ビジネス速読術講座
[10]速読を科学する #2/5
「速読を科学する」の第2弾です。第1回目を踏まえて、ややつっこんで分析していきます。
☆「認識」と「把握」のメカニズム
ここでは、前の項目で述べた4つのプロセスのうち、「認識」と「把握」について、もう少しつっこんだ分析をしていきます。
読書は眼と脳の共同作業ということができます。この両者の絶妙な協調によってスムーズな読書が可能になるのです。そこで、まずは眼が文字をとらえる時のメカニズムについて見ていくことにしましょう。なお、記憶については、理解のプロセスの本質的な部分とずれるため、ここでは省略します。
1.脳の視野
両目を大きく開けて正面を見ると、非常に広い範囲を見渡すことができますね。その角度は上下左右ともにゆうに100度を越えています。もちろん周辺部にいくにしたがって色も形も判然としなくなるわけですが、周辺部でも物体が動けばそれを察知することは可能です。
この「見える」レベルの視野は、眼の視野ということができます(この視野を光覚視野と呼びます)。この領域でとらえたものは、周辺部に行くほど情報としての質は落ちていきますし、そのような情報を把握し、判断するようなことはほとんどできないと考えていいでしょう。ちなみにこれは、視覚をつかさどる目の細胞の問題ですので、努力やトレーニングではどうしようもありません(まったく向上させられないという意味ではありません)。
その「見える」視野としての光覚視野に比べて、情報を正確にとらえ、判断に結びつけることのできる視野は非常に狭くなっています。通常、角度にして10度程度と言われています。風景や絵画、あるいはテレビの画面などを眺める時は、それ以上見えているような気がするかもしれませんが、実際にはすばやく目を動かして広く見渡しています。そしてこのような見方は、風景を眺める時でも、本を読む時でも変わりがありません。
私たちは情報を得ようとして対象を見る時、この「ちゃんと見える」視野でとらえています。(SRRでは認識可能な視野という意味で、可識視野と呼んでいます。)さらにいえば、このちゃんと見える視野のさらに中心部分だけで、私たちは文字を読み、情報を判断することが可能なのです。(そのような視野を、読むことが可能な視野という意味で、可読視野と呼ぶことにします。)
私たちは読書に限らず、精度の高い情報を受け取ろうと思うと、非常に狭い範囲の視野しか活用することができないわけですね。これは、光を受け止める網膜(視細胞)の機能の問題もありますが、どちらかというと脳の情報処理能力が大きく関わっているのです。つまり、可読視野・可識視野というのは、「眼の視野」ではなく、「脳の視野」というべきものなのなのです。
例えば、通常、可読視野は視野角で5度程度です。それなら本を眼から離して保持すれば、その角度内にたくさんの文字が入ってきて、たくさんの文字を読みとることができるかといえば、答えはノーです。また、本に書かれている文字を眺めた時、行に沿った方向には視野は広がりやすいのですが、行をまたぐ方向では狭くなる傾向があります。これらは経験的に納得できることでしょう。
また、実際に意識でとらえ、文字を読み、情報を判断するのは可読視野という狭い領域でしかありませんが、可識視野や光覚視野で得られた情報を無意識に(つまり潜在意識のレベルで)受け止め、可読視野での判断を支援しています。先ほど、眼をすばやく動かして見ていると書きましたが、目をどこに動かすべきかということを、的確に、しかも無意識に判断できるのはこの周辺部の視野のおかげなのです。逆に、この可識視野、光覚視野を制限するような条件を与えると、的確な、すばやい判断が困難になるのです。
2.固視と跳躍運動
視野についてご理解いただいたところで、眼球運動の話に移りましょう。
通常、私たちは1~3つ程度の文節を1つのまとまりとして可読視野におさめ、それを頭の中で読み上げながら読み進めます。このとき視野は滑らかに進んでいくのではなく、文字の上をとびとびに進んでいきます。飛んでは留まり、留まっては飛ぶ。これを繰り返すのです。
そして私たちの脳が情報を受け取り、処理することができるのは、眼が停留している状態(固視)の時に限られます。これは、時間にすると通常0.3秒程度、把握できる文字数は数文字~10文字程度だそうです。(もちろん、時間、文字数ともにその人の読書能力によって大きく差が出ます。)
逆に、眼が動いている状態(跳躍運動)では、一切の情報が遮断されている(※)といいます。目の前を通り過ぎる文字を、脳は一切認知しないらしいのです。この跳躍運動に要する時間は、たったの0.03秒でしかありませんが、移動を開始しようとする直前約0.04秒から、移動を終えた後の約0.04~0.1秒までの合計約0.08~0.14秒程度もの間、脳は眼からの情報を拒否しているそうです。これは跳躍時抑制と呼ばれ、目の前を超高速に通り過ぎる像によって酔ってしまわないよう、脳を守るための機能と考えられています。ちなみにこの跳躍時抑制の状態を私たちは全く意識することはできませんし、見るという意識作用がとぎれることもありません。その間、脳には跳躍前の視野が保持されているのではないかと推測されています。
※ただし、あくまで「意識」が情報を受け取っていないだけで、「脳」は情報を受け取っているというのが正しい見解のようです。とはいえ、眼の運動能力を高めるトレーニングで速読を実現しようとすることが、どれだけ愚かなことか、これでおわかりいただけるでしょうか?
