速読術関連コラム
[02]日本の速読事情
日本のみならず、世界中で「速読」という言葉や概念は古くからあるわけですが、日本で「速読(術・法)」が注目を集めたのは、1980年代に韓国原産「キム式速読術」が紹介されてからのことです。それから悠に20年を超える時間が経過しているわけですが、残念ながら日本では「速読(術・法)」が世間に認知されているとは言えません。
それでも、書店には「速読」に関する本がずらりと並んでいますし、アマゾンにも「速読法」というジャンルが存在し、2005年11月25日現在で175冊の書籍がリストに並んでいます。また、全国には「速読教室」を名乗る教室・塾などがたくさんあり、各教室の公表する修得者数を合計すると、のべ100万人を超える計算になります。つまり、日本人成人の約100人に1人は、速読教室に通って速読術を修得した計算です。あなたの周りを見渡して、この数字に信憑性はありそうですか?
★日本で見られる「速読術」について
ここでは、日本に見られる速読術・速読法(どちらの言葉も違いはありません)の流派とその源流、そして現状について見てみましょう。
★日本における速読術─その源流
「速読」という言葉はずいぶん昔から使われているわけですが、とりわけ現在のような「速読術」あるいは「速読法」というような呼び方をされるようになったのは1980年代のキム式速読術の日本上陸以降のことだと考えられます。(1960年代にも「速読法」か「速読術」か、そのような書籍が出版されていますが、現在のような大きな流れにはなっていません。)
とはいえ、日本にも伝統的な「とばし読み」「斜め読み」「拾い読み」という技術があったわけで、これも1つの速読技法と考えるべきでしょう。ただし、経験上お分かりいただけるだろうと思いますが、とばし読みをするということは、とばした内容を頭で補っていく必要があり、普段から慣れ親しんだジャンルのもの(しかも小説などは不適)や新聞など予備知識を持っているものに限定され、またある程度の読書経験を積まないと不可能な技でもあります。
この技法をシステム化し、体系づけたのがRRC速読速解法研究センターです。NHK文化センターでも講座を開講しているようで、その元講師によってトレーニング方法についてのメルマガも発行されています。
このとばし読みなどの技術を否定し「一字一句を漏らさず読み、ゆっくり読むよりも理解度が高い」と豪語して登場したのがキム式速読術と呼ばれるものです。韓国人キム氏が開発した(パク式速読法の書籍を見ると、キム氏がパク氏のメソッドを真似ただけということです)メソッドで、日本から6人の先生方が弟子入りし、彼らによって日本に持ち込まれました。(私の師匠である大塚先生もその一人です。)
キム式の大きな特徴は、文字を読まずに(彼ら曰く)右脳に画像として写し取り処理するというもので、1冊を1分程度で読めるようになると主張している点です。この流派が注目を集めてからでしょうか、世間で「右脳」とか「アルファ波」などといういかにも科学的に聞こえる言葉が魔法の力を持つかのような使われ方をするようになりましたね。ちなみに、キム式の正当な流派は、おそらく東京速読アカデミーと日本速読協会だけではないかと思います。SRS速読法の栗田氏もこちらで学んでいらっしゃいますが、すでに独自のメソッドとして完成されています。
さて、その「パクられた」と主張しているパク式ですが、これちらは同じく韓国のパク氏が開発したメソッドです。日本ではNBS日本速読教育連盟が正式な教室として展開しています。パク式の特徴は、文字を1文字ずつ丁寧に追うトレーニングを根気よく続けることにより、すべての文字をしっかりととらえ理解しながら超高速に読めるようになるという点です。キム式は右脳でページを丸ごと写し取るとしているのに対して、パク式は1文字ずつ読み取ることを前提にしています。しかし到達レベルは最高で10万文字/分(1ページ0.3秒程度)、1冊を1分程度で読み終えられると主張している点ではキム式と同じです。受講者の話を聞くと、2~3年程度かけて毎日しっかりと腰を据えて取り組めば、そのレベルに到達することも夢ではないそうです。ちなみに、このメソッドは眼の動きを非常に大事にしますので、両眼のバランスなど速読をマスターするのに適正が必要で、それがないといくらがんばってもダメなのだそうです。また、当然、通信教育などは眼のチェックができないため不可能とされており、直営の教室のみで学ぶことができます。
ちなみに、祖国韓国では、いずれの流派も20世紀のうちに廃れてしまっており、今ではほとんど噂すら聞かなくなったと韓国人の学習塾経営者の方からお聞きしました。理由は「誰も修得できなかったから」だそうです。(--;
