です。
 

1.まったく何も知らないジャンルを学ぶ場合

そのジャンルに関する概念、基本となる語句すら分かっていなければ、基本的に速読は不可能です。
いきなり、そういうジャンルの専門書に挑むのは大変ですね。(^^;

1-A.速読=入門書、基本書を重ね読みする技術

そのジャンルについて解説してある入門書などを、できれば数冊手に入れて、ざっと読んで、概念や論の構造、キータームなどをつかむのが、もっとも正しい速読の活用法でしょう。
 
知らない概念であっても、「知らない人のために、分かりやすく解説してある」という前提があれば、それは速読の対象になりえます。

1-B.速読=軽く眺めて、雰囲気をつかむための下読み

母国語で書かれているという以上に、中身に関する情報を持ち合わせていない場合で、しかも挑む本がヘビーな専門書の場合です。
 
5年ほど前に読んだ『U理論』がそうでした。
U理論ってのが、何の理論かも知らず、ベースとなる概念、予備知識もまったく持ち合わせていない状態で、文字がぎっしりの540ページある大著を読みました。
 
第一読は15-20分程度で、どんな言葉、どんな図が使われているかというレベルで雰囲気をつかみました。
第二読は1ページ6秒ペースで、4−5回に分けて淡々と読み進めました。必要以上に分かろうとせず、分かるところは入って来るし、分からないところは気にしない、というスタンス。
時々、分かりやすい事例が書かれていたら、丁寧に読み込んでみることも。
 
その2回で何が分かったか?

  • こりゃ、えらく大変な本だなということ
  • 社会変革におけるものの見方、考え方、そしてリーダーシップについて語っている本だということ
  • やはり読む価値がありそうだということ

この3つです。
あとは「2回、目を通した」という安心感でしょうか。

2.そのジャンルの周辺的な情報を持っている場合

そのものは学んだことがないけど、周辺というか、前提程度の知識は持っているとか。
あるいは、知らない世界ではあるけど、自分の得意な話からの類推で、構造くらいは分かるとか。
 
例えば、
すでにビジネスをしている人が、初めて本格的にマーケティングを学ぶ。
専門外の人が経済学を学ぶ。
── そういう場合です。
 
アナロジー的に類推したり、具体的にイメージしたりという作業が、要所で必要になりますので、そんなにむちゃくちゃ速くは読めないでしょうが、それほど難しくもない速読です。
あとは、その本に、どの程度の専門用語や概念が盛り込まれているかで、読み方、速さ・深さが決まります。

結論:なじみおないジャンルの本は、あくまで下読み用と心得よ!

何かを学ぶ際には、【概観・下読み】⇒【精緻化・本ちゃん読み】⇒【演習、出力】⇒【実践、応用】という手順を踏みます。
このうち【概観・下読み】の部分にこそ、速読を使うのがもっとも効果的です。
 
いきなり専門書に挑んで、下読みを2-3回繰り返すのもこれ。
その前に入門書を重ね読みするのもこれ。
 
その上で、本格的に学ぶといいですね。(^^)
 
もちろん、知らないジャンルとはいえ、分かりやすく書かれたビジネス書単行本などであれば、この入門書と同じレベルで学べますけど。
 
ということで、長くなりましたが「速読の正しいイメージ」は伝わったようなら幸いです!

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