さて、当たり前の話ですが跳躍運動の幅というのは、そのまま可読視野の幅と考えられます。しかし、前に書いたとおりこの幅(文字数)だけで読みとっているわけではありません。そこでは可読視野の倍近い広さを持つ可識視野が非常に重要な役割を果たしています。脳は可読視野でとらえた情報を把握するために、可識視野でとらえた情報でそれを補っているのです。
固視の状態で文字を読みとりつつ、可識視野で続く言葉を先読みします。この時、視野の飛び先も(ついでに?)決定されます。さらに、移動してから再び、前に読んだ内容を可識視野で反すうしていると考えられます。そしてもちろん、これらの作業はすべて無意識のレベルでおこなわれています。(下図)

3.内声化
特別な訓練を受けていない人のほとんどが、本を読む時、意識、無意識にかかわらず頭の中で発声(音声化)しています。これを内声化といいます。脳の働きという点から言うと、大脳側頭葉の聴覚領域が働いているということになるそうです。これは文字を修得する際に、文字と音を結びつける訓練(文字を読み上げる訓練)を繰り返し受けてきたこと、とりわけ文(文章)を学ぶ小学校段階で、音読を通じて内容や正しく読めているかどうかの確認をしてきたことが大きく関わっていると考えられています。
私たちはこの内声化によらなければ読書の充実感も満足感も得ることができません。いわゆる「腑に落ちる」という感覚が得られないわけです。これが小学校時代からの習慣によって作られたものであろうが何だろうが、そんなことは関係ありません。現実問題としてそうしなければならないのです。(ごく稀に、頭の中で音声化する作業を経ずに理解できる人もいるそうです。そのような人は、本人が普通に読んでいるつもりでも、通常の人とくらべてはるかに速いスピードで読んでいるらしいです。)
4.返り読み・停滞・錯綜(さくそう)
読書をしている人の視野の移動を観察していると、かならずしもスムーズにはいっていません。跳躍運動によってとびとびに動いているという意味ではなく、文章の流れに沿って移動していないという意味です。
この原因は、主に二つ考えられます。一つは集中力の欠如です。通常は文章を読み進めるのに従って視野が自動的に移動していくものですが、集中力がとぎれると読み進めるスピードと視野の移動のテンポがかみ合わなくなるという事態が起こります。意識が取り残されて、眼だけが先にいってしまうという状態ですね。そのずれを修正するための作業というわけです。
もう一つは、一度読んだだけでは内容が理解できなかったという場合です。これは読み手の力量の問題である場合もあれば、書き手の力量の問題の場合もあります。気取って書いているのか、センスがないのか分かりませんが、世の中には、なぜか読み手が読みづらいような文章を好んで書く人がいるものです。これはある意味、避けようがありません。(笑)
この返り読みは無意識に行われることもあります。無意識の作業ですから「返り読み」という言い方は妙かもしれませんね。単なる逆行運動といった方が適当でしょうか。これは、無意識レベルでの作用として、何か情報を補っている可能性はあるわけですが、意識作用としてはまったく無駄な動作に見えます。
このほかにも、とつぜん何かに引っ張られるように視野が途方もないところにジャンプしたり、行末から行頭にジャンプする時に、読むべき行を探すかのようにぶれたりという動きも見られますが、読む人は意識していない場合がほとんどです。
以上、読書のプロセスを4つに区分した上で、そのメカニズムを分析してみました。とりわけ、「認識」と「把握」のプロセスというのは、読書の質や速さと非常に密接に関わる部分なだけに、丁寧に特徴を解説してみました。これらのことをきちんと踏まえた上で「速い読書」を作っていかないと、うまくいきません。
SRRのトレーニングだけでなく、世の中に出回るあらゆる速読術に関する情報を正しく理解するためにも、きちんと理解しておいてください!
(つづく)
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