キム式全盛の頃に、徹底的にキム式を批判してセンセーショナルに登場したのが新日本速読研究会・日本速脳速読協会です。初期の頃は徹底的に「右脳による速読」を否定して「左脳速読」という新しい概念を提案し、私のようにイメージ力や写真のような記憶で挫折した人間には救世主のように見えたものです。その後、どういういきさつか分かりませんが、「右脳」を前面に押し出す流派に変化し、スピードは「誰でも修得できる初級レベルで5000文字/分」としています。このメソッドの特徴は「集中しない」、「簡単に」、「コンピューターの画面を眺めるだけで」というもので、速読術訓練用のパソコンソフトを世に出したのはここが元祖です。実はそれより前に、私はシャープのMZ-2500のM-BASICというやつでキム式のトレーニングソフトを作っていました。(^^) まぁもともとスクリーンに表示するトレーニングはそれ以前からあったわけですから、それがコンピュータ画面になっただけという点では時代の流れに乗ったということでしょう。
ちなみに、このジョイント式から分派し、パソコンを活用しながらも、全く違う理論を組み立てて展開しているのがSP速読学院です。こちらの理論の特徴は行を捉える視野を徹底的に広げていき、最終的には複数行をとらえて理解していくという点です。トレーニングはパソコンの画面を眺めるタイプのものと、トニー・ブザンの速読法でも使われている視野を広げる様々な視点移動法が中心になっています。
一方、欧米では伝統的に速読法が活用されています。とはいえ、日本のような眼のトレーニングであるとか、脳を開発するとかいう発想はなく、段落構成の特徴をとらえた要点の拾い方であるとか、指によるガイドで読み進めるスピードを上げる方法、あるいは様々な文字列を瞬時に読み取るパターン認識能力を高める方法など、非常にシンプルで実用的なものとなっています。また韓国原産の速読法のように「一字一句を漏らさず」であるとか、夢のような超高速なスピードではありません。よく速読教室のホームページに「ケネディ大統領も活用していた…」などという宣伝を見かけますが、これは羊頭狗肉というべきもので、ケネディがマスターしていた速読法はもっと実用的なレベルのものだったようです。
この欧米式の速読法のうち、情報の取捨選択能力、技術を高める点を中心に「読書技法」として正しく日本に伝えたのは健康能率研究所の斉藤氏です。氏の著書「かんたんスラスラべんり速読術」(右図)は、ぜひともご一読いただきたい本です。
欧米式と言えるかどうか微妙ですが、欧米の速読法トレーニングの中でおこなわれる文字列のパターン認識トレーニングや文の認識トレーニングを通じて、文の理解のスピード(反応速度)を上げるトレーニングを発展させ、まったく独自のメソッドを築き上げたのがBTRメソッドのクリエイト速読法です。ユーキャンの通信講座にも採用されているのですが、これは独学でも誤った方向に向かう可能性が低く、また楽しく取り組めるように工夫されています。数ある速読教室の中で実績(司法試験合格者数)を実数で公表している数少ない(というか実績・成果をきちんと公開しているのはSRRとクリエイトだけです)教室でもあります。ただし、韓国原産の流派と違い過激な数値目標を出さず、非常に理にかなったカリキュラムで堅実にやっていますので、それらと比較すること自体がナンセンスだとも言えます。
もう1つ、認識力を高めてスピードを上げていく手法を採用しているのが、「速読の科学」の著者、佐藤氏です。氏は日本読書学会の会長をお務めになった方で、元々大学教授です。氏の提唱するトレーニングは、パターン練習などと並行しながら、ただひたすら多くの文章を速く、正確に読む練習を繰り返すというもので、ある意味非常に合理的です。
なお、欧米式を名乗りながら眼の運動機能を高めることばかり主張するなど、欧米式とキム式を融合、混乱させたようなメソッドもありますので、欧米式の速読法に興味のある方は斉藤氏の著書をご一読なさることをあらためてお薦めしておきます。
もう1つ、欧米式の速読技法と加速学習の一つの流れである暗示的学習法(サジェストペディア)の学習手法を組み合わせたユニークな速読技法がフォトリーディング・ホールマインド・システム(通称フォトリーディング、なおPhotoReadingおよびフォトリーディングは米国ラーニングストラテジーズ社の登録商標です)です。これはマクロレベルで見た読書の攻略法に、潜在意識を有効活用するというもので、速読法とはジャンルが違うような気がしますが(システム読書法とでもいうべきもの)日本法人であるラーニングソリューションズは「速読法」として位置づけています。
その手法は加速学習を多少なりとも研究している私から見ても非常に合理的で、取り組む価値のあるものだと言えます。ただし、「潜在式を活用する」という部分でとまどう人も多いかも知れません。メソッドにはNLPなどの手法も取り入れられていますので、書籍(または講座のインストラクター)に従って、自分を信じて長期間取り組めれば誰でも効果を実感できるでしょう。
最後になりますが、ここまでのメソッドと一線を画す流派が七田式の速読法です。七田氏の速読へのアプローチは「読書」というよりも「脳の潜在力の開花」を志向するもので、速読の手法としてはフォトリーディングに近い部分もあるように感じます(ちなみに「右脳速読」という言葉は七田氏の登録商標です/またこのような批判が出ていることも知っておいてもいいでしょう-もちろんこの批判が当たっているかどうかは不明ですが)。それから上で紹介したSRSも、基本的に脳力開発プログラムとしてとらえるべきものであると私は考えています。
このほかにも様々な教室が存在しますが、基本的にどこかのグループであるか、あまりにも荒唐無稽で紹介する気にならなかったかどちらかです。新興勢力(?)のリーディングフィールズは主張はすごくまっとうなのですが、理論やメソッドを一切公開していないため、最後に紹介するにとどめておきます。(2006年のブログの記事から、新日本・速脳協会と同様、高速道路効果でスピードを上げるトレーニングだということが推測できます。つまり1時間後にはスピードは元に戻る可能性のあるものです。ですが、新日本や速脳協会とは違い、姿勢や読み方などの基本的な指導があるようですので、翌日以降の自主トレ次第で成果が決まるということになるでしょうか。)
なお、ここに書いた内容はあくまで寺田の理解であり、それぞれの教室・流派の主張と食い違いがあるかも知れません。どこか興味の持てるところがあれば、ぜひご自分で調査してみてください。また、おかしな点等がありましたら、遠慮なくお知らせください。
★日本における速読術─その現状
さて、流派を紹介していたらすごく長くなりましたね。それぐらいたくさんの流派があるということです。そしてそれらの教室が公表している速読術修得者数を合計すると、なんと100万人を超えます。日本人の成人は100人に1人は速読教室に通って速読術を修得した計算になります。
しかし私の周囲を見渡してみても、どう考えても速読教室に通って速読術を修得したという人はいません。(うちの受講生ぐらいです。)一方で、「天然で」速読を実践している人は何人も知っています。いったい、修得した人はどこへいってしまったのでしょうか?もしそんなにたくさんの人が速読術を修得しているのであれば、絶対に口コミで教室の噂が広がっているはずです。私の知る限り、口コミで広がっているのはフォトリーディングだけです。
上に「韓国では廃れてしまっている」と書きましたが、韓国でも当初は大ブームだったようです。パク式の場合、“ソウル大学法学部の学生から選抜してトレーニングをおこない、全員にすばらしい成果を上げた”と紹介され、それでブームになったけれども、すぐに廃れた。(--; 考えてみたら、ソウル大学の法学部というのは、日本で言えば東大法学部です。その中の選抜メンバーにできたからといって、誰にでもできると飛びついた時点で間違いだったのでは?と思ってみたりします。(^^;
日本では廃れることなく、細々と続いています。そのことを取り上げて「うちが20年以上にわたってつぶれずにいること自体が速読法がインチキでないことの証」とうそぶいています。しかし、詐欺師や泥棒、あるいは暴力団が有史以来絶えることなく続いているからといって、その正当性の証明にはなりえませんし、なにより20年以上も続いているのに、まったく口コミにもならず、広がりもないこと自体が本物でないことを証明しているように思えてなりません。みなさんはどうお感じになるでしょう?
また、ある教室は「97%の修得率」とうたいながら、私の知っている公認インストラクターさん6名が全員速読できないという悲惨な有様です。また別の教室では「速読できる人」の脳を科学的に分析して「科学的速読」を名乗りながら、受講者数は公表しても、修得者数や率は一切公表しないという非科学的態度に終始しています。そもそも、「教室」を名乗りながら修得状況すら公開できないというのはあり得ないことです。これが予備校ならとっくにつぶれているでしょう。これが「煽って儲ける体験談商法」だから20年以上存在し続けられたのではないかとも思えます。
どんな世界でもそうですが、天性の才能というものがあり、どこの教室・流派でも1%程度の確率で驚くような成果を上げる生徒が出ていることは想像できます。問題はそうでない普通の人を修得に導くメソッドと指導システムがあるかどうかです。実はメソッド自体が理論的に破綻しているところもありますし、指導者(メソッド開発者)が天才であったが故に普通の人にはついていけないシステムになってしまっているところもあります。
これから速読術を学んでみようという方は、ぜひともここからの内容を参考にして、自分にあったメソッド・教室選びをしてください。
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